第7話 ボールと、さがしもの 2

 やっと、日曜日、天気もいいしサッカー日和びより!ずっと待ちに待っていたサッカー昨日から、もう、うれしくて、うれしくて、また、お母さんに、サッカーボールと一緒に寝ていたから怒られちゃった。


 朝ごはんを一杯食べて、エネルギー満タン、そして、お母さんが作ってくれたお弁当をリュックに詰めて。自転車にライドオン!

 クラブチームのホームグラウンドは僕が通っている我賀田わがた小学校のグラウンド。

 だから学校へ出発。

 学校の授業に行くわけじゃないから、自転車でも大丈夫。


 校庭には、もうすでに何人かメンバーが来ていて、ドリブルとか、パス回しとか自主練習をしている。

 早速、ラダーやマーカーコーンを並べて、ミニハードルとリバウンドネットをセットして、コーチが来るのを、準備運動とかしたりして待っているうちに、一年や、二年の下級生がやってきた。

 お父さんや、お母さんとか保護者の人に送ってもらってるみたいで、駐車場は、車で一杯。

 そのうち、逢佐古おうさこコーチの車がやって来てオーイと、手を振ってやってきた。


 やっぱり元日本代表はかっこいいなーと思った。イケメンだし、元々この小学校の出身で、日本代表で活躍した後、ここ地元に戻って、僕たちにサッカーを教えに来てくれている。

 先生になりたかったって、自己紹介の時にそういっていた。こんな人が先生なら、いいのになー。


 コーチは、ボールを抱えて、走ってきた。息を切らしながら、『すまんすまん』と言いながら、ボールを地面に置いて、『さあ、準備体操!』といって、みんなをグラウンドに整列させ、練習に入った。


 準備運動も終わり、ドリブルの練習、パス、トラップ、ボールタッチ、そしてシュートの練習。

 息が上がって、とってもつらいけど、それ以上に面白くて自分がもっともっと、上手になりたくて。

 そして、少しでもボールを触っているのが、とってもうれしいし、楽しい。


 対人練習でパス廻しの時に相手をドリブルで抜いた時なんかは、とっても嬉しい。


 あっという間に、休憩時間になって、水分補給の為に荷物を置いている自転車のところに行くと、あれっ。


 同じクラスの松根さんが居た。なんで?


 松根さんが、保護者の見学エリアで、折り畳み椅子か何かに座って、白い日傘をさして、ずっと、グラウンドの方を見ていた。


 ぼくは、なんでいるのかなって不思議に思いながら、特に声を掛けることも無く、休憩時間が終わり、グラウンドに戻った。

 今度は、下級生とのパス回しの練習、去年から入ってきた新しい下級生相手に、上級生の上手さを、見せつける時がきた。少し張り切ってしまう。

 グラウンドの端まで言って、今度は折り返し。

 下級生が少し、パスの蹴りだしの力と、コントロールが外れて、僕のずっと何歩も前に、前に、転がっていった。


 追いつくことが出来ずに、そのボールは保護者の見学エリアまで転がっていった。

 うわー待てーと思いながら、ボールに追いつき駆け寄ると、そのボールは保護者席にいた、松根さんのところまで足元まで転がっていった。


 日傘をさしていて、つばの広い帽子をかぶっていて、折り畳みの椅子に座っていた。


 学校で会う時と、休みの日に会う時って、不思議と、なんだか違う人に会っている感覚になってしまう。


 彼女の足元に転がったボールをぼくはどうやって拾ってもらおうか、と走りながら考えていたら、松根さんは立ち上がって日傘をたたんで、椅子の上に置いて両手で、ボールを拾い上げて、僕が来るまで、ずっと持っていた。


 やっと追いついて、息を切らしながら、ありがとう、と言うと小さい声で『はい。』と、不器用にも、両手でポーンと投げてくれた、丁度足元に落ちたので、トラッピングして、受け止めた。


 そうすると、後ろから、追いついてきた、下級生が、『ゴートゥ君、すみませんでした』としっかり声掛けをしてきたので、『大丈夫、大丈夫丈、ドンマイ。』と振り向いて声を返事すると。

 下級生は『あ、おねいちゃん』と、松根さんに。


 彼女は慌てて、椅子に置いてある、傘を広げて顔をかくした。


『あれー』、と言いながら下級生は、松根さんの日傘の中をのぞくようにして『あっ、ゴートゥさんて、おねいちゃんの彼氏ー?』ってニヤニヤしながら言うもんだから。


 僕は、『えっっ』と言い、固まってしまった。


 それよりも松根さんは、バッと日傘を上げると、それまでの松根さんの声の音量の何百倍の大きさで、『しょうごー!』と言いながら、そのしょうごと呼ばれた下級生を追い駆け出した。


