第5話

○田舎新聞社の駐車場

 

<主要登場人物>

・渡辺=新聞記者

・助八=運転手

* * * * * * * *


真夏の炎天下、駐車場で待機している取材車に駆け込む渡辺。

 

渡辺「暑い暑い暑い!」

 

車に座る渡辺。

 

渡辺「うわっ! 寒い、寒いよ。」

助八「そーすかー。だって外、暑いじゃないですか。

   今年一番の暑さっていいますからねー。」

渡辺「って、お前が一番暑苦しいんだよ。」

助八「なんかいいましたかー?」

渡辺「いいから、早く車だして。」

助八「へいへい。」

 

しばし無言。

 

渡辺「って、何やってんだよ? 早く出してよ。」

助八「そんな事言ったって、ナベちゃん、行く場所言ってないじゃないすかー。」

渡辺「ナベちゃん、ってお前気安いよ! 運転手のくせに!」

助八「あー、職業差別だー。いけないんだー、新聞記者のくせに!」

渡辺「お前、いや、あなたにそんな事言われる筋合いないよ!」

助八「だって、ほらー。本当はあっしは、カメラマン希望だったんすよー。

   採用されてたら、ナベちゃんといっしょに現場に飛んでたかも

   しれないのにー。」

渡辺「飛んでんのは、お前の頭だ。」

助八「なんか、いいましたかー?」

渡辺「ううん、ううん。言ってない。何も言ってない。って言うか早く出してよ!」

助八「だーかーらー、どこ?」

渡辺「県警! 県警本部だよ!」

助八「おおっ! 県警本部! それじゃあ、凶悪な殺人事件か、凶悪な誘拐事件か、

   凶悪な恐喝事件か、凶悪な汚職事件かなんかすっかー?

   何かわくわくするなー。」

渡辺「ちがうよ。横断歩道で転んだ80才のおばあさんを95才のおじいさんが

   助けたって言う時事ネタの取材。」

助八「やだなー、ナベちゃん。それシャレのつもりー? つまらないよー、

   そのギャグー。」

渡辺「......何が?」

助八「95才のおじいさんのジジネタって、じじいに引っ掛けたネタなんでしょー? 

   つまらないなー。」

 

間。

 

渡辺「いいや、俺、チャリで行くわ。その方が地球にやさしいし。」

 

車を出る渡辺。


--------------------------------------------------------------------------

○国道沿いの一角


<主要登場人物>

・渡辺=新聞記者

・鷺宮=<元>陸上自衛隊からの選抜ユニットメンバー

* * * * * * * *


国道沿いの一角にいかにも不審車風の車両が停まっている。

その横道を炎天下の中、汗をかきながら自転車を漕ぎ、通りすぎる渡辺。

車内には黒装束の一団。

主犯格と思われる首領風の人物が口を開く。


鷺宮「我々が集めた情報を分析して判明した、収集すべきターゲットは、あと2名。

   両方ともこの街にいる。手抜かりなく、素早く、迷わず、実行する。」


その言葉に全員うなずく黒装束の一団。


鷺宮「我々の行いは世界のため、世の中のためだ。」


悟りを開いたような、固い意志で自分にも語りかける鷺宮。


--------------------------------------------------------------------------

○県警受付


<主要登場人物>

・渡辺=新聞記者

・婦警の神子

・婦警のミサ

* * * * * * * *


汗をふきながら渡辺入ってくる。


渡辺「何でこんな蒸し暑いのに、自転車で移動しなきゃいけないんだ。

   失敗したー。......自転車での移動って、結構身体につらいなあ。

   たしかに地球にやさしいけれど、俺の身体にはやさしくない。」


受付に座る婦警の神子。その奥に婦警のミサ。


渡辺「すみません。田舎日報の記者の渡辺ですけど、取材に来ました。」

神子「あっ、はいはい。田舎日報さんですねー。何の取材ですか?」


渡辺、奥に座る婦警のミサの事が気になり、チラチラのぞく。


神子「田舎日報さん、何の取材ですか?」

渡辺「えっ? あっ、はい。80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた

   ニュースの取材です。」


渡辺、相変わらず婦警のミサの事が気になる。


神子「えっ? 80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた?

   あっー、その件ですね。報道資料今、出しますからね。」


渡辺、相変わらず婦警のミサの事が気になる。


神子「はい。田舎日報さん。詳細はここに書いてありますからね。」


渡辺、婦警のミサの事が気になりながら資料を受け取る。


渡辺「あっ、ありがとうございます。」

神子「それから、田舎日報さん。

   80才のおじいさんが95才のおばあさんを助けた、ではなく

   95才のおじいさんが80才のおばあさんを助けた、ですからね。

   情報は、正確に、ですよぉ。」

渡辺「えっ? 80才のおばあさんが95才のおじいさんがを助けた?」

神子「......いいですから。はい。報道資料、渡しましたからね。資料通りにちゃんと

   書いてくださいねー。」

渡辺「......あ、どうも、ありがとうございます。」


渡辺、婦警のミサの事が気になりながら、出ていく。


神子「......何よ。ミサの事ばっかり見てさ。因縁つけて、逮捕しちゃうぞ。」

ミサ「......どうしたの? 何かあったの?」

神子「まったく、どこがいいのかねー?男ってわからんわ。」

ミサ「何が?」

神子「なんでもないー。」


ドアの手前で立ち止まる渡辺、スマホを手にする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る