我が家の愛玩動物(ペット)は女子高生

皇冃皐月

第1話 お姉さん。選択肢をあげる

 「お姉さん。選択肢をあげる」


 酔いが覚めたら目の前に制服を乱して身に纏う女子高生がちょこんと私のベッドに座っていた。

 そんな名前も知らない女子高生は真顔でピースサインをしている。いいや、ピースサインではないのだが。


 「選択肢は二つね。一つ目は『女子高生を家に上げた罪で警察に突き出される』。二つ目は『警察に突き出されない代わりに私をここで飼う』。私としてはんーまぁ別にどちらでも構いんだけどねぇ。お姉さん。どうする?」


 警察。女子高生誘拐。逮捕。解雇。再就職不可能。人生終了。


 頭の中を過ぎるネガティブな思考の数々。

 けれど現実的な話。


 警察にお世話になった瞬間に私の人生は終わる。


 「わかりました。飼います、飼います。飼わせてください」


 ベッドの上で土下座をして、飼わせてくれと懇願する。


 こうして私は名前も知らない女子高生を飼うことになった。


 黒い髪の毛。私よりもうんと長く、それでいて艶やか。常に手入れしているのが見てわかる。お化粧はあまりしていない。それなのに可愛いのは女子高生というブランド力なのか、それとも素材の良さなのか。きっと両方なのだろう。


 じゃなくて。

 この子一体どこな子なんだ。というかなんで我が家に。しかも私のベッドの上に。


 冷静になればなるほど謎ばかりが深まっていく。


 「とりあえず落ち着こう……」


 頭を冷やすためにキッチンまで向かって、コップに水を注ぎ、呷る。

 肝臓が水分に歓喜し、少しずつ記憶が蘇ってきた。


 あれはそう。

 昨日、残業が終わったくらいのことだった。


◆◇◆◇◆◇


 残業してから上司に「おい、呑みに行くぞ」と酒場へと連れて行かれた。

 私に拒否権などはない。


 『パワハラ』×『アルハラ』


 という、世の中に逆境しているような組み合わせ。

 そして酒場に到着すれば加えて『セクハラ』という新たなハラスメントも加わる。こればかりは会社に勤める女として詮無きことだと諦めている。

 おじさまにはおじさまの価値観があって、今の価値観を理解しようともしない。

 まぁそのうち痛い目見るだろと他力本願な私は適当にゴマをすってやり過ごす。


 とはいえ、気分のいいものではない。


 なので、がぶがぶお酒を飲んで、無理矢理気持ち良くなる。


 テンションが高くなって、もうちょっとお酒飲めるけど、これくらいで帰ったらすごく気持ち良いだろうな〜という頃合で解散となる。

 私は「お疲れ様でした〜」とタイミングを見計らってさっさと退散した。


 意気揚々と歩く。

 自宅の目の前にやってきた。


 家の前に段ボールが置いてあって、その中には女子高生が体育座りしている。段ボールには『拾ってください』と書かれていて、まるで捨てられた仔猫みたいだった。

 夢でも見てるのかなと目を擦る。それでも目の前にはやっぱり女子高生がちょこんと段ボールの中で体育座りしていて。


 「……」

 「……」


 見つめ合って数秒。


 「捨てられた仔猫……?」

 「にゃんにゃん拾ってにゃん、なんちゃって」


 猫の真似をしてから照れるようにえへへと笑う女子高生。

 母性が擽られた。


 「わー、しょうがないなぁ。お姉さんが拾ってあげよう。捨てられた猫ちゃんを見捨てるわけにはいかなしいなぁ〜」


 お酒が入ってテンションマックスな私は、彼女の顎を撫でながら、拾ってやると声高らかに宣言する。


 「お姉さん酔っ払ってる?」

 「飲んできたからね」

 「そっか」


 そうして私は我が家に彼女を連れ込んだ。


 「疲れたからねる〜」

 「お姉さん。せめてお風呂。シャワー浴びよう!」

 「え〜、脱ぐのめんどいしぃ」

 「お酒ってここまで人を堕落させるんだ……ほら、じゃあ私が脱がせてあげるから」

 「はい、お願いしまーす」


 と、服を脱がせてもらったり。


 「お姉さん、寝るの髪の毛乾かしてからだよ! そのまま寝たら絶対に明日朝後悔するよ」

 「しないしない。大丈夫。君みたいに私髪の毛綺麗じゃないし、長くもないし」

 「そうかな。私、お姉さんの茶色い髪の毛好きだよ」

 「えへへ、そうかなぁ〜」

 「ちょろ……じゃなくて、私が乾かしてあげるから。ほら」

 「はーい」


 と、髪の毛を乾かしてもらったり。


 「やっと寝れる〜! どーんっ」

 「お姉さん子供みたいだね。ベッドにダイブって」

 「こうでもしてないとやってらんないわけよ。大人ってのは」

 「そういうものなんだ。大人大変……」

 「ほらほら、おいで。一緒に寝よう?」

 「私制服のままだに。大丈夫。その辺の壁に寄りかかりながら寝るから」

 「ダメダメ。ダメだよ。子供は大人に甘えないと」


 と、無理矢理ベッドの中に連れ込んで抱き枕みたい抱えて眠ったり。


◆◇◆◇◆◇


 「おーっと、私とんでもないことしてるかもしれない」


 冷や汗が止まらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る