終わりなき旅路、次はどこに行こうか

編笠たわら

第一章

第1話 旅立ち

——とある集落が襲撃にあった。


 今からはるか昔、世界中に既存の生き物の変異体である巨大生物が突如出現し、人類への侵略が始まった。

 その影響で人口は半減し、その危機感から世界各国が手を結び、劇的な技術の発展を遂げた。

 そして、人類は巨大生物の対抗策として人の代わりとなる戦力『アンドロイド』の開発を遂げ、独立した思考と卓越した戦闘技術により、巨大生物の数は激減し、人類は勝利した。

 

「暴走したアンドロイドが来たぞ、みんなシェルターの中へ逃げろ!」


 誰かがそう叫び、それを聞いた集落の人間は我先にとシェルターに駆け込んでいく。

 

 確かに人類は勝利した。しかし、平和が訪れることはなかった。

 なぜなら、人類は戦力たる『アンドロイド』の回収のことを深く考えれてなかった。

 戦場に残されたアンドロイドは次第に不具合を起こし、人類と巨大生物の見分けができなくなってしまい、人類にまで攻撃をしてくる機体が現れるようになった。

 その結果、人類は残った技術を使い、ひっそりと暮らしていく事を選んだ。


「んあぁ?もう夜だぞ、こんな時間から騒ぐなよ。うるさいなぁ〜」


 そう言って、呑気に二度寝を始める男の名は、坂本光彦、この集落のインフラの整備もとい、何でも屋を生業としている。



 昨日のことははっきりと覚えていないがいつもと違う夜だったのは確かだ。たが、朝っぱらから考え事をするのは疲れる。

 朝なので朝食を食べることにしよう。今日はよく眠れなかったから眠気覚ましにコーヒーを飲みたい。そしてコーヒーに合うものと言ったら甘いものだよな。異論は認めん。

 とするとフレンチトーストなんかが甘さ的にも、量的にもちょうどいい。

 作るものが決まればさっそく料理を始めよう。

 ボウルの中に卵と砂糖、牛乳を入れ、それを混ぜたものを適度にステンレスバットの上に広げて、食パンを置いていく。少し多いかもしれないが、2枚ほど同時に並べることにしよう。そして、残ったボウルの中身を食パンの上から回しかけてひっくり返す。

 あとは油とバターをひいて焼いていけば完成だ。それではさっそくいただくとしよう。


「いただきます」


朝から食べる甘いものは最高だ。そして、朝食を作る合間に入れておいたコーヒーを飲んでから食べると、その味は別格である。コーヒーは甘いものを食べるための飲み物と言っても過言ではないだろう。もっと気軽に豆を挽ければいいのに。


 その後、いつも通り集落での仕事の準備を始める。今日は近所の中村さんの家に行く予定となっており、どうやら冷蔵庫の調子が悪いようだ。そもそも何が原因か分からないのなら修理のしようがない。

 

 そう思い、最低限の道具だけ持って中村さんの家へ向かおうと外に出た時、ある異変に気づいた。


「なぜ人がいないんだ…」


 いつも聞こえてくる正面の家の子供たちの楽しそうな声は聞こえて来ず、今まで気にしたこともなかった「ホーホー」鳴いている鳥の鳴き声だけが響き渡っていた。


 もしかして、昨日うるさかったのはこれが関係するのか?なんて考えていると、ちょうど見えない位置から物音がした。

 

「ヒェッ‼︎だ、誰かいるのか?なんだよぉ、普通に人いるんじぁねえか、ハハハ」


 不安な気持ちを空笑いで誤魔化し、柄でもない独り言をペラペラと喋りだす。

 そして、物陰から少しずつ出てくる人影に近づいていくとそこには明らかに様子のおかしいアンドロイドが立っていた。


「ギ、ギガガ…」


 今にも壊れそうな音を出しているからといっても安心はできない。巨大生物という化け物を何十何百と倒していく化け物なのだから。人間なんて小指で十分だろう。


 それを目にした瞬間に皆がどこに行ったかを理解したと同時に回れ右をし、逃げる!

 アンドロイドもギシギシと音を立てながら人間離れした速度で追いかけてくる。


 ありがたいことに集落は限られた土地に家を敷き詰めているため、非常に複雑な道となっている。なので、逃げるには打って付けだ。普段は狭くて迷いやすいと迷惑極まりないが初めてありがたいと感じた。


 だが、逃げるのにも限界がある。何か考えろ。倒そうだなんて考えない方がいい、多分返り討ちにあう。だとしたらやはり逃げる一択だが、集落の外に出さなければ根本的な解決にならない。

 こうなったらこいつを引き連れて外まで逃げてしまうか。以前バイクの修理を行ったことがある。運良く襲ってきているアンドロイドは足に故障が見られるからバイクでなら振り切れる。そして、世界中をこの目を見るという長年の夢への第一歩として軽い旅のようなこともできるかもしれない。

