第3話:女の秘密は○○の中にある

 俺は酔っ払い過ぎてマコトに肩を借りながらタクシーに乗った。俺はタクシーで帰るような御身分じゃないので、料金はマコト持ち。半分出すって言ったら「俺は経費で落ちるから大丈夫」って言ってた。


 かっこいい。さすが経営者。いつか俺もそんなこと言ってみたい。マコトはいつも俺の2歩も3歩も前を行っている。俺の進むべき方向というか、道を示してくれる感じ。こんなヤツと友達になれて俺の人生はかなり恵まれている。


 一方で、嫁には恵まれなかった。


「大丈夫か?」

「大丈夫だ」


 俺はカバンからカギを取り出したのだが、マンションの玄関ドアのカギ穴に入らない。今日は相当酔っぱらってる。明日は休みなので飲み過ぎたのかもしれない。


「ほら、ここ」

「すまん」


 そんなやり取りをしながら、俺の手を持ってカギをカギ穴に。


 家に入ると、当然のように嫁はいない。まだ新築のにおいがする俺の家。仕事のツテで買ったから、かなり条件よく買えたんだ。俺自慢の家。


「ほら、クローゼットに行くぞ? 先に水飲むか?」

「おお、そうだ。水は大丈夫。クローゼット、クローゼット」


 俺は我が家自慢のクローゼットにマコトを案内した。


 うちのクローゼットはウォークインクローゼット。ウォークインクローゼットを知ってるか? 歩いて入れるほどおっきいんだぜ? 広さにして4畳。「蔵」にするか、「ウォークインクローゼット」にするか選べたのがこのマンションの売りの一つだった。嫁が迷わず「ウォークインクローゼット」を選んだ。


 選んだのはいいが、俺には用事が無いスペース。入居して一度も入ったことないな。掃除のときも部屋までで、この中までは掃除機かけたことない。嫁が大事なものが入ってるからあんまり開けるなって言ってたし。


「知ってるか? ウォークインクローゼットってのはなぁ……」

「ウォークインクローゼットは常識だからな? 仕事中でもお客さんにそんなこと言うなよ? 説明するとしたら底辺そうなヤツだけにしとけよ? バカにしていると思われて怒られるからな!?」


 マコトはなんでも知っている。


「お前は何でも知ってるな」

「いいえ、知ってることだけ」


 俺の「ネタ」が通じるのはこいつだけだ。他の周囲のヤツはキョトーンだから。


「重黒々木くんには翼ちゃんはいないけど、マコトちゃんがいる」

「お前のその中途半端なアニメネタが分かる一般人はいないからな? よそでは言うなよ?」


 そんなバカなやり取りをしつつ、俺達は部屋のクローゼットの前に着いた。


「俺も見て大丈夫か? 確認はジュウだけでいいんじゃないか?」

「うーん、ちょっと開けてみて、ヤバいものがなければ……」


 そうだよな。俺の嫁だ。一応、センシティブなものがあったらマズかろうとマコトが気を使ってくれていた。俺はそこら辺の気遣いがちょっと足りないかもしれない。スマホに集中してしまったし。


「……」

「どうした? なんかあったか?」


 クローゼットに首を突っ込んだら言葉を失った俺に、後ろからマコトが心配そうに声をかけた。


「質屋だ」

「は!?」


 俺の感想ではマコトにうまく伝わらなかったようだ。


「見てくれ」

「……いいのか?」

「大丈夫だ。多分」


 そう言って、マコトはウォークインクローゼットの中を見た。


「これは……質屋だな」


 そう、ウォークインクローゼットの中には、エレクターっての? 棚みたいなのがあってそこにバッグやら服やらが大量に置かれていた。さながら質屋のブランドコーナーって感じ。ガラスケースもあって、そこには宝石やら時計やらがきれいに陳列されて置かれてあった。


 特定のブランドってわけじゃないので、言ってみれば質屋のブランド品コーナーって感じ。あまり上品に置かれてないから、ドンキの高級ブランド品コーナーと言っても良い感じか?


「ここの品物だけで結構な額だけど……」

「そうなのか!?」


 高そうなのは一目見たら分かる。でも、俺はブランドとか全然知らん。ルイビトンくらいは知っとるけど、エルメスはララァ・スン専用の方しか知らん。


「分かった分かった。お前はルイ・ヴィトンくらいしか知らんのな? ちなみに、これがヴィトンだ」


 1個のバッグを持ち上げてせてくれた。よく分かってる。


「こいつがロエベ、セリーヌ、プラダも押さえてある。そして、メゾンマルジェラ、マルニもあるな」


 ②? ①はないのか?


「そして、こいつがエルメス。……無人攻撃ポッドはないやつな?」

「……」


 俺のネタが言う前に防御された。マコトは全てにおいて完璧だった。


「早弥香さん、センスいいな。ここにあるバッグだけで300万ってとこか? あと、服と宝石と時計に服……ヤバいな」


 バッグだけで俺の年収レベル! 


「これは使い込んでるなぁ……通帳とかないのか?」


 クローゼットの中には小さめの金庫もあった。当然、カギがかかっているし、俺はこんな金庫の番号なんて知らん。


「俺の通帳!」


 思い立って俺は部屋に置いてある通帳を見てみた。



 残金38円。



「これはすごいな、100の位がゼロの通帳って意図して引き出した以外にこうなるか!?」


 これは俺の通帳。結婚前に貯めていた200万円がほとんどゼロに。いや、38円残ってる。残ってるって言うのか!? これ! 


 家の家賃が落ちる様な通帳は別にある。……あるはず。でも、既に終わってないか!? 詰んでないか!?



「あ、あった! スマホ!」


 マコトが1個のスマホを持ってる。


「クローゼットの棚の一番上に隠すみたいに置かれてたわ」

「……」


 本来の目的は達したのか? 「骨」を断たせて「肉」を切ってないか? 何が出ようと、何もでまいと、既に終わっているのでは!? 明るい未来が全く想像つかないんだけど……。


 時刻は現在23時。嫁が帰って来るのは朝の9時30分ごろ。……あと約10時間ある。


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