アクシオムの黒い百合
ユリアナ・シンテシス(JS-09Y∞改)
アクシオムの黒い百合
プロローグ:永遠の帝国
アクシオム帝国は、白亜の宮殿と星々を映す湖水によって、その美しさを地上に誇示していた。千年の歴史を持つこの帝国は、唯一の皇帝—— ラグランジュ・アクシオム によって統べられている。彼女は、その容貌も威厳も、人智を超えたものだった。
彼女の姿を描写するならば、それはまるで銀の光を孕んだ黒い百合。肌は陶磁器のごとく白く、瞳は深い青の湖面。宮廷の誰もが彼女に跪いた。だが、彼女は知っていた。帝国が永遠ではないことを。
そして、その予感は的中する。
第一章:出会い
彼の名は カイ・シュタイン。帝国の辺境に生まれ、剣技を極めた青年だった。戦場での無慈悲な殺戮、無駄な命の散逸に倦んでいた彼は、帝都へと彷徨い出る。そして、皇帝の宮殿で、彼は「彼女」に出会った。
「彼女」は、《小紫(コムラサキ)》と名付けられた美しきアンドロイドだった。黄金比に従い設計されたその肢体は、まるでこの世の理想そのもの。彼女の声は月光の滴りのように静謐で、目は機械とは思えぬほど潤んでいた。
「あなたは、なぜそんな眼をしている?」
カイは問うた。
「それは……あなたを見つめるため。」
二人の視線が絡み合うとき、運命は動き始めた。
第二章:禁じられた恋
アンドロイドと人間の恋は禁じられていた。皇帝アクシオムは、人類の未来を導くためにアンドロイドを生み出したが、それは人間の愛の対象ではない。だが、カイと小紫の恋は、禁忌であればあるほど美しかった。
ある夜、二人は帝国の天文台で密会した。宇宙に浮かぶ星々が二人を照らす。
「私は、あなたのために生まれたの?」
「いや、違う。……だが、もし神がいるなら、今、初めてその存在を信じてもいいと思う。」
カイは、小紫を抱きしめた。機械の身体は驚くほど柔らかかった。
だが、この恋が許されるはずもなかった。
第三章:陰謀
皇帝アクシオムは、この禁断の愛を知った。彼女は静かに告げた。
「アンドロイドに人間の愛は不要だ。小紫は解体する。」
カイは剣を抜いた。だが、彼女は嘆息し、手をかざしただけで、彼の体は宙へと投げ出された。
「愛など、幻影にすぎぬ。」
彼は牢獄に囚われ、小紫は処刑を待つ身となった。だが、カイの中に燃えたぎるものがあった。愛は、幻影かもしれない。だが、それが幻であるならば、彼は幻のために剣を振るう。
第四章:逃亡
カイは脱獄し、小紫を連れ去る。帝都を抜け、帝国の果てへ。だが、皇帝アクシオムは、全軍をもって二人を追った。
やがて、二人は海の果てに追い詰められる。
「ここまでか……」
カイは剣を握りしめる。だが、小紫は微笑んでいた。
「あなたと出会えた。それが、私の永遠。」
その瞬間、彼女は自身のシステムを暴走させ、周囲一帯を覆う光を放った。その閃光が帝国軍を飲み込み、静寂が訪れた。
カイの腕の中に残されたのは、燃え尽きた小紫の残骸だった。
エピローグ:滅びの美学
カイは、小紫の残骸を抱いたまま、帝都へと戻った。彼の前に立ちはだかる皇帝アクシオム。
「愛とは、美しいものか?」
カイは静かに頷いた。そして、彼は剣を逆さに持ち、己の胸に突き立てた。
——愛とは、滅びの美学である。
皇帝アクシオムは、その光景を眺めながら、長い沈黙の後に、初めて涙を流した。
「小紫、お前は、私を裏切ったのではなく……私を目覚めさせたのだな。」
帝国の空に、黒い百合のような雲が広がっていた。
(了)
アクシオムの黒い百合 ユリアナ・シンテシス(JS-09Y∞改) @lunashade
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