 土煙つちけむりを巻き上げるほどのスピードで、その顔は赤い絵の具と同じ位と真っ赤にしながら、僕たちの練習しているグラウンドを横切り、俊足しゅんそくと言われているミッドフィルダーを追い越す勢いで追いかけていった。


 しばらくして、すごい息遣いきづかいいと、汗で戻ってきた、彼女は、『ごめんなさい、うちの弟が変な事を言って。』と言ってまた日傘をさして、顔を隠すようにしていたけど、その日傘はすごい上下していた。



 練習が終わって、帰ろうとした時、やっぱりボールが足りない、って誰かが大声で言ってたので。

 クラブのみんなで、ボールを探すことにした。グラウンドの端の鉄棒や、砂場のエリアから野球のバックネットのある端。

 朝礼台のある真ん中から桜や梅の木が並んで咲いている端まで、校庭の外の茂みまで探してもやっぱりなかった。ボールの数えてみると、数が減っていた。


 逢佐古おうさこコーチが練習も終わったのにグラウンドの隅の桜の木の下や、梅の木の下をウロウロしてた、なんだろう、と思いながら、コーチの名前を呼んだら『オー、気を付けて帰れよー』といってくれた。

 何をしてるのか聞いてみると、『ボールがないかもう一度探してる。』と言ってまた、木の茂みとかを探していた。続けて、『お前たちはもう帰れ、時間通り帰らないと親御おやごさんが心配するから。』と言って手を振ってくれた。

 自転車置き場に行く途中で、モモちゃん先生が校庭の端っこから、体育館の裏の園芸部の花壇に行くのが見えた。


 やっぱりお休みの日にクラスメイトや、先生に会うのはなんだかやっぱり不思議な気持ち。

 休みの日でも、園芸部の事が気になるのかな、と思って、僕もモモちゃん先生のところに自転車で駆け付けた。


 この小学校の周りには、梅と桜が年度毎に卒業生が、交互に植樹しょくじゅしていて、今は、学校の周りをぐるりと取り囲んでいる。

 花壇の近くにある、その一本の木の下で木を見上げている、モモちゃん先生がいた。

 近付いてくる僕に気が付いたのか、『きょうは、サッカーの練習?ごくろうさま。』と、ニッコリ笑って言った、やっぱり、先生と言うより、親戚のお姉さんて感じ。

 そして、今まで見上げてた木を、もう一度見直して。

 綺麗きれいな梅の花ね、梅の花だったら、こんな和歌があるわ。と言ってみだした。

『「東風こち吹かば 匂い起こせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」って菅原道真すがわらのみちざねって人がんだ歌があるの。

 要約すれば、春の風が吹いたなら、香りを送って下さい。私が居なくなっても春を忘れないで下さいって。

 生まれ故郷を遠くに離れ、太宰府だざいふと言うところに、移った彼は、故郷を思いそう詠ったの。』

『へ~』と僕が言うと。

 モモちゃん先生は続けて。

菅原道真すがわらのみちざねがなぜ学問の神様と呼ばれているか、また、生まれ故郷を遠く離れた太宰府だざいふにいかなければならなかったか、機会があれば調べてみるのもいいかも。』といって、『宿題じゃないし、興味があればね。』とつづけた。

 そして、もう一本の木に歩きながら近づき。

『それと桜は、

「桜のはなの散るをよめる」

「ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心しずこころなく 花の散るらむ」って紀友則きのとものりっていう人が日の光の、のどかな春の日に、心落ち着かず桜の花は散ってしまうのか。

 とはかなげにうたっているの。』

『この、この時代は花と言えば桜なの。』そして、

『奈良時代の万葉集は梅を詠んだ歌がたくさんあって、このころの花といえば梅、平安時代の古今和歌集の時代になると桜の花を読む歌が増えてくるの。』


『へ~』と思って、桜と梅の木の下で、桜の花と、梅の花を見ていると。

『また和歌を詠んだわね。』と声がした。


 振り返るとモモちゃん先生の後ろに佐保姫さほひめが立っていた。


 そして、その隣には女の人が二人、一人は梅の花をあしらった、着物。もう一人は桜の花でできた髪飾かみかざりりをつけていた。


 そして、『モモちゃん先生、何か隠してることない?』と佐保姫さほひめはモモちゃん先生に言った。

 佐保姫さほひめのセリフと。

 急に現れた女の人、二人。


 僕は『エッどういうこと』、と混乱した。


 そして、もっと混乱するセリフを佐保姫さほひめは言った。


『あの、サッカーのイケメンコーチ。同級生なんでしょ。』

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