ルーツゲッコーと賢者スキル
ルーツゲッコーの皮膚の柔らかい部分を狙うしかない。
つまり腹……なんだけど。
こいつら這ってるからなぁ。どうするか……。
考えている間にも、ルーツゲッコーは飛びかかってくる。
「くそっ……なんかいい手ないかな、っと!」
ルーツゲッコーの武器はその爪にある。いつもは猫のように隠しているが、攻撃の時には鋭い爪を剥き出しにする。
そこまで腕のリーチはないが、後ろ脚でも果敢に切り裂こうとしてくるから厄介だ。
何かないか。イグニッション――は使えないし。ウォーターも飲み水1杯くらいだし。投擲スキルはそもそも効くわけないし……。
ライト……ドライ……ブリーズ……うーん……。
「つくづく、使えない魔法しかないなあ、俺」
――これでも、賢者スキル持ちなんだけど。
賢者スキルは謎が多いスキルだ。
15歳になった人間に、ある時授けられるスキル。その実態は謎で、賢者スキルが授けられたからと言って、すぐ使えるわけじゃない。
俺がいい例だ。
俺は世界でも10人目の賢者スキル持ちだが――……1回も使えたことはない。
賢者スキル!……と叫びながら手を出しても何も出ないし。攻撃魔法でも出してくれれば良いんだけどな。
まぁ、今は使えないスキルのことを考えてる場合じゃ――。
「――ギャァッ!」
「っ……!」
ザシュ! と血が舞う。
……いたい。
利き腕の肩をやられた。結構深そうだ。幸いまだ動くけど……短剣はもう持てなそうだ。
まずい、逃げるしかないか?
けど、ここから隠密スキルを使ったとて……だぞ?
「ギィッ!」
「っ、あ、まずっ」
隙を見て襲いかかってきたルーツゲッコーに、地面の土を蹴り上げる。
「ギャン……ッ!」
――あ、あぶなっ!
「……そうか! 目眩し!」
それならライト? いや、それだけじゃ無理だ。
――そうだ。あれをやってみるしかない。
二重魔法! 2つの魔法を同時に展開する!
「ギギャアッ!」
「うおっ! ら、ライトと――イグニッション!」
――ピカッ! ボッ!
「……へ?」
光っただけの右手と、ちょっと火が出た左手。
「……う、うわあああっ!」
慌ててルーツゲッコーの攻撃を避けるが――爪が頬に当たり、少し血が滲む。
「いてて……マジか。ライトとイグニッション……同時に発動はできたけど、相性が悪いのかな?」
じゃあ……イグニッションとブリーズはどうなるんだろう? 火と風なら相性良さそうだけど……。
「とにかくやってみよう。――イグニッション! ブリーズ!」
――ブワァッ!
「う、うわっ!?」
――まさに、炎の竜巻。
「ギギャッ!?」
いくつもの炎の竜巻に、ルーツゲッコーが襲われている。これ……俺が出したのか?
ルーツゲッコーが粒子となって消えていく。
そのうちの2匹が魔法石をドロップしたが、俺はそれを拾うことなく、消えた炎の竜巻に魅入られたように、ぼーっと突っ立っていた。
「――……っは! め、めちゃくちゃぼーってしてた……い、今のなんだ? 俺がやったのか? 攻撃魔法でも身につけたっけ? いや、俺はアタッカーの才能は一切ないから……と、とりあえず、ステータス鑑定!」
――――――――――――――――――――
【氏名】轟木悠仁
【魔力量】25/75
【職業】スカウトの鬼才
【偵察魔法スキル】Lv.MAX
【生活魔法スキル】Lv.5
【鑑定魔法スキル】Lv.2
【賢者スキル】
――――――――――――――――――――
「……ん? あれ?」
別になんの変わりもない……? 生活魔法スキルが上がったと思ったんだけど……。
というか……魔力は減りすぎだな。偵察魔法スキルはLv.MAXだから、魔力の消費量は微々たるものなのに……さっきのイグニッションとブリーズの魔法で、こんなに減ったのか。
「……よし。さっきの魔法の感覚は覚えておこう。これからも二重魔法を使っていけば、魔力の消費量も減るかもしれな――」
――ぐわり。
「う、わ……」
視界が眩む。
これは……レベルアップ?
もう一度ステータス鑑定してみよう。
――――――――――――――――――――
【氏名】轟木悠仁
【魔力量】25/75
【職業】スカウトの鬼才
【偵察魔法スキル】Lv.MAX
【生活魔法スキル】Lv.4
【鑑定魔法スキル】Lv.2
【賢者スキル】Lv.1
――――――――――――――――――――
「ん?……ああっ!」
もともとレベル表記のなかった賢者スキルが、Lv.1になってる!
ということは……俺の賢者スキル、いま覚醒したのか!?
ステータスの賢者スキルの部分に目を凝らす。こうして集中して見ることで、スキルの種類が見れるのだ。
――――――――――――――――――――
【賢者スキル】Lv.1
・融合魔法
――――――――――――――――――――
え? 融合魔法……?
二重魔法じゃなくて?
「というか……傷、いってぇ〜〜……」
ドスン、と尻餅をつくようにへたり込む。
疲れた。右肩痛い。ほっぺも痛い。
「包帯包帯……いてて」
服を脱いで、肩の傷に軟膏を塗り、包帯を巻く。うーん、不器用。というか逆利き手で包帯を巻けるわけがないんだよなあ……。
頬は浅いのでテキトーに軟膏を塗って終わり。
「はー……」
地面に大の字に寝転がる。ダンジョンの中で地下のはずなのに、空も雲も太陽もある。
「はぁ……いや、マジで……」
ピギャー、とモンスターの鳴き声。3階層にはウインドピジョンがいるから、その鳴き声だろう。
「……はぁ……」
……ガバリ! と起き上がる。
「うわぁ! 落ち着かない!」
すごいことしたぞ俺!
あんなに苦戦してたルーツゲッコーを! 生活魔法スキルの二重魔法――いや、融合魔法で一瞬で!
あの炎の竜巻……やばかった。ルーツゲッコー7匹相手にあれなら、3階層の中ボスももしかしたら……。
3階層の中ボスはオーク。豚肉のような甘味の感じられる肉をドロップする人気のモンスターだ。他の難易度が高いダンジョンでは恒常でダンジョンにいるらしい。
俺はそれほどのダンジョンに行けるほどの実力はないけど……もしかしたら。
この融合魔法を使って、いろんな強力な魔法を使うことができるようになれば……手が届くかもしれない!
……憧れだ。
冒険者の花形、アタッカーたちの活躍を、俺は幼い頃から見ていた。
賢者スキルを持っておきながら、俺は今まで燻っていた。
それがもしかしたら、もしかしたら……って。
「俺でも……スカウトでも、雑用係じゃなくて、強くなれるのかもしれない」
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