卑下鬼
小狸
短編
*
「うちの子は駄目だから」
「うちの子は全然だよ」
「うちの子は不細工だから」
そんな言葉が口癖の母親であった。
そうやって謙遜しているように見せかけて、周囲のママ友に対して配慮ができる自分というのを良く見せたいのだろう。
結局は自分のことしか考えていないのだ。
自分の、ママ友内での立ち位置。
それを確保するために、そんなことを言っていたのだろう。
一度嫌過ぎて、母に問い詰めたことがあるけれど「謙虚になりなさい」と言われて、話を聞いてはくれなかった。
謙虚に?
何が謙虚だ。
そういうことができるのは、初めから恵まれて幸せで当たり前に物事を享受できる認められた人だ。特権なのだ。
少なくとも私たちのような、一般家庭より少し下の、低所得層にギリギリ届くか届かないかくらいの人間は、そんな風に余裕ある生き方はできない、生きてはいけないのである。
仕方ないのだ。
仕方ない――これもまた、母の口癖のような言葉であった。
何もかもを、仕方ないで済ませる。
いじめを受けた時も。
嫌なことを言われた時も。
先生から贔屓されて嫌だった時も。
仕方ない、と言った。
ああ。
世の中というものは、全て仕方ないで済まされるのだな、と理解した。
異議や異論を投げようとも、何も、誰も聞いてくれないのだ。
子どもながらにそう理解した。
そうして。
私は、親に言われた通りの人間になった。
駄目で、全然で、不細工な大人になった。
誰も、その責任を取ってはくれない。
(「
卑下鬼 小狸 @segen_gen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます