第3話 鍵と白い影 2

 あの、白い影の事がどうしても気になって、鍵もその時、落ちてきたことを知ってもらいたいと思って、もう一度みんなに、聞いてみたけれど誰も知らないって。

 おかしいな、と思っていたら、物置の中から「男子ー、手伝ってー。」と先生と三人が声をそろえて、言ってるので、心の中で、「オレの名前は男子じゃねーし、後藤ごとうだし、コージだし。」と言いながら、中に入っていった。薄暗うすぐらい物置ものおきの中、奥の方で先生と二人の女子。入り口付近に一人。

 レーキとかクワとかが、入り口の左側の壁に渡している、鉄の棒に二本と三本それぞれ引っ掛けていた。右側には、一段たなを作っていて、たなの上には、なんだか小さい袋に入った何か、何だろう三つほど重なっていた。あと、さびほこりで汚れている昔、お菓子の入っていた古い缶、クッキーの缶かな、その他、箱が、一杯置いてある、中になにが入っているのだろう、その棚の下にはホースリールが一つ、先にはホースノズルがついていて、ホースリールの横には、長いホースを、何重なんじゅうにも巻いている状態で、地面に直接置かれていた。じょうろも三つほど、重ねて巻いているホースの上に置かれていて、巻いているホースがつばめの巣のみたいで、じょうろがまるで巣から顔を出した、つばめひなの様でなんだかおかしかった。

 女子が一人入り口付近に掛けているクワかレーキを取ろうとして、を一生けん命、引っ張っている、たしか、 えっと、あ、松根さんだったけ、強く引っ張るだけじゃダメ、一度上に持ち上げて、引っ掛けから外さなきゃ、と少し緊張しながら、近づくと、彼女はすごくびっくりしたように固まった、僕も女の子に近付くのは苦手なので、僕も固まってしまった。彼女は、上目遣いで僕を見て、眼が合ってしまって、松根さんはそのままスススとすり足で、パソコンのポインターが画面を移動するように、何メーターもバックして行ってしまった、奥にいる二人と先生にぶつかって、どうしたの松根さん、っていわれていた。で、僕の方に、たぶん百合川ゆりかわさんだと思う。オレは、あまり女子の顔をマジマジみないので、人の顔と名前が一致するまで、すごく時間がかかる。たぶん百合川ゆりかわさんだ、彼女が、松根まつねさんを自分自身の後ろにかばい、キッとこっちをにらみこう言った。「男子!松根まつねさんに何か変な事したの?松根まつねさんをいじめたら承知しょうちしないわよ!、この子、自己紹介でも、男子が苦手って言ってたの、覚えてないの。おとなしい子なんだから。気を付けなさいよ。」と腰に手を当てて仁王立におうだち。松根まつねさんは、その背中からチラチラ見えるけど、背中を向けているのか、どんな表情か見えない。俺は「エー!」と思って、「いじめるなんてしてねーシ、鍬かレーキを取りづらそうとしていたから、手伝っただけだし、」と心の中で、叫んだけど、言葉がうまく出てこない。男の友達なら、大声で、ワーワー言えるけど。女の子の怒られるなんて、女の人に怒られるなんて、先生かお母さんしかいないから、なんだかとっても変な感じ。だから、うまく喋れないのかな。「えっと、えっと、」って言っている間に、百合川ゆりかわさんは、重ねて「この子はすっごくおとなしいから、よく男子にいじめられるって、聞くから、私が、言ってあげてるの。」で、おれは、「えっと、えっと、」と二回目の「えっと、」を言ったところで、「ゴトー君は、サッカー部に入れなかったから、腹いせにいじめてるんじゃないでしょうねー。」そこで、三回目の「えっと」」を言うところで、松根まつねさんが百合川ゆりかわさんの腕を引っ張り、百合川ゆりかわさんの耳元に顔を近づけ何か、「ごにょごにょ」しゃべっていた、「エッ」といって、百合川ゆりかわさんは俺の顔を見直し、「クワか、レーキが取りづらい所を手伝ってたの?なら早く言ってよ。でもね、ゴトー君も急に近づくから、びっくりするの、ゆっくり分かるようにちかづいてよね、本当に!」ってまるで、おれが、手伝ったことが、悪いように言われてしまって、なんだか意味不明なんですが。それに松根まつねさんも、早く言ってよーとやっぱりオレは、心の中でさけんだ。



