ロリエルフ養母のダンジョン育児日記

178帝国

prologue:愛娘と遅い寝起き


 昇り始めた朝日に包まれ、朝靄のような銀色の糸が私の頭上を流れる。その糸を辿ると、そこには愛しい我が子の寝顔があった。


 筋の通った目鼻立ちと、神秘性を漂わせる銀色の長髪。ユリシアは人間種として成人が早いと言われるが、まだ顔には幼さが残ったままだ。


 いつものように、私に抱きついたまま寝落ちしてしまったらしい。しかし、その体勢は昨日よりも悪化していた。スースウと穏やかな寝息を立てながらも、ユリシアは無意識のうちに四肢を私の体に絡めている。


 ほんのり汗ばんだ肌が、ふとした寝返りで擦れ、どこかくすぐったい感覚が広がる。


 子供の時はまだしも、大の大人が同じことをすると、女性らしさが出た体が所構わず私に当たってくるし、何より暑苦しい。まるで布団のように私を包み込んで、一晩中密着していたせいで、髪はジトジト、体はベタベタだ。


 途中で何度も抵抗を試みたものの、ユリシアに引き戻され、再び布団の中で縛り付けられた。彼女が諦めが悪いのはいつものことで、抱き枕の役割を受け入れるしかなかった。


 にしても、一緒に過ごした時間長かったか短かったか、私にとって不思議な感じだった。拾った当初で悪夢に魘されていた顔は、今は見る影もなく、とても穏やかな寝顔を見せている。


 まじまじと見つめていると、息が詰まりそうになる。流石に我が子というべきか。この顔が誰かに見られたら、一瞬で落ちるだろう。無邪気な彼女を外に放り出すには、まだ時期が早いと思う。気づけば、彼女の翡翠色の瞳がゆっくりと開いた。その瞳には、静かだけど確かな情熱が宿っている。


「どうされましたか?母上」


 ユリシアは小さな笑いを綻ばせた。我が子の寝顔に見惚れていたなんて馬鹿正直に言うわけがなく、わざと不機嫌そうな顔を作った。


「そろそろ起きないか」


「いやです。もうちょっとこのままにいたい」


 もう朝?と言わんばかりにユリシアは眠そうに片目を擦る。そして開いた目でちらっと私を見た。そんなバレバレな演技で騙されないぞ。


「私は起きるからね」


 と言ったものの、ユリシアが手を離さない限り、私は布団から抜け出すことはできない。最近、彼女の方が大きくなったせいで、寝起きがますますややこしくなっている。私の足先が届くのは、せいぜいユリシアのお腹までだ。そのうえ、脇からしっかりホールドされているので、逃げ出す余地もない。


 ユリシアのせいで、最近は私まで寝坊助呼ばわりされた。私は周に三回しか寝坊したりしないのに……

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