イヴェットの憧れは、完璧で美しいものばかりです。
麗しい辺境伯アスヴァルへの想いは、友人から呆れられるほど熱心で、それこそが彼女の理想のすべてでした。
けれど、隣にいる婚約者のユーグは、夢見た恋とは程遠い存在です。
粗野で無骨、言葉を飾ることもなく、優雅とは無縁の男。
顔を合わせるたびに腹が立つのに、なぜかその言葉はいつまでも心に残ります。
流星を見上げる夜、何気なく交わした言葉のひとつひとつが、少しずつ何かを変えていきます。
憧れに焦がれ続けた少女が、ふと現実を見つめたとき、その世界は思っていたよりも温かく、居心地のいいものなのかもしれません。
手に入らない夢ばかり追いかけていた心が、そっと静かにほどけていきます。