第24話 過去
私は第二ゲームを終え、安心していた。ベスが扉を開けるときに、何か嫌な予感がしたが、ベスも助けることができた。義足を失ったが、それはお金があればいつでも修復できるから問題はない。
しかし、後ろからリチャードさんの叫び声が聞こえた。そこには左目に矢が刺さった凡が倒れていた。
突然、目の前が真っ暗になった。脳が目の前の光景を受け付けない。
凜はほぼ限界値まで不運が溜まっていた。そのためいつ不運が起きてもおかしくない。限界まで能力を使ったため、凜自身が死ぬ可能性も大いにあった。
能力の代償は、私にとっての不幸が降り注ぐはずなのだ。義足を失ったのはそこまで不運なことではない。お金さえあれば治せるのだから。
それなのに凡は目を失った。明らかに不幸な出来事だとしか言えない。
なぜ自分ではなく凡が不幸な目にあったのかという疑問と、これは現実ではないという思いが交錯していた。
僕は凜を抱っこして待機室まで戻ってきて、床に凜を座らせる。
凜が落ち着くまで背中をなでた。
凜は未だに「妾にとって中二病は奴隷、道具でしかない。大切なものじゃない」と繰り返している。
しばらく経って、凜は気を取り戻した。
「落ち着いたか、お嬢」
凜はうなずいた。いつものような覇気がない。
こんなときに凜の内情に踏み込んでいいのかわからない。だが、この状況ではファイナルステージを戦えないことだけは確かだった。
そのため、行動を起こさなければいけない。今まで何度も救われてきた。今度は僕が凜を救わなければいけない。
「お嬢」
僕は凜と目線を合わせようとするが、凜は僕から視線を背けようとして、顔をうつむける。
「凜」
凜の顔が上がり、視線が合った。僕は凜の頬を両手で挟み、固定した。
「凜は何をしようとしているの? 何がしたいの?」
第二ステージを通して、いやこれまで一緒にいたことで凜が何かを背負っているのは分かっていたのだ。だが、これまで聞くことはなかった。
凜は視線を彷徨わせる。今まで、先を見通していた目は、今では目の前すら見ること拒否する。
「家族と何があった?」
凜の目は一瞬、見開いた。そして暗くなる。
凜と出会った初日以来、凜の過去、家族について聞くことはなかった。いや、聞かないようにしていた。考えないようにしていたのだ。
「私は……私の家族を…………殺した」
返答することができなかった。
しばらくの間、場は静かになった。
そして凜は自分の過去を静かに話し始める。
露光凜は普通の家庭に生まれた、少しドジな女の子だった。
小学一年生の時に、自分以外の人を幸福にできることに気がついた。父が家を出るのが遅れたときにちょうど、バスが遅れてやってくるような些細な幸運しか起こしていなかったので、代償も、何もないところで転ぶなどだった。そのため代償の存在には気づかなかった。
しかし、小学二年生のとき大きな代償を受けた。痛みを感じなくなったのだ。
温かさや冷たさ、柔らかさなどは感じることができたが、痛みだけ感じなくなった。
その出来事が起きたのはアメリカ旅行中のことだった。運良く、名医のリチャード先生に診断してもらったが、原因はわからないと言われた。父と母はとても心配そうな顔をした。
私にはそれが耐えられなかった。だから、痛みを感じないのは気のせいだったことにした。
初めのうちは父も母も心配していたが、私は転んだときなど、痛みを感じる場面で痛がる演技を続けたことで元通りの生活に戻った。
痛みを感じない体になって気づいた。特殊な能力よりも、普通の女の子として家族3人楽しく生活できる方がよいと。演技をする生活は人を騙しているようで精神的に辛い。
能力を封印することにした。それからは痛みを感じない体ではあったが、演技も上手くなり、普通の女の子として生活することができた。
1年くらい前の中学1年生の時、その普通は終わった。
