.



「て、寺田さん? 大丈夫……?」




「コレを……


意識のあるなつめちゃんに言うの、結構、緊張するんだからね?」




「……え?」




き、きん、ちょう……?



…って、聞こえた気がしたんだけど?


もしかして、日本の夏の、キンチョー…?

蚊取り線香の?



いやいやいやいや。

さすがにそれはないでしょう。



と、すると……


もしかして、まさか………



「き、きんちょうって、“緊張”、ですか!?

寺田さんが、緊張することなんか、あるんですかっ!?」




驚いて目を見開き、早口に捲し立てる私に、彼が恨めしげな目線を投げ掛けたかと思うと、子供のように口をきゅっと尖らせる。





「だって。

嫌って言われたら、多分、泣いちゃう…」




「ええええっ!? な、泣く……!?

寺田さんの涙なんか、全っ然、想像できない!!」




ひたすら驚き続ける私に、彼がふっと口元をゆるめて、息を吹き出す。





「泣く時は泣くよ、普通に。

今だって、気をゆるめたら泣きそうだし…」




「え、えーっ、嘘だぁー!

泣きそうだなんて、そんなの、信じられな……、って、


……あの、ちょ……っ!?」




疑う私を見下ろし、どこか挑戦的な甘い笑みを浮かべながら。


彼の指先が頬を優しく撫で、首筋をなぞり、そして、そのまま私の胸元へ滑り落ちる。



私がびくりと体を震わせたのと同時に、瞳を閉じる間もなく、少しだけ強引に重ねられた、彼の唇。

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