第2話 初戦闘

少女フィルナル・フェルメニアはボロボロの状態で街に帰ってきた。




街の入り口には門番がおり少女の姿を見るなり心配そうな表情で話しかけてくる。




「嬢ちゃんどうしたんだ?大丈夫か?」




駆け寄ってきた門番の男に(あぁ大丈夫だ)と軽く挨拶をすると目も合わせず、地面を向いたまま、街へと入っていく。




「あれはたぶん新人冒険者だな。装備からしていかにもな感じだ。」もう一人の門番の男がそう話しかける。




「それにしてもあんまりな態度じゃなかったか?こっちは心配してやってんのに」




「こっぴどくやられたんじゃねぇか?新人冒険者にはよくある話だろ。」




「まぁそうだが、それにしてももっとかわいげがありゃーなー」




「何言ってんだお前、そんなことより仕事するぞ。そんな態度じゃあ門番として示しがつかんし住人から苦情を受けちまう。」




(あぁ)男は気の抜けたような返事をし、気だるげそうに、少し残念そうに仕事へと戻るのだった。




少女が家へ着くころにはすっかり日は落ちあたりは暗くなっていた。




魔法石の街灯が照らす道に導かれるまま、家まで着くと




(フェル遅いじゃないこんな時間までどこに?)家のドアが開き、ちらりとみえた人影を娘と認識するとすぐさま駆け寄り心配と、わずかに滲む怒りを含めてそう言い放つ。




「母さん、別に何もないわ、少し遅くなっただけよ。」




暗くて最初はわからなかったが、家の中の明かりに照らされることであらわになるフェルの全身への傷。




「あなた傷だらけじゃない」そう言い、体に触れ、傷を手当てしようとすると…




「触らないで、大丈夫だから」と咄嗟のこととはいえ声を荒げてしまったことを申し訳なさそうに、少し気まずそうにそう言い、自室へと向かった。




二人のやり取りを見守っていた父




「ねぇ、あなた、娘はあまり危なくない冒険者の仕事をしてたんじゃないの?」




「あぁそのはずだ、たしか近隣の森や草原で薬草採取や簡単な周辺調査とかだったと思う。」




(でも)そう心配そうに話す母




「明らかにあの子は傷ついていたわ、もしかしてモンスターと戦ったりしたんじゃないかしら?」




「まさかまだ冒険者になって間もないあの子がそんなことするとは思わないが。それに一人でモンスターと戦闘など危険すぎる。さすがにあの子もそんなことはわかっているだろう。」




・・・




フェルは自室に戻ると、装備を外し服を着替えベッドへと倒れこむ。そして今日のモンスターとの戦闘を回想する。




不甲斐なかった。あまりにも、かろうじて一匹倒せたがあんなのではダメだ。あんなんじゃ冒険者としてこれからやっていけない。自身を過信していたわけではないがあそこまでとは思わなかった。




(あぁああ)枕に頭を押し付け、今日のあまりの不甲斐なさに声がでてしまう。




ひとしきり今日の出来事の後悔をして少し冷静になる。




(なんか少し疲れたな。) しばらくずっとベッドの上でうだうだやっていたので戦闘の疲れもあいまって気だるげさを感じる。




下に降りて食事をして今日は早めに寝よう。そう思い自室を出るのだった。




◆◇◆◇




(なぁ)




(何ですか?マスター?)




(さっきの少女って倒れちゃったけどあれから大丈夫なのか?)




しばらく別のことを考えたり、スラリンの分析などを聞きながらだらだら歩いていたので、すっかり忘れていたその話題を出す。実はあまり時間は経たっていないのだが。




(えぇとすぐ確認しますね。)




(あぁ、いまだに気絶しているようです。)




(戦闘による肉体的な疲れかなにかか?それかなぞの力の影響も考えられるか…。)




(そうですね。いまだに未知のこともあるので断定はできませんが、おそらく肉体的な疲れが大きいかと。)




(それにあの周辺にはまだモンスターがいるんじゃないのか?)