夏休みで、家族3人で再びアメリカ旅行に行こうと飛行機に乗っていた。その時に、痛みを感じなくなる直前に感じた、体が熱くなるような感覚に襲われた。そして、飛行機は墜落した。
目が覚めたときには見知らぬホテルの中にいた。私の体にはかすり傷さえなかった。
しかし、両親はいなかった。
ホテルのテーブルの上には一枚の手紙とボストンバッグが置かれていた。
バッグの中にはお金とパジャマ。
手紙には『家族について知りたいならアメリカの裏カジノ・チップゲバルトへ行け。推奨はしない。孤児院へ行くことを勧める』と書かれていた。
それからチップゲバルトについて調べたが、何の情報も得られなかった。だが、飛行機墜落事故のことは少しわかった。
飛行機墜落事故の生存者はゼロ。さらに、死亡者のなかに私たち家族のことは書かれていなかった。私たちが住んでいた家もなくなっていた。世界から私たち家族の存在が消されたようだった。
私たちが何か大きなことに巻き込まれたことだけわかった。
そして巻き込まれた原因は私のせいだということも。
私はチップゲバルトへ行くことを決めた。自分のせいで家族を巻き込んだのだから助けなければいけない。それに家族を失いたくなかった。一人になりたくない。
手紙の忠告を無視して行動を開始した。
チップゲバルトに行くためには、まずアメリカへ行き、表のカジノで有名にならなければいけない。アメリカへ行けるほどお金を持っていなく、カジノにも子供の私では入れない。そのために協力者が必要だった。
私はパチンコ屋に入る優しそうな男の人に話しかけた。名前は渡辺
灯矢さんは私を警察のところに連れて行こうとした。まっとうな大人だった。
警察に話したところで、家族を救うことはできないことはわかっていた。そのためなんとか灯矢さんを説得した。
灯矢さんは渋々了承してくれた。それから私の能力を使っていろいろなギャンブルでアメリカへ行くための資金を増やしていった。
毎日のように数十万稼いだ。カジノでの資金のことも考えて私たちは多めに資金を集めることにしていた。それが良くなかったのかもしれない。いや、そうでなくても結果は変わらなかっただろう。
優しかった灯矢さんは徐々に金遣いが荒くなり、暴力的になっていった。
灯矢さんは私を人間ではなく、道具として見るようになった。勝ち額が少ないときは殴られた。
能力の代償もかなり貯まっていた。
私の右足は動かなくなった。
灯矢さんはついに私を性処理にも使おうとしてきた。私は裏カジノへ行くと決まっていたため、体を鍛えていたのでなんとか抵抗することが出来たが、もう灯矢さんとは一緒にいられなかった。
私は右足を義手にするために必要なお金だけを取り、灯矢さんから逃げた。
灯矢さんの人生をめちゃくちゃにしてしまった。
もう他人を巻き込んではいけないと思った。それでも、家族を助けるために利用できそうな人物を無意識的に探している自分がいた。
気づけば、この失敗を次に生かそうと考えるようになっていた。
できるだけお金への執着が少なそうな人を探した。そして、相手が自分の力で勝てているのではなく、私のおかげで勝っているのだと思わせ、気が大きくなることを避けなければいけない。
そこで思いついたのが、相手を奴隷のように扱う作戦だった。それにあたって、口調や服装を変えた。口調や話し方はなんとなくで決めた。服装に関しては昔アニメで見ていた悪役の衣装と合わせた。
キャラを演じるのは意外と簡単だった。日頃から痛がる演技をしていたおかげかもしれない。
作戦を考えている間にも良さそうな人物を探した。
そして凡を見つけた。パチプロや競馬好きなどの間では、凡は少しだけ有名人だった。変人として。「自分は特別だ!」とかと叫ぶ、『自分大好きギャンブラー』と裏で呼ばれていた。
少しだけ凡について調べた。
凡は私が求めていた人物像に合致していた。お金以上に特別であることを重視していて、さらに怖くなさそうだった。
