第23話 報酬

 ダンジョン内部で立ち話もなんだったので、わたしは遠川詩と羽生音子と一緒に、ファミリーレストラン「フラミンゴ」へとやって来た。

 わたしはメガ盛りチョコレートパフェ、遠川詩はハンバーグ、羽生音子はチーズドリアをそれぞれ注文する。

 ふうと一息ついたわたしを、隣に座っていた羽生音子がくんくんと嗅いだ。


「な、何ですか!?」

「……におい、ねこと似てる。もしかして……さやかさんのユニークスキルって、ワープ系?」

「そ、そうですけど……よくわかりましたね」

「においでわかった。ねこも、ワープ系だから。ちなみに、一度にいくつワープできるの?」

「四つですけど」

「へえ、いいなあ……ねこは一つだけ」


 そう言って、羽生音子は水をちびちびと飲んだ。


「ちなみにななこは、ユニークスキルで未来視ができる。でも、ちょっとだけ先しか見えないの」

「へえ……でも、戦闘のとき役立ちそうでいいですね」

「そう、お役立ち。……あれ、これ言っていいんだっけ」

「発言情報の取捨選択はしっかりやってください!」


 ツッコんだわたしに、羽生音子は「えへへ……」と照れたように淡く笑う。

 わたしたちの向かい側に座る遠川詩が、自身を指さしてみせた。


「ちなみに、ボクのユニークスキルは匂いでわかるのか?」

「うーん……よくわかんない。ねこ、ワープ系の人しか見分けられないから」

「そうなんだな……」


 遠川詩がしゅんとしてしまった。当ててほしかったのか……こいつやっぱ子どもだな。

 そこでわたしはふと、を思い出す。

 そうだ――「蜜」について、何か知っているか尋ねなければ。


「あの、羽生さん。勝利チームの要求についての話なんですけど」

「うん。……あ、言っておくけど、えっちなのはだめだよ?」

「そんな要求しませんから! えーとですね、特性の『蜜』ってご存知ですか?」

「みつ……ああ、知ってるよ」

「マジですか!?」

「うん」


 羽生音子はそう言って、ねずみのような耳が付いたケースに入ったスマホを操作すると、画面を見せてくれる。

 そこに示されていたのは、所々が跳ねたグレーのセミロングヘアを持つ、レインコートを身に纏った少女の動画だった。彼女の活動名も、画面の右上に表示されている。


「……雨宿あまやどリリス?」

「そう。ねこのお兄ちゃんの友達で、いわゆる解説系ダンジョン配信者。新参だし解説系って飽和してるからそんなに有名じゃなくて、しかも一度の解説で雑談みたいに色んなこと説明するから、検索性もさいあく。……でも、ねこは好きだから、よく見てるの」


 そう言って、「確かこの配信だったと思うけど……」とひとりごちながら、羽生音子は動画をスクロールバーで操作する。


「……あ、ほら。『蜜』について、解説してる」

「スマホ貸してください!」

「わ、わあっ」


 わたしは羽生音子からスマホを借りると、自分のイヤホンを挿して、雨宿リリスの言葉を聞く。


『そういや雨宿リスナーちゃんたち、「蜜」って特性知ってますー? ……お、そうそう、それでっす! つっよい魔物を誘き寄せちゃう、まーダルいっちゃダルい特性ですねえ。でもこれ、って、雨宿リスナーちゃんたちご存知?』


(誘き寄せないこともできる……!?)


 わたしは唾を飲み込んで、雨宿リリスの次の言葉を待つ。


『あははっ、知らない人が多いみたいですねえ。まー、それもそうでしょうね? かなりレアな特性ですからなー……で、簡単に言えば、使んですよ』


 画面の奥で、雨宿リリスの唇がつり上がった。


『「蜜」がつっよい魔物を呼んじゃうのは、「蜜」持ちの人間の魔力が、それこそ「蜜」みたいにいい香りを放ってるからなんですねー。でもそれって、魔法使わなきゃバレないんです。あ、それとねついでにもう一つ。全く、こんなの教えてあげるのは雨宿リスナーちゃんたちにだけだぞ♡ ……引き寄せられる魔物の種類は、んです』


 わたしは呆然と、目を見開いた。


『例えば雷系統の魔法を使うつっよい魔物がいたとするでしょー? そういう魔物って、要は、雷属性の魔力に敏感。だから、その魔物と戦いたいなってときは、「蜜」持ちの人間が使んでっす。ね、簡単でしょ、雨宿リスナーちゃんたち♡』


 ……思い出す。


 煉獄の門番ガドカーザを呼び寄せた初回配信では、遠川詩は〈火炎ファユ〉という炎属性の魔法を使っていた。

 災いを運ぶ水妖精ウォーラリリーを呼び寄せた二回目の配信では、遠川詩は〈水球ワタル〉という水属性の魔法を使っていた。

 強力な魔物が現れなかったコラボ配信では、遠川詩は一度も魔法を使用していない。


 ――つまり、雨宿リリスの言っていることは、恐らく真実だ。


 そして……が使っていた魔法は、確か珍しい属性の……


「……佐山さん?」


 声を掛けられて、わたしははっとして顔を上げる。

 見ればそこには、心配そうな面持ちを浮かべた遠川詩がいた。


「……何ですか?」

「いや……佐山さんが、笑ってたから」

「笑うくらい誰にでもあるでしょ」

「……笑い方、なんか、苦しそうだった」


 わたしは黙り込む。


「お待たせいたしましたー」


 そのときタイミングよく店員が来て、わたしたちの前に料理を並べてくれた。


 *


 帰り道、羽生音子と別れて、わたしと遠川詩は夜道を歩いていた。


「……ねえ、遠川さん」

「どうかしたか?」

「リング・ポイント、貯まってますか」

「ああ……全然割り振ってないから、そこそこ貯まってると思うけれど」


 わたしは密やかに、口角を上げる。


「……あんたにおすすめの魔法、あるんです」

「ほ、本当か!? 佐山さんのおすすめなんて嬉しいな。ぜひ教えてくれ!」


 遠川詩の純粋な笑顔に、きゅっと胸が締め付けられた。


「……ねえ」

「ん、どうかした?」

「あんたは……わたしに何か、してほしいこととか、ないの?」

「え……急にどうしたんだ?」

「……答えなさいよ」


 わたしの縋るような眼差しに、遠川詩は考える素振りを見せて。

 それから、どこか緊張した面持ちで言う。



「――そうしたら、ボクと、デ、デートしてほしい! その、明日、学校休みだから……!」



 わたしが少しの沈黙の後で、そんなんでいいのかと尋ねると、遠川詩は勿論だって言って、浮かんでいる星空みたいに優しく微笑った。

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