第3話 17年目のウグイス

朝7時半、ホームグランドの河川敷到着。

2025年2度目の屋外での投擲練習。

一片の雲もない快晴だが、川を渡ってくる川下からの風は冷たく強い。

河川敷の原っぱはまだ冬枯れの様相だが、早くもウグイスのさえずりが河岸の藪から聞こえてくる。

この河岸でウグイスのさえずりを聴くのも17年目。


砲丸投げ(5K)は9m80,円盤投げ(1K)は早くも35mが3本でた。

円盤投げで練習中35mが3本そろったことは2024年度には一度もなかったことなので、今年は春から縁起がいいわい。

腰のスイングと右肩を突っ込んでの強い振り切りを今後強化すれば、今年の目標の40mは投げられそうな、なんとなくうれしい予感あり。


私が投擲練習を終えた11時までの3時間の間、この河川敷にやって来た人はたったの5人。

近くにある大学の女子学生と思われる3人が、横に並んで後ろ向きに歩きながら過ぎ去っていったが、あれは急に暖かくなった陽気のせいか。

私の目を奪った異変はそれのみで、広大なこの場所を独り占めして、私は心置きなく練習を楽しむ。

孫までいる70歳を過ぎた老アスリートにだが、広い原っぱで、快晴の空の下、気のすむまで円盤を投げていると、いつまでも外で遊んでいたかった少年時代を思い出す。


小学校から帰宅すると玄関先にランドセルを放り出し、友人たちと約束した原っぱに駆けていき、夕方薄暗くなって、頭上にコウモリの群れが飛び始めるまで遊んでいたものだ。

70歳を過ぎてなお砲丸や円盤を投げる酔狂な友人は当然のことながらおらず、いつも一人の河川敷だが、自分自身と語り合いながら円盤を投げ続けていると、時間のたつことを忘れる恍惚の時間が過ぎていく。

嘗てメジャーリーグの伝説のバッター、テッド・ウイリアムスが、打撃練習中にふと漏らしたという言葉がある。

「一日中やってたって飽きないぜ」

わが意を得たりの思いだ。


レンゲ、イヌノフグリ、菜の花がチラホラと顔を見せている。

来週には土手の桜も開花するだろう。

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