そして、凡と接触した。
「キャラを演じることが容易だった」というところだけ自嘲するように凜は話した。普通の女の子として生きるために演技していたのが、異常者を演じるのに役立つとは皮肉な話だといわんばかりに。
それ以外は淡々と話す。
武闘派の犯罪者相手に圧倒した凜がなぜ誘拐犯なんかに捕まっていたのか。ガンマさんとのギャンブルをなぜ僕に託したのか。そして、なぜ負けたのか。
僕が抱えていた疑問は全て解消された。
再び静かになった。
凜の過去を自分で聞いておきながら何も言うことができない。想像以上に凜の過去が過酷で辛いものだった。
「私はただ家族を取り戻したかった。そして普通の人生を歩みたかった。こんな能力なんていらなかった。普通の女の子として生きたかった」
凜の目からは涙が流れる。普通の人生を歩むことが凜にとっての唯一の願いであるとありありと感じ取れた。
「それなのに私は!」
凜は拳を地面に叩き付けた。手からは血が流れた。
「私は! 家族を巻き込んだ」
凜は何度も拳を叩き付ける。凜の腕を掴み止める。
「おい、やめろって!」
凜の気持ちはよくわかる。僕も、自分のせいで凜の爪が剥がされた罪悪感から自分を傷つけようとしたから。そして、その行為に何の意味もないということもわかっている。
「家族だけじゃない。灯矢さんの人生も狂わした!」
凜は僕の腕ごと地面に叩き付ける。
「お嬢は灯矢さんを救ったんだろ!」
凜の自傷行為を止めようとして出た言葉だった。凜は確かに灯矢という男の人生を狂わしたかもしれない。しかし、凜は罪を償ったはずなのだ。
凜の話で「渡辺灯矢」という名前が出て、誘拐事件のことを思い出した。凜を誘起した犯人の名前だ。
凜は武闘派の犯罪者相手でも互角以上に戦えるにもかかわらず、一般人に捕まるはずがない。つまり、凜はわざと捕まったことになる。
凜は拳を止めた。
「救った? はは、確かに私は灯矢さんから私との記憶を消した。たぶん、今頃昔の優しい灯矢さんに戻ってると思う」
救ったと断言したが、実際は、救おうとしたのだから、そこまで背負い込まなくていいという意味で言ったものだ。
誘拐された時も、凜は記憶を消したと言っていたが、あのときは冗談かと思っていた。だが、凜の能力について聞いた今では、記憶を消したことも噓ではないのだろう。
やはり凄い。でも、代償の存在を聞いたからにはただ称賛していいものではない。
誘拐事件後から今までの凜の行動を思い出し、嫌な予感がした。あれから凜は右目を気にすることが増えた、目測を誤ることもあった。
「待って! もしかしてお嬢の右目は……」
「何も見えてない。そんなことはどうでもいいの。私は灯矢さんを救ったんじゃない。私自身を救おうとしただけ。私は自分のために……」
再び拳を床にたたきつけ始める。
痛みを感じない凜にはリミッターがない。右手首から先は力が抜けたようにぶらっとしている。
これ以上は本当にまずいと思い、体全体で凜を抑えようとするが、凜の力が強く、抑えることが出来ない。
凜は力の入らない右手を鞭のようにして、自分の顔を殴り始めた。左手では右手でやっていたように床を殴りつける。
僕は何度も凜を止めようとする。
「イテッ!」
凜に蹴られて背中から倒れた。何度も凜ともみ合ったせいで止血した目から再び血が流れてきた。
血を見た凜は動きを止めた。
「あ。私のせいで凡も。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい――」
凜は両手を目元に当てる。叱られる幼稚園児のようにただ謝り続ける。
「やっぱり私は死んだほうがいい。みんなを苦しめた以上に苦しんで死ななければならない」
凜が再び自傷行為を始めようとしたとき、僕は叫んだ。
「ごめん」
凜は僕の顔を見た。なんでお前が謝っているの、という疑問の表情をしている。
