第9話 白鳥と学校のライバル

 私... 私はいつも皆の注目ちゅうもくの的まとだった。

 この高校に初めて来た時、全ての生徒、特に男子たちは私に夢中になった。今でも付き合いのある友達もたくさんできたし、プライドの高い男子たちを使い走りにすることも簡単だった。時々、いつか付き合えるかもしれないという希望を与えてね。そんなこと、絶対にありえないのに。


 私に逆らう者なんて一人もいなかった。まるで世界を支配しはいしているみたいだった。誰にとっても難しいことかもしれないけど、私にとっては美しさを使うだけで簡単なことだった。すべてがそうだった... あなたが現れるまでは。


 今では、思い通りになる人があまりいない。中には、私を普通の人みたいに扱う人までいる。まるで、ただ目立とうとしているだけの人みたいに。悔しい。成功を一度味わい、それを長く保ち続けたら、崩れ始めた時の苦しさは耐えられないものになる。


 でも、あの子たちにはそんな気持ちはわからない。私はただ、自分の名声めいせいを取り戻したいだけ。この場所で本当に頂点ちょうてんに立っているのは誰なのか、見せつけてやる。


 今、私は彼女の目の前に立っている。まるで明日がないかのように、その瞳を真っ直ぐに見据えている。ようやく私と同じレベルの存在が現れた... 他の人たちの話では、彼女は私より上らしいけど。後悔はしていない。必ず、この学校での頂点を取り戻してみせる。


 ふと、彼女の後ろにいる男子に目が行った。前に見たことがあっただろうか... いや、見たことがあるかもしれないけど、はっきりとは思い出せない。どこか見覚えのある顔。でも、今は気にしている場合じゃない。目の前の目標に集中するべきだ。


