第12話 魔の理を導きし者

 熟練度上げも兼ね、スキルを使用しながら、蛇腹剣に変化させた【叛天の救誓レベリオ・ファトゥム】で邪魔な草木を斬り払う。


 そうして、森を斬り進むこと十数分が経過し、ダグラスは川の流れる、木々の開けた場所に立っていた。


「……『乾坤の滝』から流れてる川か。ダグラスが死んだ場所よりも、下流みたいだな」


 ダグラスの身体へ転生した際に見た川よりも、大分緩やかな川の流れを眺めて、静かに呟く。


「開けてるし、丁度良い修行場所だな!」


 村に近すぎても、修行の音が村へ響く恐れがある為、ある程度村から離れたこの場所は、修行の場として最適だった。ダグラスはこの場所に通う事を決めつつ、早速熟練度上げへと取り掛かる。


「さて、【夢幻魔法師】目指して頑張りますかっ! ——『光槍フォトン・ランス』」


 そう告げると、ダグラスの目の前に白い光で構成された槍が顕現し、川へと射出される。撃ち出された光の槍は、川底を抉り、盛大な水飛沫を齎した——。



 ◇ ◇ ◇



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 ダグラス・イニティウム

 《年齢》十二歳     《才能》EX

 《闘気》B       《魔力》B

 《聖力》C⇨B     《識力》B

 《天職》【極越神】(——)

  ——【剣士】(五六〇/二五〇〇)

  ——【拳士】(〇/二五〇〇)

  ——【弓士】(〇/二五〇〇)

  ——【鞭士】(七〇/二五〇〇)

  ——【火魔法師】(〇/二五〇〇)

  ——【水魔法師】(〇/二五〇〇)

  ——【土魔法師】(一五/二五〇〇)

  ——【風魔法師】(〇/二五〇〇)

  ——【光魔法師】(一四八〇/二五〇〇)

  ——【闇魔法師】(〇/二五〇〇)

  ——【司祭】(一〇/二五〇〇) New

  ——【釣師】(〇/二五〇〇)

  ——【農夫】(八〇/二五〇〇)

  ——【裁縫師】(〇/二五〇〇)

  ——【料理人】(六五/二五〇〇)

 《装備》【叛天の救誓レベリオ・ファトゥム

 《称号》『魔神の使徒』『極神を超越せし者』

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「ん~……今日中に【光魔法師】のカンストは無理かぁ」


 川原に座り込んだダグラスが、ステータスを眺めながら悩まし気に呟く。


 途中、【創極の神造工房ケルサス・アーク】で昼食を取ったものの、午前中から六時間以上の時間を、熟練度上げに費やしていた。しかし、【光魔法師】の熟練度上限までは、未だかなりの熟練度が必要だった。


 一回の魔法で稼げる熟練度に対して、『上位職』の取得に必要な熟練度が多く、魔法の使用回数を増やして熟練度を稼ごうにも、直ぐ魔力が枯渇してしまう。


「『上級職』の取得でこれだと、『特級職』以降は……考えたくないな。やっぱ、ダンジョンに潜らないと駄目かぁ」


 『天職』の熟練度は、空撃ちよりも敵と戦った方が大きく上昇する。敵が強ければ強いほど熟練度の上昇率が上がる為、ゲームで熟練度上げする際には、強い魔物の出現する五大ダンジョンに良く通っていた。


「はぁー。……そろそろか?」


 そう呟きながら、目に意識を集中し、自身の胸元へ視線を向ける。識力が発動した視界には、心臓付近で渦巻く青白い光が映し出された。


「魔法一発分は回復してるみたいだな」


 先程魔法の熟練度上げに熱中している時、集中力が高まった影響か、識力の発動したダグラスは、自身の胸元に青白い光が渦巻いているのを発見した。最初、青白い核心の光など見た事も無かった為、その光の示すモノが分からなかったのだが……。


「——識力で、体内の魔力を可視化出来るとはな」


 魔法を使用した際、青白い光が手の先へと移動し、光の槍を構築したことで、体内にある青白い光が魔力を可視化したものだと理解した。


 ゲームには一切登場しなかった仕様に興奮したダグラスだったが、魔力残量の確認程度にしか使えない事に気づき、直ぐ落ち着きを取り戻した。


(敵の魔法を先読み出来るとか考えたけど、魔法名を呟く時点で分かるしなぁ……)