(はいそうですね、周辺にあの液状型のモンスターがちらほら確認できます。)




(それって大丈夫なのか?気を失ってるところを襲われたりはしないのか?)




(しばらく行動分析をしていましたがいたって無害な生物のようですが…。)




(そうか、でも念のため監視をしておけ、それでもし何かあったら少女を守ってやれ。)




(守るですか?  マスターの命令です。わかりました)少し間があったのが気になったが任せておけば大丈夫だろう。




それにしてもこれからどうするかと考える。




あのモンスターが気になる。近くで見てみたいというのもある。




(少女から十分距離をとった場所で、いい具合にさっきのモンスターがいる場所ってないか?)




(実際に見に行かれるのですか?)




(あぁ実際に見てもしかしたら戦闘もしてみるかもしれない。)




(それなら別に現地に行かなくても別次元に隔離してそこであえばいいじゃないですか。それに戦闘ならわざわざ危険を冒さなくとも仮想世界で行えば・・・)




(せっかくの異世界なんだ実際に見てみたい)




(それならこの空間も再現すればよろしいのでは?)




(今まで見た風景ならばまったく同質に再現可能ですが…。)




(くどいな)




(いえマスターに少しでも危険が迫ると考えると、別の提案もしたくなるというものです。)




(なるほどな、だけどもし万が一があったとしてもおまえなら問題なくできるだろう?)




(そうですが、傷ついた事実を消すことはできません。私はマスターに傷ついてほしくないのです。)




(管理定則規定への絶対順守か)




(そうです、たとえすべてをなかったものとして扱おうとそのログを消すことは許されない。ゆえにマスターが忘れてしまっても私が忘れることはありません)




(わかったよ。心配してくれてありがとな。なるべく気を付けるようにするよ。)




(仕方ないですね。マスターはほんと)、(つらいのはいつも私だけなんですから)ぼそりとつぶやいた最後の一言だけはうまく聞き取れなかった




(なんか言ったか?)




(いえ別に)




(そうか)




どうやらなにか少し不機嫌そうな気もするが、まぁなにかあれば言ってくるだろう。今はそれよりもだ


俺は未知の生物への遭遇に胸を躍らせていた。




さきほどまでは街道を歩いていたがそこを迂回し少女がいたところより東にだいぶ離れたところへと到着する。




(うじゃうじゃいるなー) 




(えぇそれはここに到着する前から言っていたでしょう。)少し冷めたようにあきれたように言う。




(まぁそれはそうなんだが実際に見ると感じるものってのがあるんだよ。)




(前時代的な発言ですね。現実なんて言葉はとうの昔にすたれたかと…。)




(おれはこの世界に即して言ってんだよ。)




(まだこの世界の文明レベルやもろもろわかっていませんが 浅慮ですね。)




(そんなことはいいから早く武器を出してくれ、それに防具も)




(さっきの少女と同程度のものだ。)




(はいはい、同じものを出します。)




発せられる光が右へ左へと波のように動き体をスキャンしていくと同時に防具が構成されていく。




空間がゆがみ小さな雷とでもいうべきものをともなって目の前に剣が突き刺さる。




(はい、マスター)なぜか盾は手渡しで丁寧に渡された。 いや実は手ではなく周囲の空気を用い疑似的に触角を再現しているものだそうだが。




これで準備はととのった。




いざ向かわん!。 まぁスラリンの大群に向かうわけでなく目の前にいる一匹なのだが




これがショートソードか。手にずっしりと感じる、鉄の重みを感じながら剣を見る。




ゲームとかアニメとか映画とかでは見たことはあるが実際に持ったのは初めてだ。これが武器を持つという感覚。




その明らかな暴力性、加虐性、嗜虐性そのものともいえる代物に、のみこまれそうになる感覚に襲われる。




これは少しやばいかもな。すこし危険な笑みを心の中でうかべはしたが、すぐさま冷静さを取り戻す。




剣を構え目の前のモンスターに向き直る。剣を握りしめ左から右へと、剣を薙ぎ払う。




剣はスラリンの体をぐにゃりとまげ、そしてスラリンはその力をそのまま押し流すように弾き飛ばす。




気づいた時には剣を振りきったはずの腕が頭上に来ていた。




(なんという弾力だ。)




ならこれならどうだと言わんばかりに刺突をくり出す。




スラリンの体に剣はめり込み、先ほどと同様に弾き飛ばされる。




なんて生物だ、これは……!




