フェアリア・ファントメア
アイズカノン
第1話
西暦から双星歴に変わってからもう70年。
人類は未だに争っていた。
人から機械、知恵から人工知能。
戦場から人はいなくなり、区画は整理され、平和と安全は
それから程なくして人工知能が反乱。
人と機械が戦い。
多くの人が死に、そして性別は統一された。
それも落ち着くと、また人々は争い始めた。
箱庭の平和では生物としての繁栄を。
戦場では少女たちが金属と機械の鎧を纏って、今日も生きていた。
♡☆♡☆♡
ある日のこと、首から下を覆うように肌に吸い付くようなぴっちりしたスーツに四肢に機械の鎧を付けた少女が今日も気だるく塹壕を掘っていた。
先の
「だる……」
スコップを片手に、並の兵士の男性でもだいぶかかる堀を機械の補助があるとはいえ、数十倍の速度で掘り進んでいた。
少女が纏う金属と機械の鎧はその容姿から妖精とも言われ、いつしか
彼女たちが担当するのは主に基地での雑用から整備、戦場での準備、そして偵察である。
「おーい、お前たち。姫様が帰ってきたぞ〜」
「わぁ、凄い」
「相変わらず
少女たちの頭上を全長15メートルはありそうな金属の箱のような物体が、巨大な炎の柱の翼を広げながら通過して行った。
無数の無人機に対応するために作られた機械仕掛けの機動要塞。
圧倒的な装甲と反重力機関による機動性、そして数多の武装を最低限の設備で付け替えできる構造による汎用性で広く普及し、人類の勝利に大きく貢献した。
「他の部隊も帰ってきたみたい」
「戦況はぼちぼち優勢そうだね」
塹壕の少女たちは基地に帰還してくるお城のような大きな要塞と様々な装備と彩りの妖精の編隊に元気よく手を振った。
そうすると向こうも気づいたようで、皆々様手を振って返した。
「おーい、お前たち。何サボってるんだ」
「ひぃーー」
「ごめんなさーい」
班隊長と思われる少女に「コラー」と怒られながら、今日も基地周辺は平和である。
そんな平和も、すぐに終わってしまうのだが……。
☆
ある基地から少し離れた場所に、巨大な半球の大きなドームの中に街が存在している。
安全都市と定められてるその巨大な箱庭には、かつての戦争前の日常が当たり前のように存在していた。
そこでは子どもがはしゃいだり、年頃の男女が恋愛したり、家族で休日を過ごしたり……。
旧暦に残してきた平和な日常は箱庭による安定で安全な環境で再生されたのだった。
そんな環境で休日を過ごしてる少女が1人。
黒髪のショートヘアに青い瞳の少女。
名をユイナ=レイ。
シャツとミニスカートとショートジャケットの白と青の制服を着た中学生くらいの見た目の少女。
>姫様はいるか?
「姫……。なんぞこれ」
薄い板の携帯端末から表示される
何か暗号めいた何かと思いながらも、兵役休暇にこんなものをよこすような司令官ではないのはユイナには分かっていた。
そうこう悩んでいるとピロロロ……と発車ベルがホームに響き渡った。
「しまった」と慌ててホームに降りたのもつかの間、視界の横から唐突にユイナより少し年上だろうと思われるブロンドのショートサイドテールの少女が勢いよく飛び込んできた。
視界外からの奇襲、ここが戦場だったらユイナは易易と避けていただろう。
しかしここは戦場から遠く離れた平和な箱庭、緩んだ思考ではまともに対処もできずにユイナは少女と激突してしまう。
「あ、痛たた……」
「いっつ……」
衝撃で転げ落ちた身体を上げる。
目の前にはユイナと同じだけれど、それよりもしっかりした素材でできた士官用制服を着た少女。
士官クラスとなるとこの基地学園のより安全な校舎教育を受けたファントメアの搭乗者か基地の偉い人かのどちらかである。
ふと、ユイナは先程のメッセージの内容を思い出した。
「まさか……」と思いつつも視界が回復した瞳で見るも、件の少女はもう遠くに行ってしまってた。
「待てーー」
「あいつ、どこ行きやがった……」
軍警察と思われる少女たちがやってきていた。
正直関わりたくないユイナは見つからないようにこっそり去っていった。
☆
ユイナは疲れからネットカフェで寝っ転がっていた。
貴重な1週間休暇の一日が消し飛んだのだ。
こうもなろうて。
(にしても……、なんで逃げただろう)
うつ伏せの体勢で考えるも、特に結論は出てこず、ただただ貴重なリソースを使い果たしただけだった。
ふと、カバンの重量にいささか変化があることを思い出したユイナは中身を丁寧に取り出した。
中には本来入ってないはずの物が入っていた。
鍵の形が刻印されたカードのような電子端末。
見覚えのあるその形、そしてそこに書かかれている識別番号を基地学園支給の携帯端末に入力すると1件ヒットした。
(セシリア=ノア。ファントメアの
ユイナは「はぁ……」と深いため息をつきながら再び寝っ転がった。
厄介事に巻き込まれたのは火を見るより明らかだったからだ。
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