第26話:俺は決めた
俺は本当にどっちを信じたらいいんだろう。ずっと付き合いが長いマコトか? マコトとは15年からの付き合いだ。こんなに長く一緒にいられる友達なんて他にいるはずない。一生の宝。どれだけ咲季ちゃんがかわいくてもマコトとのこれまでの関係を否定してまでのことじゃない。
それだけなら、既に解決しているはず。俺はマコトを信じる。それでいいはずだ。
それなのに、なんか引っかかる。
当初、咲季ちゃんはマコト狙いだと思っていた。大学生にしても社会で成功しているマコトは眩しいだろう。カネも持っていて、会社も経営している。色々知っていてモテる。普通の女は少し耳元でささやかれたらイチコロだろう。
それなのに、咲季ちゃんはマコトのことを苦手だと表現した。俺の親友だから控えめに言ったのだと思う。歯に衣を着せないで言ったら「嫌い」ということ。
咲季ちゃんとマコトは相容れない関係に見えた。そして、双方が真逆のことを言っている。俺はどちらを信じたらいいんだ。暫定的に両方との関係を断っている。その判断がまた正しいのか、悩ましいところだった。
俺はこれまで困った時にはマコトに相談してきた。依存しているかもしれない。それがよくないことは俺にも分かる。でも、それ以外の方法が分からない自分がいた。
二人のうち、どちらを信じたらいいのか……。その答えは意外なところにあった。
俺は自宅マンションでソファに座って、1台のスマホを操作していた。嫁の……いや、元嫁のスマホだ。それも、機種変前のものではなく、ついこの間まで使っていたもの。
パスワードは4ケタに設定されていた。そして、その番号は嫁の誕生日。正確に言うと、誕生日の数字を上下逆転させた数字だった。
考えてみたらおかしなところはたくさんあった。嫁は「慰謝料」と「養育費」を離婚したら女が自動的にもらえるものと思っていた人間だ。大卒のくせに社会人として本当に大丈夫かと思えるほどの常識力だ。
そんな元嫁がスマホのパスワードを誕生日の数字ではなく、上下逆になどするだろうか? それだけじゃない。スマホに2つのメールアプリを入れて、2つのアドレスを使い分けたりするだろうか。メール自体は勤務先の病院の伝達事項はメールを使っているみたいだから、LINEではなくメールってのも理解できるけど……。それでも、浮気男とのメールのやり取りを下書きを使ってどこに文章があるか分からなくするなんて思いつくだろうか。
俺がマンガの作者なら「元嫁」というキャラがあるとしたらブレまくっている様に思える。すごく見た目が良くてかわいいのに男漁りがすぎること。同時に2人と不倫していたりして性に対して節操がないこと。
……もしかしたら、これは幼少時の「いたずら」事件が人格形成に影響しているのかもしれない。正常な貞操観念を持てなくなってしまった……とか。犯人はとっくに捕まったと咲季ちゃんが言っていたけど、その罪は重たい。
そして、元嫁の不倫……2人同時不倫について、その理由が分かった気がする。証拠は俺の手の上にしかないけれど、これだけでは証拠として弱いって言われたけど、俺にとっては十分「その裏付け」と思える物を見つけた。
〇●〇
少しシリアスに話を進めようと思っていたけど、相変わらず元嫁から復縁を求めるジュリエットメールが大量に届いている。LINEじゃなくて、メール。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
『愛しているの!』
『あなただけ!』
『私にも同じ傷を付けました』
『私とあなたは魂でつながっているの』
1日に100通を超えるメールは、送信元をブロックしても別のアドレスから送られてくる。LINEだったらブロックしたらもう届かないし、他のアカウントはお友達申請していないのでメッセージは届かない。
その点、メールは俺の方がアドレスを変えないと送ることは可能だ。あまり使っていないメアドとはいえ、ずっと使っていたので思い入れもある。「メールを開かない」という方法で無視しているけど、届いているのは事実。
『ずっと見てる!』
『引っ越さないか見てる!』
『こっそり後を付いていった』
『今日、スーパーでお野菜を買っていたね』
『また料理を作って』
段々ストーカー化している。誰が見ても立派なストーカーだ。しかも、突然現れたら、また刺されかねない本格的にヤバいストーカーだ。
そして、この「ずっと見てる」ってのが思いの外、心に重くのしかかった。普段の行動の時に「見られているかも」とか「付けられているかも」とか考えるようになった。「元嫁のことを考えている」と言えばそうなのだが、ハッキリ言って怖い。
怯えている。
車の運転中でもルームミラーを見て同じ車が付いて来ていないか確認する癖が付いた。ごみを捨てる時に俺の情報が漏れる様なものを捨てていないか注意するようになった。カギはもちろんちゃんとかけるけど、玄関を誰かが通過したらスマホに動画が送られてくるようなホームカメラを導入した。
俺は今の生活を続けるのは無理だと思い始めていた。誰も俺のことを知っている人がいない場所、縁もゆかりもない場所に引っ越して、そこでひっそりと生活を始めようと思い始めていた。
そのためには、決着を付けないといけない。元嫁のことはもういい。俺が失そうしたらやつには俺は見つけられない。そんなには頭はよくないのだから。
俺は信じていい人1人と決着を付けなければならない1人を決めた。
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