四つ目の国『鍛冶の王国、メイベック』

「ようやく着きました……」


 私が次にやって来た国は、鍛冶の加護を与えられた人々が暮らす王国『メイベック』です。この国の武器や防具は品質が高いと有名で、各国から沢山の人々が訪れます。


 その為、国はとても潤っているようです。私がこの国にやって来た理由は当然、武器を求めてです。


 入国の手続きは沢山人が居るため長引くかと思いきや、多くの窓口が有ったため直ぐに終わりました。国に入って見ると、ガヤガヤとした雰囲気と言うか、活気溢れる町並みでした。


 所々には身長の小さい『ドワーフ』が居ました。ドワーフというのは、長寿で酒好き、身長が小さい代わりに手先が器用という、この王国独自の加護を得た種族です。


 そう、私がこの王国にやって来た理由も、王国随一のドワーフの鍛冶師であるライルスという人を訪ねてです。


 私は王国の辺境とも言えるライルスさんの工房へとやって来ました。そこには、とても辺境とは思えない位の人だかりがあり、全員がライルスさんの作る武器や防具を求めて来たようです。


 工房の中から一人のドワーフが出て来ました。そのドワーフこそがライルスさんのようで、人だかりは一気に集中しました。ライルスさんは、何かを探すように辺りを見渡し、何人かを呼び入れました。呼ばれた何人かは、歓喜に酔い本当に人気な鍛冶師なんだと再確認しました。


「おい!そこの……ローブを着た女!」


 私は振り向くと、ライルスさんは私の方を見つめており、私を呼んだのだと直感的に理解しました。ライルスさんに着いていくと、他にも呼ばれた何人かが中で待って居ました。


 ライルスさんは全員を見渡すように眺め、声を張り上げて言いました。


「この中に、魔法使いはいるか?それも、攻撃魔法のだ」


 は?そんな声が聞こえ、皆さんポカンとした顔をしていました。 私はもう一度辺りを見渡すと、皆さん魔法使いっぽい見た目だったと言うことに気がつきました。


 十五人近くいた人達の中で手を挙げたのは、私だけでした。


「なら、そのお前を残してあとは帰っていいぞ」


 他の人達は不満な表情を見せ、何かを言おうとしましたがライルスさんにギロリ、と睨まれ黙りこくってしまいました。そして結局とぼとぼと歩いて去りました。


 攻撃魔法使いは希少です。回復魔法使いや状態異常を司る魔法など、多くの魔法があるなかで、攻撃は使う場面もあまり無いですし、何より危険です。冒険の途中で味方の魔法が後方から直撃なんて事もざらにあります。


 そんな攻撃魔法使いに、一体なんの用があるのでしょうか。ライルスさんは眉間に皺を寄せて、話しづらそう⋯⋯というか話しづらいようでした。


「単刀直入に言わせて貰おう。フェニックスを倒して欲しい」


「フェニックス⋯⋯ですか⋯⋯なぜ?素材が欲しいという理由ならお断りさせて貰いますが」


 フェニックス⋯その名前の通り、炎をまとった不死鳥のことです。物理攻撃は無効化され、魔法でないと倒せない、危険でも攻撃魔法使いをパーティーに入れるのはそういう種類の魔物が居るからです。