まったくありえない……想像以上だ、これは。




まったく歯が立たないことが逆に闘志を燃やさせ、しばらく剣をふるい続けた。もといスラリンと戯れていただけだが。




「あーーこれむりだわ」




初期装備、初期ステータスで眠っている竜王ドラゴンロードに攻撃をしているような感覚だよ、まったく。




(竜王ドラゴンロードは言い過ぎではマスター?)




(あくまでも例えだよ、例え。)




(さてマスター、自身の無能ぶり、無力さをご自身で思う存分体感されこれからどうなさるのですか?)




「そうだなーどうしようかなー」そういうと地面に腰を下ろし、手に持っていた剣を地面に突き刺す。




そして腕を頭の後ろに組み、生い茂る草の上に寝そべる。あふれんばかりの青空と、時折吹くそよ風に揺られながら思案する。これからどうしたものかと。




「よし!街に行ってみよう!」




(急にどうされたのですか?マスター、大きな声を出されて。)




(いやぁーさっき少女いたじゃん、ということは近くに街とかあるかなーって。)




(まったく計画性皆無ですね)と ほとほとあきれたようにそう言い放つ。




(仮にあったとしてその服装で行くんですか?)




(何か問題でもあるのか?)




(まったく先ほどの戦闘といい少々浮かれすぎでは)はぁーとため息をつき少女は続けてこう言い放つ。




(あなたはこの世界で、明らかな部外者なんですよ。着ている服装も話している言語も文化も風習も何もかも違う可能性が高いです。無計画に街へ踏み込もうものなら、あやしまれ最悪捕まってしまうことだってありえます。)




(もう少し、いやだいぶ冷静な思考と判断をお願いします。)




「まぁそうだな」と漏れ出るように声を吐き出す。




いまだ浮かれた熱は冷めきらないが、少し冷静になった頭で考える。




「よし、では今日はどこかで仮拠点でも作って様子でもうかがうか。」




(賢明な判断です、マスター)




(では街より十分な距離を取り光学迷彩と念のため空間分離処置を施しましょう。)




(そんなにほいほい管理機能を行使して大丈夫なのか?その行使に必要なエネルギーもこの世界では無限ではないだろう?)




(いまのところ問題はありません。空気中に暫定的に魔素と呼んでいる未知のエネルギ源が多く確認され、そのエネルギー還元が先ほどの魔石と同様、実行可能となりました。いまだエネルギー変換効率はあまりよくないのですが、現状そこまで大きな問題とはいえません。)




(まぁおまえがそういうなら大丈夫か。)




(ていうかおまえいま街って言わなかったか?)




(言いましたが、どうされましたか?マスター?)




いやこいつ街あること知ってんじゃん―――




(聞こえてますよマスター?先ほどの話に街があるとかないとかは関係ありませんでしたので、省かせていただきました。)




いや省くなよ そうすかさず思ってしまう。




(少女を見つける前、周囲への探索をマスターがお命じなったさいにはすでに発見しておりました。)




ならその時言えよ




(いやマスターからの距離的にといいますか、なんといいますか・・・)と目はきょろきょろと動き、苦笑いを浮かべ、そうごまかしてはいるもののばつが悪そうに頬をさわっている。




(ただ忘れてただけだろ、それかどうでもいいと重要度は低いとスルーしたな。)




(まぁそんなことは置いといて)と少女は両手を合わせ仕切りなおそうとせんばかり提案をしてくる。




(拠点を作り次第、少女を引き続き監視してみてはどうでしょうか?いまだ私たちの監視下ですしそれに街の様子を知らべるためにもしばらく生活の様子をのぞかせていただきましょう。)




(それもそうだな)

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