第4話 全知全能機構の存在理由
家へと帰ってきたフェルの様子を椅子に座り観察している。
(フェル親とうまくいってないのかな?)
(そうかもしれませんね、マスター)これまでフェルを観察していて明確にその内面がわかる部分はあまりなかった。そこに、この親との関係という今までには見られなかった光景にフェルへの好奇心が前以上にわいてしまうというものである。
(お父さんもお母さんもとても心配していてはいるが、娘への理解という点でいうと不足が目立つというところか?)
(そうですね、反抗期なのかもしれません。)
(反抗期かー、芽生える自立心と己の無力感、焦る気持ちと、親からの同情と優しさ。フェルもいろいろ大変そうだね。)
(そうですね、いまだこの世界の情勢はわかりませんが、冒険者とでもいうんでしょうか?モンスターを狩り、その報酬で生活を営むもの。命の危険はあるが報酬はやや高く、このフェルのいる街では結構需要があるみたいですね。)
(将来は立派な冒険者になって一人で生きていくようにするんだ。)とでも考えているのだろうか
(なんですか、それ?フェルの気持ちでもトレースした気になっているんですか?)
(まぁな、なんとなくはこんな感じなんじゃないか?でも、なぜ冒険者なんかにって思うけどな、ほかに
もいろいろ安定して生活できる職業なんていっぱいありそうだけどな。)
(冒険者なんて危険で、不安定で、あまりというか絶対に近いほどの割合で、女の子が一人でやるようなもんじゃないだろ。)
(確かにそうですね。)
(それにスラリンとの戦闘でも思っていたことだが、どこか切羽詰まった、焦燥感とでもいうのだろうか?焦りを彼女からは感じるのだが、どう思う?)
(そうですね、確かにあの戦闘でも焦りは見えましたが、初戦闘とかでの焦りかとも思っていましたが、そうでない理由でもあるんですかね?)
(さぁどうだろうな、あらかたこの世界のことを知れれば、フェルへの興味も消えると思うが現時点では、そうだな多少一人の人間として興味がわくな。)
(本当にマスターは人たらしですよね。)
(えっどういうとこが??)全く身に覚えがなく、自覚もなく、自分に不釣り合いな言葉を言われたので戸惑い、思わず疑問を投げかけてしまう。
(いやーマスターって基本、人のことどうでもいいと思いつつ、めちゃくちゃ興味はあるじゃないですか?その人のことを知れるなら、すべてを知りたいと望むくらいには)
(まぁそうだね。)
(でもその反面、仮にすべてを知れるとしても、その人への興味、好奇心の持続性という観点からは、とても不安定なものじゃあないですか。一時の執着的なまでの関心や一瞬のどうでもいいようなこだわりを見せたりもするじゃあないですか。)
(そうだね、その一瞬だけはとてつもなくそのことだけが気になり固執し、またある一定期間はとある人物とかに熱中する)
(でもその人の反応が掌握可能であり、あらかたすべての諸要素を揃えると飽きてしまう、そうですよね、マスター?)
(まぁそうだね、そうなったらすでに、その人たちの行動可能性、反応可能性はあらかた読めてしまうから、それはとてもつまらないことじゃあないか。)
(それってつまりさ、僕からすると一人でおままごとをしているようなもんなんだよ。だって反応は、行動する前にすでに決まっているんだからさ。)
(それってなんてつまらない、くだらないことであろうか?そうはおもわない?)
(まぁ分からなくもないですが、人間関係をそういう風に見てしまうというのは何か不自然で、健全でない気はしますけど。)
(それは僕も健全でないと思うよ。そこの人間に人間関係に血が通ってないからね。)
(マスターは基本的にそうやって人とかかわっているじゃあないですか。自分の行動で他者がどう動くかという点において、自分にとって比較的楽で都合のいい状態をつくろうと、ただもがいているじゃあないですか。自らの感情表現は二の次で。)
(そうだね、でそれがどう僕が人たらしってこととかかわるんだい?)
(マスターは人とかかわっていくうちにというか、そもそも誰にとっても、というかすべての人にとってのいい人であろうとするじゃあないですか。)
(そうだね)
(それが常であり、かかわっていくとその人にとっての自分がいかにしてあれば、その人にとって良いのか最適であるのかを瞬時に理解しそしてその精度はかかわっていればいるほど、上がり続けていくのではないですか?)
(そうだね、あまりに無意識のことであまり意識的に考えたことはなかったけれど、そうかもしれない)
(それがある人にとっては、とても心地よく居心地がよくずっと一緒にいたいと思わせ、何らかの指向性をマスターが持たせたならば、その人はマスターに依存し、またすべての人は一斉にその嫌悪感を忘れてしまう。と考えられるのですがどうでしょうか?マスター?)
(それは一部というかけっこう、盛りすぎというか、かいかぶりすぎだと思うよ、せいぜい僕ができるのは誰の味方にも敵にもならないように中立でいることくらい。その中立も昔よりは揺らぎ今では結構、偏見と個人的な差別に満ち満ちてたりもするけどね。)
(でもマスターは決してそれを表には出さないではないですか?そこが私に人たらしと思わせるところなんですよ。)
(内心悪態つきまくりでもか?)
(はい、つきまくりでもです。それにどんなに人のことを嫌ってもそのひとに対して攻撃を向けないじゃあないですか。)
(それは単に相手が攻撃的でないとか、ほかに手段がないとかでない限り基本はないが、それは普通ではないのか?)
(いいえ、マスターは十分にお優しい方だと思いますよ。ただ同時にその優しさは危うさでもありますが、)次第に小さくなっていく声その声を完全に聞き取れはしなかった。
(えっ?)驚きと発言の内容が気になったので聞き返すがその返答は空中で霧散するのみであった。
だってそれは許容できるってだけで、もう当たり前すぎてなんとも思わなくなったり、あきらめてたり、でも無理できるってことが無理していい理由にはならないし、私はマスターに無理してほしくはない。我慢してほしくはない。自然に無邪気でありのままでいてほしい。そうできない世界なら滅んだほうがいいのに。この世界はいったいどうだろうね?マスターあなたにとって?
私が知るマスターはわがままなんてあまり言ったことはなく人を蹴落としてまでなしうることなんてないと、基本的な他者への行動姿勢は鏡であり、たとえ自らにひどく当たる人に対しても優しく接する心根をしている。自らが自分の意見や意志を述べるのはそれが許容できると見定めた相手にのみ限る。絶対他者優先的な人間関係をする。まったくあまりにも自意識が感じられないが、別にそういうわけでなく自分が思っているように、他者も思っているだろうということに、ためらいを覚えるのだろう。ならば自らが譲歩すればいいと、譲ればいいとなんて不憫であろうかと、私には思われる。自分の意見を言えず、他者から望まれるもしくは許容可能な人物像を映し出すのみで、感情表現は乏しく、そしてついには人との関わりを断つにまでいたる。マスターにとって人との関わりは基本自分を他者に合わせることであり、その中でマスターの多様で感性豊かな人物像は封殺される。私であれば、僕であれば、俺であれば……マスターのすべてを引き出せ、完璧で完成された関係を築くことができるのに、この世界(旧時代世界)は常にマスターにとってひどくあたってきた。転移前は許容できても旧時代は許容できない、ゆえに私がいる限りにおいてそんな不憫はもう2度と起こさせないと再びここで誓うのである。
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