第18話 醜い
左隅のホールから一つ上のホールに僕たちは移動した。ホール内には誰も居なかった。
「残り54チームでありんすね。どうするでありんすか?」
「さっさと4チーム殺しに行こうよ。もっとお兄ちゃんに僕のこと知って欲しいもん! ねえ、お兄ちゃん!」
移動中もだったが、隙あれば僕と腕を組んでくる。僕も嫌じゃない、むしろご褒美だからありがたく受け取るが。
「少し休憩しない?」
心の休憩が必要だ。あんな殺し連続で何度も見られない。
「お兄ちゃんがそう言うならする!」
「妾もそれで構わないでありんすよ。ここで体力を使うのも勿体ないでありんすからね」
僕が床に座った途端、扉が開く音がした。
上の扉から二人の少女が入ってきた。黒髪と白髪のおかっぱ頭。凜が言っていたオリビエの付き人だとすぐに分かった。凜やケイシーのように普通とは違うオーラを纏っている。
二人は凜よりも少し大きく、ケイシーくらいの身長で、背筋が伸びきっていてとても姿勢が良い。
二人組の男がなぜ上から逃げてきたのか分かった。 彼女たちから逃げてきたのだ。
というか、可愛い! え? ここに来てまだ出てくるの、二次元に到達してる幼女が。それも双子キャラ! 熱すぎるでしょ!
僕はこんなに可愛い幼女、じゃなくて女の子を見過ごしていたのか。ここで会えなかったら人生一番のやらかしになるところだった。
「「やっと見つけた」」
「僕を探してたの?」
「「違う。探してたのはあなた」」
二人の少女は凜の方を見て言った。
「あらあら、あと4チーム死ねば突破だったのに、不幸でありんすね」
「私たちは別にあなたと戦いにきたわけではない」
「だったら何をしようと来たんでありんすか? あなたたちもかなりの数のチームを殺したでありんしょう」
「それは相手が襲ってきたから。私たちは正当防衛をしただけ。それと小さな子供を襲おうとする醜き大人を粛正しただけ」
「私たちの目的はあなたがなぜ醜いのか、どこが醜いのか知ることだけ」
「妾が醜いでありんすか? ふふ。面白いことをいうでありんすね。まさかあの言葉が妾に向けられていたものだったとは」
「オリビエ様はいつも言っている。人間は誰もが醜い部分を持っている。それを理解して心の内に止める、改善する。それが正しい人間のあり方」
「「表面に出す者は醜い」」
「私たちはあなたの醜さが分からない。だから知りたい」
「分からないではないのでありんすよ。だって妾は醜いとは正反対の優雅に位置しているのでありんすから。醜い部分なんてないんでありんす」
「「オリビエ様が醜いと言った以上、何かしら醜い行動を取っている」」
「だから、私たちはあなたを観察したい。観察するためにこのゲームに参加した」
「ふふ。妾は可愛いから、人に見られるのは慣れているでありんす。だから別に見ていてもいいでありんすよ」
凜は一歩前に出て、ドレスの端を両手で掴み優雅に一礼した。何度見ても綺麗だと思う所作だ。
「妾は露光凜でありんす」
「知っている。私はブランカ」
白髪の少女が言った。
「私はシュバ」
黒髪の少女が言った。
二人は着物の前で手を合わせ、お辞儀した。凜の優雅で目を引くようなものとは違い、裏方に徹しているような奥ゆかしさ、安心感があった。
ケイシーはブランカたちが現れてすぐに僕の前に移動していた。
「はは。四賭才には興味ないっていったけど、訂正するね。あの二人には興味出てきた。凜ちゃんが強いっていったのも納得」
嫌な予感がした。
「僕と
僕が止めようとしたときにはケイシーはブランカたちに詰め寄っていた。
ケイシーの初撃を難なく二人はかわした。
「感情を抑えられない人」
「暴力、殺しに頼ろうとする人」
「「醜き子です」」
「はは。僕は醜いよ。自分でも分かっている。でも、問題ない。お兄ちゃんはそんな僕を好きなんだからね!」
男たちを痛めつけたときと同じ顔をしていた。自分が負けるとは思っていないのか、戦いが好きなのか、僕にはまだ彼女のことが全然分からない。
ケイシーが床を蹴ると、一瞬でブランカの懐へ移動する。横からお腹を割くように振り払われた腕をブランカはギリギリのところで避けるが、ブランカはお腹を押さえながら、後退する。
「うっ……」
ブランカからうめき声が漏れた。
「変に避けるから」
ケイシーの手には小さな赤黒い物体が握られていた。それを無造作に床に放り投げた。
「大丈夫?」
シュバの声色は変化しない。心配していないのか、信頼しているのか。
「大丈夫です。体の中に直接手が入り込んでくるような感覚がしました。余裕を持って避けないといけません」
「了解」
ブランカ達が入ってきた扉が開いた。傷を負った男が四つん這いの状態で入ってきた。
「死ね、化け物!」
男は叫び声を上げ、同時に銃声が鳴った。
「逆恨みをする人。醜き大人です」
僕の前に立っていたブランカは体を半身にして銃弾を避ける。
銃弾がスローモーションに見えた。彼女の脇を通り抜け自分のほうに一直線に向かってきた。
体が必死に生き残ろうと脳を最大まで活性化させている中、僕はどうすれば生き残れるかではなく、無関係なことを考えていた。
ケイシーの胸を触ったとき、僕は気持ち良すぎて昇天しそうになっていたのか。だから、あんなに感覚が敏感になっていたんだ。
謎が解け、死ぬ準備が完了した。その時、隣からケイシーの叫びが割り込んだ。
「お兄ちゃんに触れるな!」
カン! と金属どうした当たる音が目の前からした。
僕のお腹の前にはケイシーのナイフが突き出されていた。ナイフで銃弾を弾いてくれたようだ。そして、彼女はナイフを銃を持った男へと投げた。
ナイフは男の心臓に突き刺さった。男は声を上げる暇もなく即死した。
「第一ゲーム終了です。生存者は待機所に送ります」
ガンマさんの声がどこからか聞こえる。
瞬きすると、何も無い白い空間に転移させられていた。
壁に一枚の紙が張られている。待機室に戻ってきたのだと分かった。凜も隣にいる。
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