 勝負の方法はまだ決めていない。全校生徒の投票で決めるのはどうだろうか。それなら、誰が本当に人気があるのか、はっきりするだろう。そう、悪くない考えだ。


「全校生徒の投票で決めるのはどう? いいアイデアでしょ?」


 彼女は一瞬迷ったが、その目には変わらない決意が宿っていた。


「うん、いいわね。絶対に負けないから。」


「じゃあ、覚悟しておいてね。あなたの敗北はいぼくを見せてあげる。」


 私はその場を去りながら、投票のことを想像していた。明日にでも実施して、三日後に結果が出るようにしよう。そう、それで決まりだ。


「川城さん、大丈夫?」


 彼女がこちらを振り向いた瞬間、あることを思い出した。心配そうな表情で近づいてきた彼女は、少し厳しい目つきで人差し指を顔の近くに突きつけてきた。


「下の名前で呼んでって言ったわよね。もう忘れないでよ。」


「そうだね、ごめん... 忘れてた、白鳥。」


「それでいいの。うん、それでこそいい感じ。」


 彼女は満足そうに微笑み、まるで何事もなかったかのような顔をしていた。

 その後、光さんの方を見ると、なぜか疑うような目つきでこちらを見ていた。


 なぜかはわからなかったけど、香織も光さんの方を見つめていた。そして、光はうつむいてしまった。

 何が起きているのかわからず、光に尋ねてみることにした。


「えっと... 何か言った?」


 光さんは顔を赤くして、恥ずかしそうに言葉を絞り出した。


「わ、私のことも... 下の名前で呼んでほしいなって...」


 その言葉はとても小さく、消え入りそうだったので、聞き取れなかった。

 本当にそう言ったのか自信がなかったので、もう一度確認してみた。


「ごめん、今何か言った?」


 光さんは急いで手を振り、香織も同じように首を振っていた。

 なんとなく気にしないようにしたけど、頭の中から離れなかった。


「高宮先輩、飲み物を買ってきてくれますか? 私はリンゴジュースがいいです。お姉さまは?」


 光さんの声は震えていて、顔は赤く染まっていた。


「わ、私も香織と同じのを...」


 光さんの様子に少し驚いたけど、頼まれた通りに買いに行くことにした。

 ちょうど教室を出ようとした時、白鳥が明るい笑顔で引き止めた。


「私にもお願いできる? オレンジジュースがいいわ。」


 思わずため息をついた。意外と頼まれるものが多いなと思いながら、仕方なく教室を出て、少し遠くにある自動販売機へと向かった。


 しかし、自動販売機に着くと、そこには美慧さんがいた。彼女はジュースを買っているところだった。正直に言うと、確かに彼女はとても可愛かったが、性格が悪いという噂を聞いたことがある。まるで白鳥の正反対のようだ。もし彼女が白鳥みたいな性格だったら、もっと近づきやすかったのかもしれない。


 それでも、今の目的はジュースを買うことだった。彼女がそこにいようがいまいが関係ない。そう思いながら自動販売機に向かった。


 近づくと、彼女が何かをつぶやいているのが聞こえたが、まだ私の存在には気づいていなかった。彼女は上の段にあるジュースを選んでいるようだった。


 もう少し近づいたその時、彼女は少し驚いた様子を見せたが、すぐに平然とした表情に戻った。その一瞬の動揺がまるで幻だったかのように。


「何か用?」 彼女は鋭い目つきでこちらを見たが、すぐに落ち着き、目を閉じて冷静な表情を見せた。そして、まるで何かを理解したかのように言った。

「勘違いしないで。あなたみたいな人とは付き合わないから。」


 私は自動販売機の前に立ち、ジュースを買い始めた。


 一枚ずつコインを入れながら、彼女の誤解に対して冷静に答えた。


「別に告白するつもりはないよ。そんな理由もないし。それに、君は白鳥のライバルだろ。」


「白鳥? ああ、あの子のことね... ふーん、名字で呼んでるのね。ってことは、特別な関係ってこと?」


 確かに鋭い指摘だったが、どう答えるべきか迷った。

「付き合ってる」と言うこともできたが、「ただ仲がいいだけ」と言った方が無難だろう。彼女の誤解を避けるためにも、後者を選ぶことにした。


「そうだよ。ただ仲がいいだけだ。」


「ふーん... ただ仲がいいだけ、ね。」


「うん、それだけだよ...」


 足りないジュースを買い続け、早く立ち去りたいと思っていた。だが、まるでそれが彼女の本性であるかのように、再び呼び止められた。


「唯... それが私の名前よ。あの子に負ける気はないから、あんたも名前で呼んでいいわよ。」


 その顔には、特別な感情は見られなかった。ただ、いつも通りの無表情だった。


「なんで急に?」 思わず緊張して聞き返してしまった。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったからだ。


 彼女は誇らしげに微笑んだ。


「勘違いしないで。ただ、あんたが気に入っただけよ。“そういう意味”で興味を持ったのは、あんたが初めて。」


 彼女の言葉に困惑しながら、最後のジュースを取り出して彼女を見た。


「“そういう意味”って、どういうこと?」


 その瞬間、ふと右を向くと、白鳥が立ってこちらをじっと見ていた。

 彼女は真剣な表情で近づいてきて、ためらうことなく私の腕に自分の胸を押し付けながら、美慧さんに向かって冷静に言った。


「恵くんに手を出さないで。彼は何も関係ないわ。彼は私のものだから、誰にも渡さない。」


 美慧さんは、白鳥の言葉の意味を理解したかのように微笑んだ。

 一方、状況が複雑になってきたことに私は焦りを感じていた。


「へぇ、そういう関係だったのね...」 彼女は納得したようにうなずき、こちらを一瞥して続けた。

「じゃあ、またね... 恵くん。それから、白鳥、彼をちゃんと守ってね。私から奪われないように。ふふ、じゃあね。」


 そう言い残して、彼女は去っていった。

 白鳥は相変わらず強く私の腕にしがみついていた。

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