憂鬱

──あーめんどくさ

会食当日の朝、玉緒は内心でそうぼやいた。


元々報道をしたくてキー局を受けたがそれは全部落ちた。仕方がないからタレント業専門の社員として就職し、社員にしてタレントという妙なキャリアをスタートした。それは給料は安くても汚れ仕事をしなくて済むという目論見があったからだ。


だがそれは甘い見積もりだった。確かにグラビアみたいな仕事はなかったが、代わりに戦隊モノとかTVバラエティとかの仕事ばかりになった。


──私は報道がしたいの!

そうは言っても難しい。元々キー局などでキャスター経験があれば別だが世間一般での玉緒の評価はただのハーフタレントである。また時期も悪かった。ハーフタレントなど既に十代の若手で溢れ返っており、大卒の彼女はその意味でも不利だった。


さらに言うと玉緒の容姿も不利に働いた。顔は確かに美人ハーフなのだが、その顔つきは男顔で、有体に言うと気が強そうに見えた。さらに彼女は地毛が完璧な黒髪なのも不利だった。世間一般でのハーフのイメージは金髪や茶髪である。


一時は髪を染めようかとも考えたが、それこそ本来の希望である報道から離れる事になると思い留まり、結局中途半端な状態で仕事を続けた。


そんな状態でも続けるうちに彼女の個性はだんだんと評価されるようになった。わりと普通にキツイ事を言う美人という評価で。うるさいわ!


だが世の中なにが起きるか分からないもので、そんな「キツイ女」なら酒とか似合いそうとでも思ったのか、全く予想外のカガリヤのCM一年契約の仕事が振って湧いたのである。その吉報は本人よりも事務所のほうが狂喜した。


──ありがたいけどさあ

玉緒はそう思った。


この頃玉緒は社員から専属タレントへと契約を変更していたのでCMの仕事は単純に収入的にありがたい。とはいえますます報道から離れていくような気もする。それにカガリヤの会長、というより筆頭株主なんてどこに地雷があるかも分からない。


──普段通りにするわけにも行かないし、大人しくしてるのもなんだし

そう思うとやっぱり憂鬱だった。


「ま、これでいっか」

玉緒は姿見に映る自分を見てそう独りごちて部屋を後にした。

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