 バイクを勝手にパクったらあいつは怒るだろうが、元を言えばあいつのわがままを聞いて無理してその辺に落ちていた鉄の塊にしか見えないものを直したのだから。

 

「書き置きぐらいは…してやれるかな」


 そうと決まればまずは集落の門を開けなければならない。

 開けるのはさほど難しくはない。ボタンをポチッと押すだけだ。問題はどうやって閉めるか。通ったところで閉めるやつがいなければ後から何かが入ってくるかもしれない。

 そんなことを考えると先にバイクのある家についてしまった。

 あたりを見渡すとアンドロイドの姿はないようなので今のうちにバイクの鍵を取ってきてしまおう。


「お邪魔しまーす。少しバイク借りていきまーす」


 小さな声で誰もいないと分かっていながらも言うことは言いつつ入っていく。

 すると鍵より先に衝撃的なものが目に入った。そう、ベッドの前であいつが倒れてるのだ。血は見えないが心なしか臭い。これが死臭ってやつか、


「お、おい!大丈夫か!くっ、そんなっ、ろくでもないやつだが話は合ういいやつだったのに」


 ん?いや待てよ、アルコール臭いな。こいつもしかして…


「おい、起きろ!呑気に寝てる場合じゃないぞ、外が大変なことになってるんだ。ちょうどいいからお前に手伝って欲しいことがあるんだ。」

「あぁ?なんだよ、朝早くから、うるさいなぁ、なんか頭痛いし」

「それは飲み過ぎって、そうじゃなくて外でアンドロイドが暴れてるんだ。多分住民はシェルターに逃げ込んだと思うんだがやつを外に出さないといけない、だから門を開けるのを手伝って欲しい」

「ここにいるってことはお前も寝てたのかよ…」


 つまらないことを言う奴に軽く蹴りを入れ、簡潔に今手伝って欲しいことと状況、バイクを借りることを告げる。


「分かった。うちの『バタフライ・ポテコ』が見れなくなるのは寂しいが外に出るのは嫌だし、いいだろう」

「バタ…、あぁ、ありがとな、ついでにその辺をぶらついてから帰ろうと思ってる。何かお土産持って帰ってやるよ」

「分かった、そんならささっとお前とロボを追い出してシェルターにいるみんなに安全になったことを伝えないとな」



 外に出てバイクにエンジンをかける。ガソリンは使う機会がないからほぼ満タンとのことらしい。門を開けるのは集落を囲む塀の内側なのでアンドロイドに気づかれることはないだろう。

 作戦としてはアンドロイドが見えてからクラクションを合図として門を開けてもらい、引きつけつつ全力で逃げる。少ししたら門は勝手に閉めてくれるとのこと。


「それじゃあ、またな、光彦」

「お前こそだぞ、佐藤、酒の飲む量気をつけろよ」


 少し時間が経ち、佐藤は予定の位置までついたようだ。外にしばらく出る予定だから外泊用の道具や食料が欲しいところだ。なので、自分の家にちょっと寄っていこう。



 思ったよりも食料がない、というより長期保存に向いている食材がない。とりあえず調理器具は持っていくことにしよう。

 そして、腐らすのも帰ってきた時のことを考えると嫌になってきたから持てるだけ持っていってしまおう。

 外に出ることは落ちている使えそうなものを探しにいく時があるのでないわけではないが、日帰りのことが多く、遠くまではあまり行かないのだ。だから、この機会に行ってしまいたい。

 ちょうど遠くまで行くための足も手に入れたし。


 なんて、呑気なことを考えてる場合ではなかった。そろそろ向かおう。そんなことを思い、バイクにエンジンをかける。

 道が複雑といっても全ての道がそうとは限らない。2箇所ある門から門までの道は比較的まっすぐだ。

 今日は人がいないから通行人を気にしなくてもいい。俺の家はその道の近くにあるから門までバイクに乗っていくとしよう。

 

そうしてルンルン気分で久しぶりに乗ったバイクで例の道に出るとやつがいた。

 そう、今回の目的でもあるアンドロイドくんだ。


「あ、やっべぇ」

「ガ、ガガ…」


 本日2回目の闘争劇が始まった。といっても前より緊張感はない。なぜなら、俺には頼れるバイクとおまけの悪友がついている。

 

「その足でついてこれるものならついてきな!」


 そう言ってバイクを急加速させる。完全に相手を舐めているやつの笑い声を出しながら走っていく。

 そういえばクラクションを鳴らしたら門を開けてくれるんだよね。まだ、片手離すの怖くてで気ないんだけど…

 話が変わってきた。どうしよう、ほんとにどうしよう。引き離せてはいるんだけど圧倒的ではないんだよね。だから止まったら死ねる。本当ドウシヨ…。


するとなぜか門が開き始めた。ナンデ?これは帰ったら絶対に聞くとしよう。今はお友達パワーによって助けられたということにしておこう。



 そうして、三十路になってからの初めての旅行が始まるのだった。






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