そして少女は魔女になった。

空家秋也

ケース1

 その少女はいじめられていました。

 同級生からいじめられていました。

 それは酷く、醜く、汚く、陰鬱なものでした。

 原因はとるにたらない事。

 彼女がいじめられやすい性質を持っていたからでした。


 そんな時、魔女の噂を聞きました。

 少女はその夜、儀式を行いました。

 諦めをまとわせ、すがるように行いました。


 そして。

 魔女は現れました。

 悪魔のように黒く。

 地獄のように熱く。

 初恋のように美しい。

 そんな魔女が現れました。

 まるで最初からそこにいたように。

 佇んで、ただ澄んでいました。

 驚く少女に魔女は言います。

「魔女になるためには条件が一つだけあるの」

「アナタを愛してる人を捧げる事」

 目の前の状況と、言われた情報に。

 少女は困惑しながら、混乱しながら。

 言葉を飲み込み、考えました。

 自分を愛する人の顔と、

 自分を嫌う人の顔を思い浮かべながら。

 考え、考え、考え。

「―――ぃ」

 頷きました。

「はい――!」

 憎い!

 憎い!!

 憎い!!!

 自分をいじめたあいつらが憎い!!

 自分をさげすんだあいつらが憎い!!

 自分をいたぶったあいつらが憎い!!

 復讐したい!

 復讐したい!!

 復讐したい!!!

「わかった」

 魔女はそれだけ言って、指を軽く振りました。

「っ……つ」

 少女は右手に走った痛みに、顔をしかめました。

 そこには、さっきまではなかった、

 尾を噛む蛇の紋様がありました。

「これで契約は成立」

「アナタは今この瞬間から魔女になった」

「これからどうするかはアナタの自由」

 それだけ言って、魔女は消えました。

 まるで最初からいなかったかのように。

 少女は慌てて部屋を出て、家の中を確認しました。

 両親の部屋を確認しました。

 妹の部屋を確認しました。

 リビングを確認しました。

 キッチンを確認しました。

 お風呂場を、トイレを、

 書斎を、物置を、座敷を、

 確認しました。

 家の中には誰もいませんでした。

 まるで最初からいなかったかのように。

 温もりさえも残っていませんでした。

 少女を愛する家族は消えていました。


 その後、少女は自分をいじめた少女たちに復讐をしました。

 自分がやられた事を行いました。

 自分がやられた事以上の事を行いました。


 気が済んだ少女は家に帰り。

 誰もいない部屋で、笑いながら泣きました。

 静かな静かな家の中に。

 少女の笑い声と泣き声だけが響きました。

 それを聞く人は誰もいませんでした。

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