第6話 偶然?

キーンコーンカーンコーン始業のベルが鳴る。


授業が始まっても、頭の中はずっとモヤモヤしていた。


 「……お前も、横浜の学校、あんまり好きじゃなかった?」


 理玖のあの言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返されて行く。

 なんで、そんなこと聞いたんだろう。

 私が、前の学校で何があったのかわかるの?何か知ってるの?

 それとも……ただの偶然?


 いや、そんなわけない。

 だって、彼は確実に 「何かを知っている顔」 だった。


 ――聞かなきゃ。

 このままじゃダメだ。


 「ねえ、さっきの話――」


 休み時間になった直後、私は思い切って理玖に話しかけた。

 でも、その瞬間――。


 「ねえねえ!理玖くんって好きな食べ物なに!?」


 ――加奈が割り込んできた。


 「え?」

 驚いて言葉を止めると、加奈はニコニコしながら理玖を見つめている。

 私の話なんて、最初からなかったかのように。


 「え、あぁ……特にないけど」

 理玖が少し戸惑ったように答える。

 その間、私は 「さっきの話」 の続きを聞くタイミングを完全に失ってしまった。


 「えー!なんでもいいの?」

 「……別に」


 会話がどんどんずれていく。

 私はもう一度、口を開こうとした。


 「じゃあ――」


 「ねえ、二人とも転校生だし、家近いんじゃない?どこ住んでるの?」


 ……また、話を遮れらた。


 偶然?それとも―― わざと?


 理玖に質問しようとするたび、加奈がタイミングよく話を割り込んでくる。

 それが、何回も、何回も続いた。


 「……っ」


 胸の奥が、ギュッと締めつけられる。

 あの時の、「聞かせてもらえない感じ」 に似てる。


 ――いじめられてた時と、同じ。


 誰かが話しかけてくれたと思ったら、途中で話を遮られる。

 私の言葉は、なかったことにされる。

 そんなの、もう経験したはずなのに。


 どうして、またこんな気持ちにならなきゃいけないの?


 「……私、ちょっとトイレ行ってくるね」


 そう言って、私は教室を出た。

 耐えられなかった。


 振り返らなかったけど、後ろで理玖がじっとこちらを見ていた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る