第4話
運動場を突っ切って、十数台の単車が止まる。
ヴォンヴォン
この空ぶかしする独特の音が耳障りだ。
この音が合図で、今の授業はもう正常には進まない。
窓際最後尾のこの席は、いやでも外が見えるけれど、そうじゃない全席の生徒が窓に寄って来ているのではないかと思うくらい、押し合い圧し合い、外を見ようとしている。
キャーキャー
ウォー
と叫ぶ声で校舎が揺れている。
まるで沈没しそうな船に乗っているようだ、乗ったことはないけれど。
重みが偏りすぎていて、バランスが悪い。
校舎、大丈夫?
なんて馬鹿なことでも考えていないと、煩わしくてやっていられない。
私がこの学校を選んだのは特待生になれば授業料がかからないからだ。
おじさんたちに負担をかけなくていいと思ったから、どんな学校でもいいと思って選んだけれど、度々こうやって授業が中断されると殺意がわく。
毎回の試験で、学年3位以内に入らないと、特待生にはなれない。
もちろん授業料の免除がいらない生徒もいるけれど、免除除外者が上位3位にカウントされない、ということがないらしく、なかなかシビアな世界だ。
だから、うかうかしていられない。
「ちょっとぉ、珍しい、
珍しい人でもいたのか、突然叫び声が3倍増しになる。
仲のいい子でもいたら聞けたけど、この学校で私と仲がいい子なんていない。
話をするのは美宮ちゃんや、美宮ちゃんの親友で私とも幼馴染になるのかな、斜め前の家の彗ちゃんくらいだ。
だけど、二人とは同じクラスではないので、誰にも聞けないまま、上から外を見下ろす。
光が当たってきらきらと輝く金髪で、全て真っ黒になるように塗装されているのか初めて見る単車がそこには止められていた。
あの人が、神楽さんなのかな。
多分、初めて見る人だと思うから、きっとそうだろうと思うことにした。
叫び、腕を振り、拳を突き上げる人たちの中、私はただ一人黙って見ていた。
ふいに、その神楽さん……と思わしき人が上を見上げた。
この中で、最も異質な私。
目が合ったような気がした。
そして、ニィっと笑った顔は、目が全く笑っていなくて獰猛な感じがして、恐怖を覚えた。
「いやーん、見た見たあ? 神楽さんが私に笑ってくれた!!」
「違うわよ、私よっ!!」
と、そこここから聞こえ、あの恐ろしい笑いでも人によってはこうなるのかと感心した。
私には無理だ、と思ったのは言うまでもない。
私はそっと視線を外し、意味もなく黒板を眺めた。
いつもならイライラするミミズが這ったような字の数式が、この時ばかりは尊く見えた。
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