第31話 仲直り配信

 配信が始まると、あっという間に同接数が増えていく。

 始めたての頃とは比べ物にならないなと思って、少し可笑しかった。


〈サヤトワ配信キターーーーー!〉

〈最近配信なかったから寂しかった〉

〈待ってました!〉

〈タイトルに仲直り配信って書いてあるけど喧嘩したの?〉

〈サヤさんとトワさんでも喧嘩することあるんだ〉

〈サヤさんのプリン、トワさんが食べたとかじゃね?〉

〈ありそうwww〉

〈( ´・ω・)⊃🍮 スッ〉

〈優しいプリンお裾分けリスナーいるやん〉

〈( ´・ω・)⊃🥄 スッ〉

〈スプーンも欠かさない!〉


 すごい速度で流れていくチャット欄に、遠川詩が困ったように微笑う。


「あはは、ボクはプリンを食べてはいないよ……少し、踏み入った質問をサヤにしてしまって、それでね」


〈踏み入った質問?〉

〈スリーサイズとか!?〉

〈確かにサヤさん胸あ……何でもないです〉

〈もう誤魔化せないって!〉

〈サヤさんがめぐめぐかどうかとか?〉

〈確かにそれは踏み入った質問だな……〉

〈サヤさんはめぐめぐです〉

〈決め付けリスナー現る〉


「ちょ、ちょっと、リスナーさん! 詮索しちゃ、だめ!」


 慌てた様子で言う遠川詩に、わたしは思わず笑ってしまう。

 こういう真っ直ぐに優しいところが、こいつの取り柄だと思う。

 別に言わないけれど。


「……で、仲直りの方法を、わたしが考えてきました」


〈サヤさんが!?〉

〈サヤさん主体の企画って珍しくない?〉

〈楽しみー〉

〈ワクワク〉


 わたしは自身の唇に手を添えながら、告げる。


「――雨龍ダンジョン地下一階の魔物を、トワが一体倒す。そうしたら、をわたしがしてあげます」


 わたしの言葉に、遠川詩が「えっ、えええっ!?」と驚きの声を上げる。


「そ、そんな美味しすぎる企画でいいの!?」

「うん。勿論」

「や、やったあ!」


 嬉しそうに飛び跳ねる遠川詩に、わたしの胸はずきりと痛んだ。


〈うおおおおおおおお〉

〈サヤさん→トワさんのキスがまた見れる!?〉

〈思い出されるなこねこコラボ配信〉

〈俺今日なんかいいことしたっけ!?〉

〈自分は電車でおばあさんに席譲った〉

〈俺は道案内した〉

〈私はバイト代で弟にご飯奢った〉

〈サヤトワリスナー、いい人多いな……〉

〈というか今日、雫猫じゃなくて雨龍なんだな〉

〈まあ雨龍の地下一階はスライムばっかよ〉

〈キス確定演出!〉


 盛り上がるチャット欄を見ていると、後ろから「ぽよよん」という音がする。

 振り返ると、そこには――赤色スライムがいた。


「あっ、こ、この子、雫猫にもいたよね!? 確か弱点は、水属性の魔法だったような……」

「いや……今日は、で、倒してみてくださいよ」


 わたしの微笑みの昏さに気付いた様子もなく、遠川詩は「そうか? わかった!」と笑顔で頷く。

 それから、ダンジョン・リングに手を添えた。



「――〈冥雪ギュズーユ〉」



 遠川詩が唱えた魔法が赤色スライムに命中し、赤色スライムは光の粒となって消えていく。


〈え、何今の魔法?〉

〈初めて見た〉

〈冥属性の初級魔法だな〉

〈めちゃめちゃレア〉

〈使ってる魔物も配信者も殆ど見ないよね〉

〈MP消費激しいから〉

〈それに皆使わないから魔物の弱点か判明してなかったりするんだよな〉

〈それで余計に使われなくなるスパイラル〉

〈ほえー、勉強になる〉


 遠川詩が、満面の笑顔でわたしの方を見た。


「サ、サヤ! 倒したぞ!」


 わたしはそんな遠川詩に笑い返して、

 ……彼女の身体を抱きしめた。


 ミントのような香りが、伝う。



「――〈より堅牢な守護リ・ラプテクテ〉」



 球状の防御魔法を紡いで、驚いた顔をしている遠川詩に微笑みかけた。


「……ごめんね」


 わたしは彼女の頬に、そっとキスをした。

 遠川詩は何が起こったかわからないようで、呆然と瞬きを繰り返している。


 防御魔法の先には、がいた。

 仮面のような顔の口が、にっとつり上がる。



 ――わたしは、ユニーク・スキルを使う。



 視界が、切り替わる。


 雨龍ダンジョン中層部の、正方形の部屋のような領域。


 地面に散らばっているのは、数多の魔力供給剤。


 わたしと、ねえさんを殺した魔物が対峙している。


 その様子を、ダンホが映し出している。


 わたしはダンジョン・リングに手を添えて、魔物へと告げた。



「――――お前を、殺す」

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