大団円 外伝

 私のなかで、学校という記憶が始まったのは、人間がその時代を明治と呼ぶようになった頃だった。


 その時の皆は、生き生きとして、私を作る事に。

 学校建設に、携わった事を誇りにしていた。


 時代は長い封建ほうけん国家から、近代国家の仲間入りとして、その槌音つちおとは心地の良いものだったらしい。

 そう言えば礎石そせききざまれた、和歌も、印象深いものだった。


 開学の式典は大層たいそう大賑おおにぎわいいでお祭り騒ぎだった。それほど嬉しかったのだろう。

 小さい子供たちが、風呂敷ふろしきに勉強道具を包み喜々ききとして集い、学びそして、色々な思い出をつちい、そして巣立すだっていった。

 何度かの大戦をくぐり抜け、校庭を畑にしたり、金属を供出きょうしゅつしたりと。


 時代の荒波の中では、色んな事があった。


 本当に。


 そんな中でも、子供たちは、学ぶことを、皆で集い思いをつむぐ事を止めなかった。


 そしていくつの、桜の咲き散りを見た事だろう。


 時代は、豊かになり、赤や黒のランドセルから、それはそれは、色とりどりのランドセルを背負った子供たちが、校門をくぐるのを見ると、とても幸せな気持ちになり、彼ら彼女達の未来に希望に満ちますよう、祈らずにはいられなかった。


 だが、ある時ぱったりと子供たちが集わなくなった、どうしたことだ。

 あの時代の荒波を越えた人間が。子供たちが。


 ああ、花壇の花や木々が枯れてゆく、雑草が、私を蝕んでゆく。

 四季を愛でるものが居なくなった。

 私を置いて、皆どこへ行ったのだ。


 世の中がどうやら、流行り病と言うもので、世の中全体が止まってしまっているらしい。


 だが。


 私を一人置いて何処へいくのだ。

 まさか、捨てるのではないのか。



やがて、しばらくすると、

 多少は戻ってきたようだがもう遅い、私は捨てられたのだ。


 そういえば、私と同じ時期に植樹された、桜や梅が居るではないか、散らずに一緒にいてくれないか。

 散らさず、居させてあげるから、君たちの願いを聞いてあげよう、何、ボールが枝に当たって困っていると。よし任せなさい。


 むむ、古の春の女神がしゃしゃり出てきておるな、秋の女神の嫉妬心を利用して、困らせてやろう。


 人間など入ることは許さぬ。


 おお、今度は何だ、何だ。

 子供たちが、花壇を、そして私につながる公園を、さらに全国の学校を。

 おお、以前の様に戻してくれるのか。


 光る鍵を使って。

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