桜色の旋律

ここあ @PLEC所属

旋律の序章

高校生編

第1話 出会いの序章

春の陽光が降り注ぐ新学期の朝。

桜の花びらが風に舞い、校庭を淡いピンクに染めていた。高校2年生の佐藤さとう芽衣めいは、友人たちと笑いながら教室へと向かう。

「芽衣、新しいクラス楽しみだね!」

「うん、どんな人たちがいるのかな?」

笑顔で答える芽衣の目に、教室の窓際で一人佇む少女の姿が映る。

長い黒髪が微かに揺れ、その横顔はどこか憂いを帯びていた。

ホームルームが始まり、担任の山本先生が前に立つ。

「皆さん、新学期おめでとうございます。今日は新しいクラスメートを紹介します」

扉が開き、先ほどの少女が静かに入ってくる。

「今日からこのクラスに転入してきた、高橋たかはし莉奈りなさんです。皆さん、仲良くしてくださいね」

莉奈は軽く一礼し、無表情のまま席に着いた。その静かな佇まいに、クラスメートたちは少し困惑した様子だった。

休み時間。友人の美咲が芽衣に話しかける。

「ねぇ、あの子ちょっと近寄りがたい感じだね」

「そうかな?ただ緊張してるだけかもよ」

芽衣は気になって仕方がなかった。何かに囚われているような彼女の瞳。その内側に潜む想いを知りたいと思った。

昼休み、意を決して芽衣は莉奈の元へ向かう。彼女は窓際で外を眺めていた。

「高橋さん、だよね?」

突然の声に驚いたのか、莉奈はゆっくりと振り向く。

「私、佐藤芽衣。よろしくね」

優しく微笑む芽衣。しかし、莉奈の表情は硬いままだ。

「…よろしく」

短い返事。それでも芽衣は続ける。

「もしよかったら、一緒にお昼食べない?」

莉奈は一瞬視線を落とし、少し戸惑った様子で答える。

「ごめんなさい。一人でいたいの」

「そっか、無理に誘ってごめんね。でも、何かあったらいつでも声かけてね」

笑顔でそう言い残し、芽衣は席に戻る。美咲が心配そうに尋ねる。

「どうだった?」

「うーん、まだ距離がある感じ。でも焦らず行くよ」

放課後。部活のミーティングを終えた芽衣は、学校を出ようとした時、美しいピアノの旋律が耳に届く。

「この時間に誰だろう?」

興味を惹かれ、音楽室へと足を運ぶ。扉の隙間から中を覗くと、そこには莉奈がピアノを弾いていた。その指先が鍵盤を滑らかに奏で、哀愁を帯びたメロディーが響き渡る。

芽衣は息を呑んだ。先ほどまで無表情だった莉奈の瞳が、今は深い感情で満ちている。

演奏が終わり、静寂が訪れる。思わず拍手をしそうになる芽衣だったが、音を立ててはいけないとその場に留まる。しかし、足元の消火器に気づかず、軽くぶつかってしまう。

「誰?」

驚いた莉奈が扉の方を見る。芽衣は観念して姿を現す。

「ごめん!盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど、あまりに素敵な演奏で…」

莉奈は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに視線を逸らす。

「聞かれてたんだ…」

「本当にごめん。でも、すごく感動したよ。まるでプロみたい!」

「別に…大したことないよ」

そう言って楽譜を片付け始める莉奈。その背中に、芽衣は思わず声をかける。

「ねぇ、もしよかったら、また聴かせてくれないかな?」

莉奈は動きを止め、しばらく沈黙した後、小さく答える。

「…考えておく」

それだけ言い残し、音楽室を出て行く莉奈。

残された芽衣は、その後ろ姿を見つめながら胸が高鳴るのを感じていた。

「もっと、彼女のことを知りたい」

芽衣の中で、新たな気持ちが芽生え始めていた。

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