「僕は気づいてたんだ。お嬢は特別だけど、それ以前に普通の女の子なんだって。でも、僕はそれを見ないようにしていた。お嬢は僕が憧れる特別な存在であり、普通なんかじゃないって思い込もうとしていた」
今まで見て見ぬ振りをしてきた凜の姿が思い出される。
家族の話題を出したときの悲しそうな顔。
飛行機で怯えていた、トラウマを抱えた女の娘。
ベスに頭を下げて謝っている子供。
そして、今、目の前には罪悪感から自傷行為をする中学生。
特別とはほど遠い、悩みを抱えた普通の年頃の女の子。
僕は凜のことを自分のような普通の人とは同じ所がない、特別な存在だと思い込もうとしていた。
「私は普通じゃない。それどころか特別でもない。ただ人を不幸にする化け物だ」
「違う! 少なくとも僕はお嬢に不幸にさせられたとは思っていない。お嬢のおかげで僕は一歩踏み出せた。変われた。僕にとってお嬢は化け物でも普通でもない、特別だ!」
また僕は自分勝手にも凜に特別であることを押しつけている。でも、今回は普通の女の子であることを無視しているわけではない。それも含めた露光凜というひとりの女の子が僕にとって特別なのだ。
凜は対抗するように否定する。
「違うの! 私は狡猾な化け物なの。自分の都合で巻き込んでおきながら、自分が原因で中二病の人生が狂うのを恐れた。だから、中二病が私の奴隷になる決断も、アメリカへ行く決断も、ゲルマとのギャンブルで負ける決断も、全てを中二病に委ねた。私自身が中二病の人生に影響を与えていないと思えるように」
凜も僕と同様に他人に影響を与えるのを恐れていたのだ。やはり、凜は僕と同じで元は普通なのだ。
凜が普通だとわかっても、それでも僕は言う。
「違う違う! そもそも凜と関わろうと思ったのは僕だ。競馬場にいる間、何度も凜と別れることはできた。それでも僕はそうしなかった。巻き込んだ? 違う。僕が巻き込まれにいったんだ。特別な存在の近くにいれば、特別に近づけると思って」
「中二病は私のことを見捨てられなかった。だって中二病は優しいもん。そして、私は中二病の優しさすらも利用した。正真正銘の化け物なの」
「違う! 僕が巻き込まれにいったんだ」
「違うの! 私が巻き込んだの」
「だから違うって、僕が」
「違うの!」
「違う!」
「違うの!」
……
5歳児くらいの言い合いが続いた。
凜はついに武力行使に出た。右足がない状態だとしても、武闘派犯罪者を相手に出来る凜には勝てるわけもなく、馬乗りで拘束される。
「違うの! 私は卑怯な化け物」
止まっていた涙が再び流れ、僕の顔に落ちる。
その涙は火傷するような熱さでも、凍結するほど冷たくもない。僕と変わらない涙。
「もういいでしょ。私を死なせて」
「凜が死ぬなら、僕も死ぬ」
牢屋で僕が罪悪感から死のうとしていたときに、凜に言われたことをそのまま言い返した。
「なんで? そんなの無意味でしょ」
凜も牢屋で僕が言ったことと同じことをいう。
「俺様の言うことは絶対でありんす。これは確定事項でありんす」
凜が演じていた口調と似せていった。
「僕がなんで今生きているかわかるかい? 僕はお嬢に死んで欲しくないから、今生きてるんだ。牢屋にいるときに言っただろう」
「あのときは中二病は私の本性を知らなかった」
「それも言っただろう。僕はお嬢が普通の女の子だと知っていた。ただ見ないようにしていただけ。それにたとえ知らなかったとしても、僕と一緒に過ごしてきたお嬢が今と別人なわけじゃない。僕はお嬢に死んで欲しくない」
「なんで? なんで? おかしいでしょ。私はあなたを苦しめたのに」
「理由ならお嬢もわかってるでしょ。僕が死ぬことを許そうとしなかったのはお嬢も同じなんだから」
間髪入れずに言い返していた凜の言葉が止まった。
私は凡に対する自分の気持ちに気づいていた。いつからだろうか?