 いまいち使い所の無い識力による魔力感知に、苦い表情を浮かべる。


「まぁ、魔法が構築される過程を目で追えるのは、感動的だったな! こう、心臓から幾つかの光の線が、腕に延びていく感じで……え?」


 魔法を発動した際の魔力経路を思い出していると、心臓付近で渦巻く青白い光から腕に向かって、光の線が延び始めた。


「……スキル無しでも、魔力の操作は可能なのか?」


 識力による核心の光で、魔力の流れていく経路を確認しながら、魔法を構築する際に見た魔力経路をトレースする。いくつか視認出来る魔力経路の内、手のひらまで続く経路を選び、慎重に魔力を流していくと……。


「おぉ! 魔力を纏ってるのか!」


 ——手のひらに紺碧の輝きを放つ魔力が出現した。


(スキルを使わずに、魔法の構築までいけるか……?)


 そう考えたダグラスは、その場で立ち上がり、魔力の纏った右手を川に向けて伸ばした。魔法スキルを使った情景を思い出しながら、手のひらに纏っている魔力を、空中で収束させる。


(……イメージは『光槍フォトン・ランス』)


 今日の熟練度上げで、数え切れないほど使用したその魔法は、ダグラスの瞼に焼き付いていた。明確なイメージに従い、伸ばした手の先で、魔力が白い輝きを放つ光の槍を構築する。


「——行けッ!」


 川に光の槍を射出するイメージを持つとともに、鋭く声を発した。『光槍フォトン・ランス』を放った時と同じく、撃ち出された光の槍は、川底を抉ると共に、盛大な水飛沫を齎した。


「で、出来た……」


 スキル無しで魔法の使用に成功したダグラスが、驚きに立ち尽くしていると……。



《スキルを介さない『魔法』の発動が確認されました》

《称号『魔の理を導きし者』を獲得しました》

《魔導の境地へ到達した事により、『天職』を更新します》

《【火魔法師】が【火魔導師】へと変更されました》

《【水魔法師】が【水魔導師】へと変更されました》

《【土魔法師】が【土魔導師】へと変更されました》

《【風魔法師】が【風魔導師】へと変更されました》

《【光魔法師】が【光魔導師】へと変更されました》

《【闇魔法師】が【闇魔導師】へと変更されました》



「な、何なんだよ……」


 唐突に頭の中へ響き出したアナウンス。次々と流れてくる膨大な情報量に圧倒され、顔を引き攣らせたまま声を漏らした。


 アナウンスが止んでから、数十秒の硬直を経て、ダグラスは更新されたであろうステータスを確認する。


「……『ステータス』」


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 ダグラス・イニティウム

 《年齢》十二歳     《才能》EX

 《闘気》B       《魔力》B

 《聖力》B       《識力》B

 《天職》【極越神】(——)

  ——【剣士】(五六〇/二五〇〇)

  ——【拳士】(〇/二五〇〇)

  ——【弓士】(〇/二五〇〇)

  ——【鞭士】(七〇/二五〇〇)

  ——【火魔導師】(〇/二五〇〇)

  ——【水魔導師】(〇/二五〇〇)

  ——【土魔導師】(一五/二五〇〇)

  ——【風魔導師】(〇/二五〇〇)

  ——【光魔導師】(一四八五/二五〇〇)

  ——【闇魔導師】(〇/二五〇〇)

  ——【司祭】(一〇/二五〇〇)

  ——【釣師】(〇/二五〇〇)

  ——【農夫】(八〇/二五〇〇)

  ——【裁縫師】(〇/二五〇〇)

  ——【料理人】(六五/二五〇〇)

 《装備》【叛天の救誓レベリオ・ファトゥム

 《称号》『魔神の使徒』『極神を超越せし者』『魔の理を導きし者(New)』

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「……」


 大幅に変更されたステータスを見て、言葉を失うダグラス。


(……『魔の理を導きし者』とか……絶対ヤバい奴だろ?)

 

 とりあえず、この大幅なステータス変更の根幹になっていそうな『称号』を確認することにした。



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『魔の理を導きし者』

 魔導の境地へ到達し、自らを魔の理とする者

 ・【魔法師】の『天職』を【魔導師】へと昇華する

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「あれ……? 何か、大したことないな?」


 仰々しい称号に、一体どんな効果があるのか、と身構えていたのだが、シンプルな称号の説明に肩透かしを食らう。あれだけ長々とアナウンスを聞かされたのにも拘わらず、いまいちパッとしない称号の効果に、釈然としない気持ちを抱いた。


