勇者と魔王の舌戦

ロキ-M

とある世界の勇者の魔王の会話

「来たか、勇者よ。」

「貴様が魔王・・」

「人間の勇者、我が家に土足で上がり込んできた上、好き放題暴れてくれたみたいだが何の用だ?」

「無論、国王の命に従い貴様を討つ。そして世界に平和を取り戻す。」

「盲信とは怖いよの・・国王の言葉が全て正しいと思い込んでいる。」

「問答無用。」

「・・1つ問う。本当に貴様らの国王の言葉は全て正しいのか?」

「・・どういう意味だ?」

「貴様もここに来るまでに数多の村や街を見てきていただろう、どうであった?」

「貴様ら魔王軍の襲撃に怯え、皆一様に表情は暗く、街に活気は皆無だった。だからこそ貴様を討ち、人々の笑顔を取り戻す!」

「ふむ・・半分は分かるが半分抜けておらぬか?」

「どういう・・事だ?」

「我が魔王軍、こちらの世界に来てからかなりの年月になるが、人間への襲撃は全くしておらぬ。とはいえ、いつ襲われるか分からない脅威に怯えているのは確かかもしれん。だが活気が皆無なのはそれだけではない。国からの高額の税金・そして対策も一因ではないかと言っておるのだ。」

「何故魔王が税金や対策に関してまで・・」

「愚かな・・力を振りかざすだけが戦いだと思っているのか?情報戦も重要な戦略よ、そこかしこから人間界の情報が入るようにしておるわ。」

「くっ・・」

「話が逸れたな・・我ら魔族の侵攻に備え、国民には防衛の為に高額の税金が課されているのは勇者であるなら知っておろう?たが、高額の税金を納める割に、殆どの人間の街では不安は全く解消されておらぬ。おかしいと思わぬか?」

「・・・」

「高い税を納めたにしても、頑丈な城壁が出来たり規律の行き届いた兵士が常駐なりして、不安が払拭されるのであれば納税にも納得するであろう。だが実際はどうだ?高額の税金を支払う割に、国王は国民の為に何をしている?何もしていない所か、毎日の様に理由をつけては集めた税金で宴や高額な品を買い集める贅沢三昧の日々。そして肝心の防衛に関しては自分の城だけを強化し続けてるであろう。更に言うなら勇者よ、お前への支援体制はどうなっている?国王からの勅命を受けた時はともかく、それ以降、国王から支援はあったのか?ここまでの旅をする間に人々を助け、その街の人間の身を切る様な支援があったからこそ我が前まで辿り着いた。勇者とはいえ、半ば自給自足だったのではないのか?」

「・・・」

「国からは支援も補給もなく、勇者だからという理由で全てを貴様に押し付け、自分は何ら責任を果たす事無く、魔王討伐という成果だけを欲しがる国王の言う事を真に受けたみたいだか・・今一度問う。貴様ら人間の国王の言う言は全て正しいのか?」

「確かに・・全てが正しいとは言い難いかも知れん、だが貴様を倒せば人々は魔王の脅威に怯える事もなくなり、税も安くなる筈だ!」

「本当にそうかな?」

「何?」

「確かに我らが貴様らに討伐されれば、不安は解消されるかも知れん。だが、税金は安くはならんだろうな。」

「どういう意味だ?貴様らがいなければ防衛に関する税金は不必要になる筈だ。」

「もし我が人間の王であれば、魔王がいなくなっても将来的に第2・第3の魔王が現れないとは限らない。だから防衛に力を注ぎ続けなければならないと言うであろうな。さすれば合法的に今の税金を課し続ける事が出来る。そうすれば今の贅沢三昧の日々がずっと続けられるからな。」

「そんな・・」

「それはあくまで我の考え。実際はどうなるかは知らぬがな・・ただ、今の国王ならそうなってもおかしくないと思わぬか?」

「何故だ・・相手は討伐対象の魔王なのに・・何も言い返せないし心が揺さぶられるとは魅了の魔法でもかかっているのか・・」

「そうやって現実から目を逸らすのは構わぬが・・事実は変わらぬぞ。」

「どうすれば・・俺は一体どうしたら良いんだ?」

「我が言うのは変な話だが、貴様に道を示してやろう。選ぶのは貴様だ、好きにしろ。」

「どういう意味だ・・」

「このまま我を討ち名実共に『勇者』となるのか、翻って悪政を敷く国王を討ち国民を圧政から解放する『英雄』となるか。英雄となった後、我と改めて雌雄を決するのか、それとも共存を選ぶのか、はたまた全く違う道を選ぶかは貴様次第だ。」

「・・魔王、貴様の言う事が正しいのか否か分からない。だが、一理あるのは認める。今まで国王の勅命だけを信じ続けたが、自分の目で見て聞いて、肌で感じた上でどうするか考える。人間界の混乱に乗じて攻めてくるなら、その時に改めて貴様の首を頂く。」

「好きにしろ。我らは部下の治療もあるが故、暫くは高みの見物をさせて頂こう。愚かな人間同士の争い、こんな余興は久しぶりだからな。」

「その首、後日必ずや貰い受ける。そして本当の意味での平和を取り戻す!」

「また会える事を楽しみにしておるぞ。だか勇者よ・・貴様の持つ希望の剣、部下には通用したみたいだが、我が身に着けし絶望の衣を打ち破るにはまだまだ力不足。精々、人々の絶望を希望に変える事だな。今の貴様の剣では話にならぬ。」

「その余裕も今だけだ、必ずや・・」


この後、勇者は民衆の希望を一身に集める英雄となり、魔王と再び相見える事になる。魔王を討つ勇者としてか、和平・共存の使者としてかの詳細は今の世に伝わっていない。

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勇者と魔王の舌戦 ロキ-M @roki-maruro

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