初めのうちは凡が灯矢のように増長しないように奴隷として扱っていた。それが、いつからか凡が自分にとって大切な存在ではないと自分に思い込ませるために、奴隷として扱うようになっていた。
明確にはわからない。だが、このデスゲームが始まるころには、凡は私にとって大切な存在になっていた。
ケイシーが裏切ろうとしたときに、凡には幸運を与えていた。だから凡が死ぬことはあり得なかった。それなのに私は凡のことを心配した。
私の能力の代償は自分が不運と思うことが起きる。だからこそ、大好きな家族が代償に巻き込まれたのだ。つまり、凡を心配した時点で、私にとって凡は大切な存在だということを意味している。
それでも認めるわけにはいかない。認めてしまえば、代償で凡が命を落とすかもしれないのだから。
「違う! 私にとって中二病は家族を助けるための道具でしかない! 大切な人じゃない」
「僕にとっては大切な人だ!」
凜の手が僕の胸を力なく叩く。右手は骨が折れていてふにゃあとしている。
「私のことをそんな目で見ないで。あなたが私の大切になったらあなたは死ぬかもしれないの」
「だからなに? そうだとしても僕の心は変わらない。変えられない」
リチャードさんを説得している時に、わかった。僕がなぜリチャードさんを助けようとしたのか。
それは僕が憧れる特別な存在が死んで欲しくなかったから。徳を積みたかったから。自分が説得できなかったせいで死んで欲しくなかったから。
全て自分自身のためだ。
これが良いことなのか悪いことなのかはわからない。
でも、悪いことだとしても自分の心はコントロールできない。
「でも、私は……」
他人に影響を与えるのは今でも怖い。
でも、他人と関わるということは影響を与え合うことを意味することがわかった。何を与えれば正しいかなんて人間関係が乏しい僕にはわからない。それならば、せめて自分が正しいと思うことをする。
だから僕は自分の願望を凜に押しつける。
「僕は凜といっしょにいたい! 凜の本心はどうなんだよ」
「飛行機に乗るのが怖かった。犯罪者の目を潰す感触が今でも手に残っていて、気持ち悪くて吐きそうになる。能力のこと、義足のこと、目が見えないこと、痛みを感じないことを誰にも打ち明けずに、一人で背負い続けるのは辛い。何度も優しい中二病に助けを求めようと思った。飛行機に乗るときも、牢屋に閉じ込められたときも、ポーカーで負けたときも。でも、そんなことを巻き込んだ私がしていいはずがない。私は中二病を守らなくちゃいけない。だから、ずっと一人で抱えて、一人で頑張った」
凜から涙が溢れる。痛みを感じない少女は誰よりも心に痛みを抱えていた。
「でも、もう一人で頑張るのは耐えられないよ。弱い私を隠して、強い妾を演じるのは辛いよ。……巻き込んだ私が中二病にお願いしてもいいのかな」
「いいよ。僕は凜のパートナーなんだから少しは頼ってよ」
「私は…………私も……凡といっしょにいたい」
凜は僕の胸に頭を埋めて、声を上げながら泣いた。
いつかの光景とは真逆だった。
凜が泣き止んだ。
凜は恥ずかしそうに顔を上げて、僕の上から降りた。
「えっとお……これからは私どうすればいい? キャラを演じたほうがいいのかなあ?」
「うーん。僕的にはどっちでもいいけど。中二病コンビ解散はちょっと寂しい気がする」
「私、別に中二病じゃないんだけど」
「それなら『普通に憧れる冷酷お嬢様』と『特別に憧れる奴隷』のコンビだとかっこ良くない」
「結局、中二病コンビじゃん」
鋭いツッコミが炸裂した。凜がこういうことをするとすごい違和感である。
