地味な僕と完璧生徒会長の裏アカ同盟
のいのい
1章
プロローグ
暗闇の中で、俺は剣を構えていた。
巨大な竜が目の前にいる。口から火を噴き出し、まばゆい閃光が走る。
やばい、このままじゃ一瞬で焼き尽くされる!
「ぐっ……! こんなところで、終わるのか……?」
必死に剣を振りかざすが、敵はまるで動じない。
体長はビル数階分はあるだろうか。
それでも、ここで逃げたら仲間たちが危ない。俺がやらなきゃ、みんなが……!
「うおおおおおおっ――!」
意を決して飛びかかる。だが、竜の巨大な顎がガバッと開いた。
次の瞬間――画面が暗転し、画面下には冷たい文字が浮かぶ。
《GAME OVER》
「ちょっ、え? 今の避けられたんじゃないの!?」
俺はキーボードをガタガタ鳴らしながら叫んだ。
視界を埋め尽くしていたファンタジーの世界は消え、パソコンデスクの明かりだけがやけに眩しい。
「……あー、もう最悪。タイミングずれたか」
ヘッドセット越しに、リスナーたちのコメントが流れてくる。
“ナールさん、ドンマイ!” “突っ込みすぎwww” “今のはプロでも避けられないかもね”
――そう、これは異世界ファンタジーの世界じゃない。
ただのゲーム実況配信だ。
俺のハンドルネームは「ナール」。
生放送でゲームを楽しんでる、しがないVTuberである。
「よし、みんなありがとな。今日はここまで!
「次回はきっちり倒してみせるから! じゃあねー!」
そう言って配信を切り、疲れた体を椅子に沈める。
画面には視聴者の熱いコメントがまだしばらく流れていた。たとえゲームの世界だとしても、多くの人と同じ時間を共有できるってのはなんだかうれしい。
「……でも、学校じゃ絶対言えねえよな」
現実世界の俺は、ごく普通の地味な高校生。
クラスでも目立たない方だし、家族にも秘密でVTuberをしている。
もしバレたら「いったい何やってんの?」って冷たい目で見られるに違いない。
そう思うと、少しだけ胸が痛む。
だって俺は、本当はもっと派手に輝きたいのに。
――けれど、そんな“地味な俺”の毎日は、ある出来事をきっかけに、大きく変わっていく。
あの“完璧生徒会長”――茅ヶ崎 香澄(ちがさき かすみ)との秘密の繋がりが始まるなんて、今はまだ想像もしていなかった。
確かに、この日々はドラマチックなファンタジーではない。
でも俺にとっては、ある意味それ以上にスリリングで、甘酸っぱくて、そして――運命的な物語の幕開けだったんだ。
夜のパソコン画面に映る自分のアバター姿を見つめながら、ふとそんな予感が胸をかすめた。
(まさか、これが“俺史上最大の事件”になるとは……。)
気づけば、鼓動が少しだけ高鳴っていた。
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