第20話 天才の本気

「…チッ」


 背中の痛みを感じながら、私は舌打ちをする。


 しばらく戦闘して、わかったことがある。正直、奴の実力を舐めていた。彼はもともと強かったとはいえ、それは学生時代の話だ。数年分の差を、ひっくりかえせるとは思えないからだ。


 彼に対する認識を、改めざるを得なかった。


「おいおいおい、こんなものか?もう少し本気を出したらどうだ?」


 彼は剣を振りつつも、まだ喋っていられる程の余裕があるようだ。それをいなしながら、剣を振り下ろした隙に、彼の腹に一発蹴りを入れた。威力は少ないが、距離を取るのには十分だった。


「天奏CodeコードⅫ_形式変更モードチェンジ


 私は手に持っている杖に魔力を込め、内蔵してある魔法陣を起動させる。すると、その杖は形を変え、一本の槍へと変化する。


 その直後、ジャックが私に剣を振り下ろそうとするが、もう遅い。その槍をもう一度握り直すと、衝撃波が放たれ、彼を吹き飛ばす。何度も使えるわけではないが、威力は十分だ。


「これで、どうかしら?」


 私は持っている槍、CodeコードⅫをやつに向けつつそう答える。


「いいね。最高だ」


 私の意思に応えるように、彼の目の色が変わる。それとともに、全体の緊張が高まる。


 先に動いたのはジャックだった。私に向かってその剣を振り上げる。私はそれをかわし、背後へステップを取り、彼に突きをいれる。それが彼の剣に当たり弾かれた直後、私は彼へ雷を放つ。近距離での魔法であり回避はできないが、魔法障壁で受け切られた。一瞬距離が開くも、ジャックが反動で動けないうちに助走をつけて全力で突く。


 弱点に向けての一点集中。その槍は心臓を貫き、彼の命を刈り取ったように思えた。


 しかし、彼の眼の色は変わらない。その瞳には、まだ闘志が残っている。


「はぁ?なんで生きてるのよ?」


「ご生憎さま、死ねないようになってるんだ。楽しもうぜ、この戦いを!」


 彼との決着は、まだまだ先になりそうだった。



___少し前、魔都地下第三層_魔核管理室にて



「___ええ、侵入者は5人。うち2人は地下室まで落ちたようです。それと、外に2つ、大きな魔力の反応が2つあります」


「・・・ほう?それは何者だ?」


「過去のデータから推測するに、1人は元魔神討伐メンバーの1人、フォーレイ、もうひとりのデータはありませんが、魔力の形跡から死神だと考えられます。」


「報告ご苦労。引き続き監視を頼む」


 魔力による通話が切られた。この都を乗っ取るのに比べたら苦労はしないが、この仕事もこの仕事で疲れるものだ。まあ、危険度が低い分、支払われる給料は少ないが。


 そしてそれと同時に、この結界を維持している、魔核の管理も仕事の一つに入っている。これが破られると、上司が言う計画には大きな支障が出るらしい。何でも、もう大半の仕事は終わっているそうだが。


 異常がないことを確認し、私の席につく。そういえば、一つ上の階層に、何やら禍々しい雰囲気をした像があったが、あれは何だったのだろうか?


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