凜は片足で器用に立ち上がり、ところどころ破れているドレスの端を両手で摘まみ、優雅に一礼した。
「まあ、いいでありんしょう。妾も中二病の前ではこれのほうが落ち着くでありんすし」
「それじゃあ、これからは相棒だな」
「なんでそうなるんでありんすか?」
「だって、凜は普通になりたいけどなれていない。僕は特別になりたいけどなれていない。お互いなりたいものになれていない同志。これから一緒に頑張っていく仲だろ」
「そんなわけないでありんしょう。特別な妾と、普通未満の奴隷が同じ立場なんて冗談でも面白くないでありんす」
「イッタァァァ!」
この痛み、とても久しぶりに感じる。
というかキャラへのなりきり具合凄すぎない。片足立ちで蹴ってくるのも凄いし。
さっきまで子供のように泣いてたんだけど。それに、普通になりたいとか言っていたのに、自分で特別って断言してるし。
「こんな冗談以下の会話をしている暇はありんせんよ」
名言出たと思っていたんだけどなあ。
「妾の感覚的に、不運の蓄積状況はほとんどマックスと言って良いでありんしょう。それとこれは直感でありんすが、次の最終ステージでこの不運が全て妾に襲いかかると思われるでありんす」
「お嬢が死ぬかもしれないってこと?」
「違うでありんす。妾にとっての不運でありんすから。つまり……」
「え、何? つまり、何? イッタァァ! 何で!」
また脛を蹴られた。理不尽すぎる。
「何でもないでありんす。つまり、妾か中二病のどちらかに降り注ぐということでありんす」
つまり、の後を言われたけど、蹴られた意味がまったくわからない。
凜の頬は紅くなっていた。何か恥ずかしがるようなことをしただろうか? 今になってキャラを演じているのが恥ずかしくなったのかな。
ガンマさんによる放送が始まった。
『すべてのグループのゲームが終了しました。これをもって第二ステージ終了です。そして、生存グループが一つだったことと、想像以上の出資により生存者全員がこのデスゲームクリアとなります』
凜と僕は顔を見合わせた。良い意味で凜の予想が外れてくれたと、笑顔になった。
次の言葉で僕たちの表情は暗くなった。
『と言いたいところですが、出資者様の意見により、予定していたファイナルゲームを変更して、実施することになりました。このゲームへの参加者は生存チーム5チームのうちの1チームです。参加チームは出資者様たちによる投票で決まります。少々お待ちください』
「この参加チームは妾たちでありんしょうね」
「そうだね。でもこれはお嬢が悪いわけではないよ」
僕は凜が何かいうよりも先に原因が凜ではないと言った。
「わかってるでありんすよ。第一ゲームで妾が挑発したせいで、目をつけられたでありんしょうが、それがなければ出資金があつまらないでケイシーさんとかと闘わなければいけなかったかもしれんせんしね。そもそも妾が可愛すぎるのが悪いでありんすから。注目されるのは生まれたときから決まっていたことでありんす」
凜は僕が知ってる特別な凜に戻っていた。
『参加チームが決定しました。参加チームは露光凜様と平々凡様のチームです。扉にお入りください。参加しない生存者の皆様も扉からゲーム会場へお越しください』
ガンマさんの放送が終わると同時に扉が出現した。
「いきんしょうか」
凜は僕の前を歩く。後ろを振り向くことはない。僕もいつもの定位置である、凜の右後ろをついていく。
扉に入る時、僕と凜の言葉が被った。
「「さあ、世界を変えにいきますか(いきんしょうか)」」
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