 奥の方で、もう一人の女子、えーと確か、宮竹みやたけさん、だったと思う、シャベルや、かくスコップとショベルをもっていた。先生と一緒になってどっちを使うか話をしているみたいで、「ももちゃん先生、どっちを持っていきますか?」「うーん両方持っていこう。」と近寄ってみると何やら、そんなことを言っていて、一輪車いちりんしゃ荷台にだいにスコップやら、かくスコップ、先のとがった、シャベルをどんどん荷台にだいに積んで、近づいた俺に宮竹みやたけさんが「さあ、男子!よろしく!」と言って俺に一輪車いちりんしゃのハンドルを待たせて、「これを花壇かだんまで運転、お願い!」運転というのか、押すというのか、タイヤが、一本しかないので、とっても不安定で何回か、ひっくり返そうになった。フラフラするたびそのたびに「しっかりー」といって、声援を宮竹みやたけさんが。もう!おれは、こんなの初めて、押して運ぶんですけど!と心の中で、言いながら、口では、「このっ、このっ!」とふら付くたびに声は出てるみたい、そうすると先生は、「ゴートー君、この一輪車、何ていうか知ってる?」と話しかけてくる。こっちは、初めての運転でで、フラフラなんですけど!、と思いながら、「何て言うんですか?」と、聞いてしまった、そこで、すかさず、「ネコ車!」と元気よく答えたのは、手ぶらで後ろについてきている宮竹さん。「手ぶらじゃんもう!」と思いながら、この一輪車いちりんしゃが、ネコ?あのニャーって鳴く?と思っていたら、「よく知ってるねー」と先生、その間もおれは、フラフラと前進している最中さいちゅう。やっと物置の出口にかり出ようとしたら出口の段差だんさにタイヤが乗り越えられない状態だったので、勢いを付けるのに少しバックして、勢いを付けて、前進して、を繰り返しているうちにバランスを崩して、ひっくり返してしまった。「あーあー」と言って、先生と宮竹みやたけさんはひっくり返って、荷台からこぼれた、スコップや、シャベルなんかを拾って、「そう、丁度ちょうど荷台をひっくり返した、ところが、ネコの丸まった状態に似てるから。」と宮竹さんは言って、そして、「諸説しょせつあり!」とうれしそうにいった、先生。

 モモちゃん先生、それ、言いたいだけでしょ。と思いながら、もう一度、一輪車を立て直し、スコップを荷台に積んで、歩き出した。なんだか、花壇かだんまで、遠く感じて仕方なかった。草が生い茂っている花壇かだんが、眼の前なのに、あっちフラフラこっちフラフラしていると、うしろから、宮竹さんと先生が「頑張れ男子!」と応援?応援してくれている。


 広い花壇かだんは、草が伸び放題で、荒れていた。元々、何か植えていた形跡けいせきはあるけど今は、その見る影もない。その近くに一輪車、ネコ車に積んでいるスコップやそのほかの物をおろして、先のとがったかまとか、刈込かりこみばさみは危ないから、シャベルとか、スコップを使って、草の根っこから引き抜くようにしなきゃいけない、でなかったら、また、ぐ草が生えてくるというから、軍手ぐんてをみんなつけて、草むしりを始めることにしたんだ。草が冬を超えて、枯れ草になっていて、それでも地面が見えないくらい。


 草をむしってると生えている、土筆つくしを発見した。



 これ、土筆つくしですよね、とモモちゃん先生に見せると、「そうそう、土筆つくしっていって、土にふでって書いて、書道で使う筆に似てるから、そう言われてるらしいって。それに、つくだ煮にして、食べることもできるんだって。」「へーっ」っていって感心していたら、「土筆つくしは春の訪れを昔の人はね、鎌倉時代の『藤原為家ふじわらのためいえ』という人がこうんでいたんだよ。

佐保姫さほひめの ふでかとぞ見る つくづくし 雪かきわくる 春のけしきは』って、『春になって雪をかき分けて生えてくる土筆つくしは、春の神様、佐保姫さほひめが使うふでの様だ、』って意味なんだけどこう見ると、筆の様にみえなくもない、よね、」ってモモちゃん先生。


「へー」と言いながら、その手に取った土筆つくしをまじまじ見ていると、『ありがとう』と、どこからか、声が聞こえたかと思うと、枯れた草を抜いたりしている途中の、花壇かだんに、白い影が、するすると集まってきたんだ、今度は、僕だけじゃないももちゃん先生も、松根まつねさんや宮竹みやたけさん、百合川ゆりかわさん、みんなの目の前で白い影が現れて、その影をみんなが見ていると、どんどん周りから、白い影が集まりだし、それは、やがて、人の形になってきたんだ。

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