ボスドロップ
オークの攻撃をかわす。
大ぶりだから避けられているが――これが当たったら、本当ひとたまりもないな。
斧でえぐれた地面につまづかないよう走り回りながら、少しずつオークに傷をいれようと、短剣で足を切りつけてみるが……硬い。
「この短剣じゃ簡単には傷をつけられなそうだ」
俺にもう少し筋力や技術があれば……ないものねだりか。
生きて帰れたら、短剣術でも誰かに学ぼうかな。
「っと。今はとりあえず集中しなきゃ……」
「グオオオ!」
オークが斧を振り上げたタイミングで気をかけのぼる。
そのままの勢いで――オークの顔面に蹴りをいれる!
「グッ!?」
いまだ!
「イグニッション、ブリーズ!」
ゴオッ! と炎が舞い上がる。
炎はそのまま渦を巻き、いくつかの竜巻となった。
ただ――それぞれの竜巻に制御は効かない。俺も燃やされないように気をつけながら、オークから目を離さずにフィールドを駆ける。
突然現れた炎竜巻にあたふたとキョロキョロするオーク。
だが――。
「炎竜巻じゃ、決定打にならない、か」
革鎧に魔法耐性でも付いているんだろうか。多少動きは鈍くなったが、決して効果的とはいえない。
短剣で倒すしかない。
……策はある。
けど、成功するかどうかが微妙なところだ。
イグニッションとライトは不発だったし……もしこれが成功しなかったら、打つ手なしだ。
ごくり。
「……やってみるしかない」
俺が考えた手は――短剣スキルとイグニッションの二重起動だ。
普通なら短剣を使うのが上手くなった人間がイグニッションを使っただけ……なんて結果になるだろうが、俺なら別の結果が生まれるかもしれない。
というか……そもそも魔力は足りるのか、っていう問題もあるか。
ステータスが確認できるのは今のうちだ。
「ステータス鑑定」
――――――――――――――――――――
【氏名】轟木悠仁
【魔力量】40/75
【職業】スカウトの鬼才
【偵察魔法スキル】Lv.MAX
【生活魔法スキル】Lv.4
【鑑定魔法スキル】Lv.2
【賢者スキル】Lv.1
――――――――――――――――――――
意外とある……けど、やっぱり消費は激しいな。魔力量も増やさないとか。
短剣スキルとイグニッションが発動すればいいけど……まあ、なるようにしかならない!
「グアアアアッ!」
「くそ、頼む発動してくれ融合魔法! イグニッション!」
――ボウッ!
「――マジか!」
燃えた刀身に、俺は目を輝かせる。
成功だ。まさか風で掻き消えるレベルの火が、融合魔法を介すとこんなに凄まじくなるのか。
「これなら……」
いける!
オークはブルブルと頭を振るって、苛立たしげにこちらを見る。
だけど苛立てば苛立つだけ――隙は大きくなる!
俺しか見えてないような血走った目で突進してくる巨躯を避け、炎を纏った短剣をオークに突き刺す。
肉が焼ける匂い。手応えありだ。
「グアアアッ!!」
痛みに叫ぶオークに、ここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。
――ザシュ!
何度も何度も、短剣で切り付ける。
「グオオオオオ!」
斧が迫り来る――間一髪。俺はオークの股の下をスライディングで通り抜けた。
振り返ると同時に、オークが膝をつく。重たい音。
首がガラ空きだ……!
――グサッ!
「グアアッ!」
――ドシンッ。
「はあ、はあ……勝った……のか?」
うつ伏せに倒れるオークの姿。
ぐわり。
視界が揺れる。
「レベルアップ……! じゃあ!」
倒したんだ!
遅れて、オークが粒子となって消える。と同時に、ドロップ品が現れた!
「おお! 籠手だ! それに魔法スクロールも!」
それと……なんだ、これ?
見たことのないドロップ品に、俺は目を瞬かせる。
「これは……石?」
手に取ってみる。石の表面にはダンジョン文字が書かれていた。
「ボスからこんなものがドロップするなんて、見たことも聞いたこともないぞ……これ、どうやって使うんだろう」
まあ……あとでじっくり調べよう。石をカバンの中に入れる。
それより籠手と魔法スクロールだ。
綺麗な籠手……オークは革鎧を使っていたけど、これはそれとは別物のような気がする。
鑑定魔法士に、石も含めて今度鑑定してもらうことにしよう。
そして、魔法スクロール……。
魔法を覚えるには、ひとつの手段しかない。それがこの魔法スクロールだ。
スキルを覚える、レベルを上げるための魔導書はあるけれど、スキルを覚えるために必要な魔法は、もともと先天的に持っているか、魔法スクロールに頼ることしかできない。
たとえば俺の偵察魔法スキルは先天的に持っているものだが、鑑定魔法スキルは以前冒険者の友人に譲ってもらった魔法スクロールで覚えた。
魔法スクロールは貴重だ。たまたま鑑定魔法スキルをもう覚えているからという理由で譲ってもらったけれど、それがなければ俺は見ることすら叶わなかっただろう。
売れば高くなるだろうに、譲ってくれた友人に感謝だ。
そしてこの魔法スクロールは、どんな魔法だろう。
攻撃魔法? 防御魔法? それとも回復魔法?
わくわくしながら、魔法スクロールを開く。その瞬間魔法スクロールに書かれた文字が浮かび上がり、俺の中に
「……よし! これで覚えられたかな?」
鑑定魔法スキルを覚えた時は、この演出にびっくりして笑われたっけ。
さて、どんな魔法スキルを覚えただろうか……。
「ステータス鑑定!」
――――――――――――――――――――
【氏名】轟木悠仁
【魔力量】15/80
【職業】スカウトの鬼才
【偵察魔法スキル】Lv.MAX
【生活魔法スキル】Lv.4
【鑑定魔法スキル】Lv.2
【使役魔法スキル】Lv.1
【賢者スキル】Lv.2
――――――――――――――――――――
「……使役魔法スキル?」
賢者と呼ばれる魔法使い じらお @tareuma_
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