闘士の心理/箭嶋仁武
〈はああ~~ミユミユ可愛いよミユミユ!!〉
脳内に響く
念声、念じることで
転じて、繋霊したバディの間で可能な交信にも使われる。高速かつ正確な伝達手段はバディとの連携に重要な機能であり、義芭はその扱いが上手い。ただ彼女はこうやって無駄話に使いがちだ。
〈いやだってミユミユめっちゃ可愛いだろ〉
仁武からはノーコメント。確かに深結は昔から可愛らしい女の子だったし、最近ではアイドル的な存在感が増している――けれど、そこに仁武が言及すると色々と面倒なのだ、イマドキの男子学生は。
〈集中しろ〉
〈はいはい、この調子でストレート勝ちしようぜ仁よ〉
〈実験は?〉
練習試合なら負けるリスクを取ってでも新しい戦術を試したい、というのが義芭のスタンスだったが。
〈ミユミユの前だかんね。それにこれから予選もある、負け癖はつけたくないじゃん〉
〈了解〉
そして2本目。
「始めっ!」
合図のクラップが響いた瞬間、仁武は構えつつ発声。他の学生は念声のみで詠唱できるが仁武は苦手だ、よって肉声をセットで用いて補強する。
〈
魔刃での攻撃に必要な霊鋼強化術を、発動直前で保留しておく。他の魔術は使えない代わりに、必要なときに一瞬で発動できるのだ。
一方、漣吾の体からは魔術発動を示す発光。
突っ込んで来る、と仁武は直感。
〈
同時に義芭が見立てた通り、相手は突進しつつ槍を打ち下ろす技を仕掛けてきた。先ほどラインを削られた反省、だろう。
この技は正面から受けても上に跳んでも危険。後隙を狙うのが定石、後退が安全で横に回るのが賭け、だが。
〈止まる〉
〈だな、ディレイしつつ前進〉
仁武の見切りを義芭が肯定する。漣吾が最も警戒していたのは仁武の前進であり、ゆえに仁武の現在地よりも手前に狙いが定まっていた。つまり仁武が動かなければ空振る。
〈なのであっちは追加の
義芭の読み通り。あちらの繋援士・乃愛は攻撃途中の漣吾を運動魔術で後押しして軌道を修正する。その魔発ノイズを確認したところで仁武は左前方へ移動。ちょうど、相手の穂先をくぐりぬける形だ。
〈
仁武は身を屈めつつ、本太刀を振り上げる構えを取る。打ち下ろされる柄を斬り上げる技の前兆を相手に見せる、すると相手は方針を変えるはずだ。
〈あちらに跳ばす。
漣吾は跳躍。仁武の空振り後を狩るつもりだ、いい対応である――こちらの読み通り、という点を除けば。
〈
義芭の詠唱。肉声での基本形詠唱が必要な仁武とは違い、彼女は念声での省略形だけで詠唱を済ませられる。シンプルに魔術の上手さの差だ。
彼女の宿精霊が魔力を練り、連繋された仁武の宿精霊がそれを受け取る。そして宿主である仁武の体を起点に効果を発揮する。
ぐい、と体を前に引っ張る猛烈な力。その力を借りて素早く、その力に崩されないよう姿勢を調整し、仁武は前へと駆けだした――義芭は練習通りの出力で魔術を使っている、ならば仁武も練習通りに【迅駆】ができなければ。
上に跳んだ漣吾の足下を低い姿勢ですり抜け、敵陣を突破する狙い。同時に視覚の半分を義芭側に切り替える。連繋の利点の一つ、感覚の部分的共有による死角のカバー。
「う、おおっ!」
漣吾はまだ食らいついてきた。空中でさらに運動魔術を重ねて体勢変更――そこから突いてくるか。けど軌道は見えやすい、躱してから柄を狙うかと判断しかけた仁武を違和感が襲う――魔発ノイズからして、魔術で槍自体を加速する操槍系。
緊急回避は左、という取り決めに従ってステップ。
〈
さらに義芭の魔術が発動し仁武を加速、一瞬前の位置へと槍が飛んでくる。仁武の予測よりも早かったが、避けたからといってまだ気は抜けない。
〈防げ、魔刃にはあたしが流す〉
義芭から指示。仁武は刀を正面に構え、槍での追撃に備える。合わせて義芭が省略形で霊鋼強化術を発動させる。
〈
しかし突き出された槍は素早く後退していく、柄を狙われるのを嫌ったのだろう。
ともかく、相手の攻撃が途切れた。この隙に陣戸へと駆けこめばこちらの勝ちだが。
〈突破か?〉
仁武が問いかける。義芭が答える。
〈行け、突かれたら狐旋斬だ。天を読まれたら地で〉
仁武は相手方の陣戸へとダッシュしつつ、義芭から共有された視界で背後の漣吾をチェック。着地した彼は、仁武の背中へと槍を構えている。
繰り出されるだろう技は突進系の【穿進槍】だ。先ほども使用した、空中で身を捻って斬り下ろす技でカウンターが決まる。
漣吾が地を蹴り加速。攻撃を引き付けるためコンマ数秒ほどダッシュを続けてから、飛び込むように跳躍。空中で倒れ込むような姿勢で、義芭の魔術を待つ。
槍がまっすぐに突き出されるなら、上昇する魔術を挟んで上から反撃。
それを嫌って上を狙うなら、降下する魔術を挟んで下から反撃。
〈
義芭が見極めたのは後者だった。空中の仁武は下向きの加速度に捉われつつ、身体を捻って上を向く。間髪入れず、義芭から次の魔術。
〈
ぐっと下がった仁武の身体が急減速、浮遊に近いゆるやかな落下へ。猛烈なGに全身が不快感を訴える中、仁武の目の前を槍が通過。狙い続けた、好機。
「
仁武自身の詠唱、待機させていた霊鋼強化術を発動させながら、身体を捻る勢いを刀に乗せる。突き出された槍の柄を、確かに捉えた。
「武壊、一本、そこまで!」
審判の宣言。仁武は受け身を取りつつ着地。漣吾も魔術と両足ブレーキを掛けつつ、仁武を避けて側面の金網へと倒れ込んだ。
「仁武、怪我は?」
「……問題ない、お前もか」
「大丈夫」
お互いケガなく二本先取、仁義デュアルのストレート勝ちである。
〈はいお疲れ、切るよ〉
義芭との連繋が切れる。感覚が一人分になったのを確かめてから闘技路を抜け、義芭と合流。
「エアでの操槍、すごかったね」
義芭が呟いたのは、仁武が気になっていた相手の技だ。槍を腕で引いてから突き出すのではなく、魔術で加速させることで相手の予想よりも早い突きになる――演武でも見せた技だが、空中で運動魔術を連発してから繰り出してくるのは相当に難しい技だ。
「ああ、さすが優等生だよ」
こちらが勝てたとはいえ、相手からの学びも大いにあった。自分の未熟さを戒めつつ、義芭と共に対戦相手と向き合う。
「ただいまの試合、仁武・義芭デュアルの勝利。礼」
本番通りの作法で試合を締めくくった後、陽駆先輩は一年生の方へと向き直る。
「これが本番の試合だよ。一瞬一瞬に込められた技術と情熱、よく伝わってくれたと思う」
どこからともなく、一年生の間から拍手が湧く。
「これからみんなが学ぶ理論と実技の先に、先輩たちの見せた技がある。それを忘れず、また明日から真剣に取り組んでほしい」
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