家事

  家事なんて余裕でできる。俺は全ての家事を手伝ったことがあるし、普段から何か一つは手伝っている。あんな雑事で働いている感を出すのはどうなのか? それが俺には不満で理解できなかった。

 休日の日曜日、昼頃に起きてきた俺に家内は大切な話があるとリビングの机へと向き合った。


「それで……何だ」

「離婚しましょ」


 良き夫を自認する俺に、家内が告げたのは――離婚だ。原因は家事を手伝わないから。それ以外にも諸々が重なった上での事だが、大きいのそれだった。あんな雑事ごときでなんでこんなことになるのかまるで理解ができなかった。

 家内がいても雑事を俺の代わりにやってくれるだけ、愛情の枯れた俺たちの関係では冷たいようでその程度だった。雑事は全て、俺一人でも問題なくできる。


「そうか」


 ただ一言、それだけで俺と家内は離婚した。

家内がいなくなって1日目。めんどくさいがあの程度の雑事、大したものではない。

家内がいなくなって一週間後。洗濯、洗い物をまとめて一度にして雑事をする頻度を下げた。手際は良くなったはずなのに、雑事をすることを思うとめんどくさいという思いが強くなった。

一ヶ月後。食事の回数を減らして洗い物を少なくする工夫をした。服も臭ったり、汚れたりしていなければ、もう1日着るようにした。

一年後。俺はいったいどうしてしまったんだろうか? 自分でもなぜこんなことになってしまったのかが分からない。ただ、この時には台所には使用後の食器が洗われるのを待っていて、洗濯機の中で乾燥された衣服が取り出されるのを待っている。部屋の中にはあとでまとめて捨てようと思ったゴミが散乱していてとても家事のできる人間の部屋ではなかった。

 今では家事をする気力さえもまるで湧いてこない。もう遅い、そう分かっていても俺は家内の今までの献身を強く感じた。

 家内が去って、使っていない家内の自室だけがゴミの溢れた部屋の中で清涼感を今も出て行ったあの日の状態のままに保っている。この部屋だけは聖域のように他と比べて綺麗だった。


「こんなことをしても無駄なのにな」


 山が崩れて聖域へと侵食するゴミを集めては袋の中に詰め込んでいく。この部屋だけは汚したくなかった。部屋に残された俺の隣に佇む彼女の姿は今も変わらず、翳りのなく微笑んでいる。

 何かの間違いで家内が帰ってきてくれないか? 今では彼の心はチャイムの音だけで乱れていた。


――ピンポーン

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