 強さは魔物の中でも上位に位置し、素材も『永遠に燃え続ける羽』や『高濃度の魔力石』 など、喉から手が出るほど欲しがられるものばかり。


「いや、違う。寧ろ素材なんて欲しくもない。俺は……フェニックスに殺された弟の仇が討ちたいんだ」


「仇……ですか」


「武器を求めてるんだろ?遺体が見つかれば無料でも…それでだめなら、金を払ってもいい」


「わかりました」


「お、おう。即決か……」


「私は天国の弟さんの為を思っただけです」


「場所は……俺が案内する」




  *  *  *  *  *  *



 戦闘の準備を終え、とうとう出発した私たち。


 フェニックスの居る洞窟は、鉱石が良く採れたためライルスさんの弟さんも、鉱石の採集へ行ったところで鬼籍に入ったそうでした。


「本当に、いいのか?」


「はい。勿論です、覚悟も出来ています」


 その言葉にライルスさんは大きく頷き、私に感謝の意を示してくれました。


 洞窟はかなり入り組んでいましたが、ライルスさんは良く鍛冶の材料を手に入れる為に、フェニックスが発見される前は入っていたそうで、道を分かりやすく教えてくれました。


「次の所を左に曲がると、大きな空洞があって、そこにフェニックスがいる」


「分かりました。作戦通り行きましょう」


 フェニックスの火によって、一酸化炭素中毒にならないよう、状態異常にならない魔法を掛けてから戦闘に臨みます。


 まず、ライルスさんがフェニックスの囮としてでていきました。フェニックスは、炎の翼を飛ばしライルスさんへと攻撃しますが、それを剣で切り、消滅させます。凄いです。


 ですが、見惚れている暇はありません。フェニックスには魔法しは通じない、そのためフェニックスの苦手とする水魔法の準備を行いました。


「いきます!」


 そう言うと、ライルスさんは一時退散しました。


「超級水魔法!『ウォータータワー!』」


 すると、フェニックスの足元に魔法陣が出現し、光輝ます。異変を感じたフェニックスですが、もう遅いです。


 今まで、大きな脅威にはであったことが無かったのか、このフェニックスには魔法への知識が無いようでした。


 ぶくぶくと水は出現し出し、柱となって勢いよく発射されます。貫かれたフェニックスは藻掻き苦しみ、その隙に第二の魔法の準備を行います。


「もう一発!神級水魔法!『水神の神弓!』」


 今度は水の弓か手元に出現し、私はこの弓に魔力を込めて発射しました。フェニックスはなんとか避けようと体をよじりますが、そこに二発目の矢を射出、フェニックスの頭を撃ち抜くと活動を停止しました。


「よっしゃあ!倒したぞ!」


 ライルスさんが喜ぶ姿をみて、私もかおが綻びます。


「フェニックスの死体の肉の部分は灰になり、三日後に蘇ります。瓶の中に詰めておけば大丈夫なので、しっかり回収しましょうか」


「そうだな⋯⋯これで弟も報われるってもんだ⋯⋯」


 フェニックスは一分と経たない内に骨と羽、そして魔力石をのこして、後は灰になりました。





 フェニックスを瓶詰めにした私たちは、工房へと戻りました。フェニックスの材料をふんだんに使った武器と防具を作ってくれるようで、私は一週間ほど国で過ごすこととなりました。


 国は前も言ったように潤っていて、食べ物も美味しかったです。特に私が気に入ったのは、ドワーフの国限定のとても大きいハンバーグでした。


 この国の人は、ハンバーガーというものにしたりしていて⋯⋯とにかく私もそれを食べたのですが、とても美味しかったです。


 そして、温泉にも入りました。暖かい温泉は、肌寒いこの地域では大人気で、入ってみると肩こりや、お肌に効きました。


 あっという間に一週間は過ぎ去り、とうとう鍛冶が終わったそうです。


「過去一番の出来だ。武器は魔力の伝導能力が高いフェニックスの骨と魔力石を使って作った杖だ。防具にはここらへんでよく取れるラージビーフという魔物の皮にフェニックスの体毛をつけているからどこでも暖かいローブになったぞ」


「ありがとうございます」


「寧ろ俺が礼をいう立場だろう。それでお金は⋯⋯」


「いいえ、いりません」


「だがお礼がまだ」


「いいえ、お礼はもう貰いました。武器も防具も最高の出来で、大満足です。それに、お金が欲しかった訳ではありませんしね」


「⋯⋯わかった。もし、またここを訪れることがあったら寄っていってくれよな」


「もちろんです」



 それきり、私はその工房を去り、次の国へと向かうノでした。





 












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