あなたの黒歴史、修正します!
hekisei
第1話 啓介の黒歴史
誰にでも黒歴史がある。
思い出したくもないし、できれば無かったことにしたい。
あのとき、あんな事を言わなければ、あんな事をしなければ。
そう思うことが、誰でも幾つかはあるはずだ。
もし、そんな黒歴史を美しい「白歴史」に変えられるとしたら、どんなにいいだろう。
人生が一冊の原稿だったとする。
過去の失敗や後悔を二本線で消し、訂正印を押し、その上に都合のいい話を書き加えてしまう。
そんな魔法のようなことができたら。
あなたなら、まずどの黒歴史を修正するだろうか?
これは、そんな不思議な「訂正印」を手に入れた、ひとりの平凡な若者の物語だ。
この物語の主人公である
最初は何も期待せずに使ってみた。
だが、その小さな訂正が、やがて彼の人生を大きく揺るがしていくことになる。
さて、某月某日のこと。
「お兄さん、いいモノがあるんだが、興味ないか?」
夜の繁華街。
仕事帰りにふらっと寄った立ち飲み屋の前で、啓介は声をかけられた。
振り向くと、そこには黒いロングコートを羽織った男が立っていた。
異国の雰囲気を漂わせた、どこか
「……キャッチか?」
「いやいや、そんな軽いものじゃない。あんたの人生を変えるモノさ」
男はにやりと笑うと、懐から小さなハンコを取り出した。
普通の朱肉印に見えるそれは、どこにでもある事務用品のようだった。
「これは人生の訂正印。過去の失敗や恥ずかしい出来事を、このハンコで訂正できるんだ」
「はあ?」
「試しに使ってみろよ」
啓介は笑って手を振った。
「いやいや、そんな詐欺みたいな話、信じるわけないだろ」
「じゃあ、こうしよう。タダで一回使わせてやる。それで効果を実感できたら、俺の話を聞いてくれないか?」
ゼノの目は真剣だ。
面白半分に受け取った啓介は、何か適当な黒歴史を思い出そうとした。
そうだ、高校時代のあれ……
3年生の時の文化祭。
啓介はクラス代表としてステージに立って挨拶することになっていた。
しかし、話す内容を何も準備をしていなかったのだ。
思い出すだけで汗が出て来る。
その日、啓介はマイクを握り、壇上に立った。
クラスメイトが期待する視線を送ってくる。
客席には先生や他の生徒たち。
だが、口を開こうとした瞬間、何を話せばいいのかわからなくなった。
目の前には大勢の聴衆がいる。
でも何も言葉が出てこない。
沈黙が続く。
ステージの上で、ただ呆然と立ち尽くしている啓介に、ざわざわとした笑い声やひそひそ話が聞こえてくる。
「え、何これ?」
「準備してなかったのか!」
「やばくない?」
冷たい汗が背中を伝う。
司会が気を利かせてマイクを受け取り、啓介はようやく壇上を降りることができた。
しかし、啓介の頭の中にはずっとクラスメイトたちの失望した視線が残り続けた。
「あれさえなければ……」
啓介は訂正印を握り、心の中でその時の状況を強く思い描いた。
そして、軽く印を押すような仕草をしてみる。
すると……
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