「拍子抜けだな……。【魔導師】に昇華するって、何が変わったんだ?」



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【魔導師】

 魔の法則に縛られず、自らを魔の理とする者

 ・スキルを介さない『魔力操作』に極大補正

 ・『魔導の理ウィザード・コード』を使用可能


魔導の理ウィザード・コード

 万象の魔力に干渉可能(干渉力は『魔力階位』に依存)

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「ん〜……微妙じゃね?」


 称号を獲得した際、『魔の理』や『魔導の境地』などの単語を聞き、正直期待していた。熟練度上げに関して、『上級職』以降は難航しそうな兆しが見えた為、それを解決出来るような効果があれば良いなと考えていたのだ。それなのに、得られた力はスムーズな魔力操作と、様々な魔力への干渉権だけ。


(……そもそも、『万象の魔力に干渉可能』って何だよ! 抽象的すぎるだろッ!)


 期待していた分、得られた力のしょっぱさに怒りが込み上げてきたダグラス。不貞腐れたまま、音を立てて川原へ座り込み、極大補正が掛かった魔力の操作を試し始める。


「……確かに、スムーズになってるな」


 先程は腕の先まで魔力を到達させるのに、一分ほどの時間を要した。しかし、【魔導師】を取得した補正により、ものの数秒で腕はおろか、全身へ魔力が行き渡る。自身の身体を覆う紺碧の魔力を眺めていると、唐突に魔力が霧散した。


「え……? あ、そっか。さっき回復した分の魔力を消費して、『光槍フォトン・ランス』を撃ったんだった」


 『光槍フォトン・ランス』をスキル無しで再現する直前、ダグラスの魔力は魔法一発分程度しか残っていなかった。魔法を放ち終わったダグラスの魔力は、既に枯渇寸前であり、そんな状態で魔力を纏った為、途中で魔力残量が底をついたのだった。


「完全に空っぽだな、魔力の光が一切見えない」


 自身の胸元に視線を送りながら識力を発動し、魔力を示す青白い核心の光を思い浮かべる。本来、心臓付近で渦巻いている筈の光が一切見えず、魔力も枯渇したことだし、そろそろ帰るか、とダグラスが考えた瞬間……。


「ッ⁉︎」


 ——極めて細い線状の魔力が心臓付近に流れ込み、魔力が僅かに回復するのを捉えた。


 気を抜けば見失ってしまいそうなほど細い線状の魔力を、必死で捉え続けるダグラス。一体どこからこの魔力が流れ込んでいるのか、と心臓付近から線状の魔力を視線で辿っていく。


「身体の外から流れて来てる……? ——なッ⁉︎」


 魔力を辿りながら顔を上げた先には、——青白い光の粒子が雪のように舞う、幻想的な光景が広がっていた。


「雪……いや、魔力か? どうして空気中の魔力が俺に流れ込んで……ッ! まさか、魔力の自然回復する仕組みって……」


 幻想的な光景に見惚れつつも、魔力の自然回復が、世界の魔力を取り込んで行われているのだと察した。そして、青白い魔力の粒子が舞う世界へ、おもむろに右手を伸ばす。


「(万象の魔力に干渉出来るなら——)『魔導の理ウィザード・コード』」


 識力の発動に意識を集中しつつ、目の前に漂う魔力へ干渉を試みる。すると、青白い魔力の粒子が、伸ばした右手の先へと収束していく。


(……魔法の構築に……意識を裂く余裕は……無い……ッ)


 世界の魔力を視認する識力の維持と、その魔力への干渉を同時並行するだけで精一杯のダグラスは、額に脂汗を浮かべながら、一番簡単に構築出来る『最下級魔法』をイメージする。そして……。


「デカッ⁉︎」


 ——直径一メートルを超える、特大の『光球フォトン・ボール』が、右手の先に構築された。


 自身の構築した魔法の大きさに驚愕した瞬間、集中が途切れ、識力で見えていた魔力の青白い光が忽然と姿を消した。それまで広がっていた幻想的な景色も相まって、夢でも見ていたのでは無いか、と考えてしまうが、煌々と輝く光球がそれを否定する。


「魔力は枯渇してるのに、こんなデカい魔法を発動出来るなんて……」


 世界に漂う魔力を利用した魔法の構築により、魔力消費無しで魔法を発動可能なことに気づき、顔を引き攣らせるダグラス。


「これってまさか……魔法が……無限に撃てる……?」


 現実から逃避する為、ダグラスは特大の光球を川へと撃ち込み、轟音と共に飛散する水飛沫を呆然と眺める。


(あぁ、水飛沫が綺麗だなぁ……てか、集中し過ぎて頭痛い……もうお家に帰ろう……)

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