第14話 學校と公苑と 4

 モモちゃん先生は、シートベルトを装着して、手袋をはめて、それも指先のない革の手袋。

 こんな手袋F1の動画でしか見た事が無い、実物は初めて見る。

 すると、

『シートベルトつけた?いくよ!』

 と大きな声で、いつもの先生じゃないみたい。


 後ろの席ではクスクスと笑いながら、女子三人組が相変わらず、『コーちゃん』って、意味も無く僕の名を呼ぶ。

 ぼくは何だかずっと恥ずかしくて、何か話をしなきゃと思ってモモちゃん先生に話しかけた。

『学校が休校になったってどういう事なんですか。』

 タイヤが横滑りしてキュキュキュとすごい音がすると、急カーブを曲がった。

 その度に。

 僕たちは車の中で右に左に、シャッフルされたみたいに車の座席で激しく揺れていた。

 佐保姫は女子の後ろの荷物置き辺りでフワフワ浮いていたけれど、

『わらわの時代は、牛車で移動していて、雅なものだが。

 こんな、激しい乗り物は、はじめてじゃ。』

 と、扇をひろげ、口元にあてながら言った。


 僕たち四人と佐保姫を乗せた車は、モモちゃん先生の激しい運転で学校に向かった。

 モモちゃん先生は僕の質問に答えた。

『どうやら、学校に入ることも、出ることも、出来なくなったってことくらいしか連絡が無いの、』

 カーブを曲がって、右に体が動いて。

『以前から、不思議な事がたくさん起こっていて思うのは、

 佐保姫が言ってたとおり、この学校と公園はある意味繋がっていると思う、

 さっきの画像、写真見たでしょう、多分あれがヒント。

 明治初期、ほぼ同時期に、学校と公園は新たな時代へと、国が変わりつつあった、学ぶこと、や憩いといったことが等しく平等に、国民のものになった』と言ったかと思うと、急にハンドルを切って、

『あの写真の笑顔は、みんな平等に学ぶことが出来る、そんな喜びのあらわれかも。』

 佐保姫は、

『そして長い間年月を掛けて、その思い思いが折り重なりパワースポットとなっていった。』

 学校に近付くと、なんだかパトカー、や救急車、空にはヘリコプターや、マイクや、カメラを持った人が校門の前に、人だかりが出来ていた。

『ここじゃ駄目ね。』

 と言って、裏門の方に回った、

 宮竹さんがネットを見ながら、

『みて、このニュース。』

 そう言って、見せてくれたのは、検索した新聞社や、全国ネットのテレビのニュース、そこには全国のあちこちで、公園や、学校に異変が発生している事だった。

 それはモモちゃん先生が言っていた通り、学校や公園に入ることや、出ることが出来なくなってしまった事件の事で一杯だった。

 車を停めると、数人の先生と、逢佐古コーチがいた。

 僕たちが車から降りてきた事に気が付いて、

『学校が、大変な事になったと聞いたから、慌てて見に来たんだが。

 君たち桃田さん、いや桃田先生の車に乗ってきたの、大丈夫だった?彼女とっても車の運転すると、人格変わるから。』

 と言ったところで、先生は。

『シー、黙ってて。そんなことないわよ、ねー。』

 と、同意を求められた。

 でも、僕たち四人と佐保姫は顔を見合わせて、何て言おうか迷っていた。


『あ、桜の精と梅の精。』

 と、先生は誤魔化すように、校庭の方を指さした。

 確かに、桜の精と、梅の精が校庭を右往左往慌てているようだった。

 そして、僕たちに気が付くと近く、傍までやって来て言った。

 当然、先生、佐保姫、園芸部の僕たち四人以外は見えないが。


『佐保姫様、大変です。龍田姫様が。』

 確か、龍田姫と言ったら、秋を司る女神。

 佐保姫が以前言っていた。

 和歌にもよく詠われている女神。

 でもまだ、秋には早いはず。


 そこまで言うと、一呼吸置いて。

『ご乱心なされました。』

『えっ。』

 一番声を上げたのは佐保姫だった。

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