第5話 霧の迷宮
知恵の塔を越えたリゼが次に足を踏み入れたのは、一面が濃い霧で覆われた「霧の迷宮」だった。足元は柔らかな苔で覆われ、冷たく湿った空気が肌を包む。迷宮の中には無数の道が入り組んでおり、どこを向いても霧で視界が遮られている。
「この霧の中でどうやって進むの……?」
迷宮を進むたびにリゼは失敗を繰り返した。進んだと思えば行き止まり、戻ればまた同じ道。時折、幻のように現れる輝く像を目指して進むが、それに手を伸ばすと消えてしまう。
「何度やってもうまくいかない……私はこの迷宮から抜け出せないのかも。」
失敗するたびに、リゼの心には疲労と諦めが重くのしかかった。
疲れ果て、リゼは迷宮の中心と思われる場所で立ち止まり、苔の上に座り込んだ。失敗ばかりを繰り返す自分への苛立ちと、どうにもならない現状への無力感。リゼの心は深い霧に覆われるように沈んでいた。
「もう無理かもしれない……。」
ふと頭の中に浮かんだのは、これまでの旅で出会った人々や学んだことだった。燃え尽きの谷で見た炎の花の輝き、知恵の塔で創造した自分の美しさ。それらはすべて、最初から完璧だったわけではなく、試行錯誤の中で形になったものだ。
「諦めるって、本当に私が望むことなの?」
自分の心に問いかけるうちに、リゼの中に小さな炎が灯り始めた。それは、決して消えることのない「もう一度挑戦してみよう」という意志だった。
リゼは再び立ち上がり、ゆっくりと霧の中を歩き始めた。焦らず、一歩ずつ確かめるように進む。そのたびに、霧の濃さがわずかに薄くなるのを感じた。
あるとき、彼女は足元に小さな花を見つけた。それは、迷宮の中で唯一鮮やかな色を持つ花だった。リゼは花を見つめながら、ふと気づいた。
「霧は私の迷いそのものなんだ。この霧を晴らすには、自分の心をクリアにする必要がある。」
リゼは深呼吸をし、自分の心の中にある恐れや焦りを手放すように意識した。すると、霧は少しずつ晴れ始め、迷宮の全貌が明らかになっていった。
迷宮の出口にたどり着いたとき、リゼの顔には安堵と希望の光が宿っていた。失敗に向き合い、あきらめずに歩き続けたことで、リゼはまたひとつ成長したのだ。
迷宮を抜けたリゼは振り返り、静かに呟いた。
「失敗しても、諦めなければ道は必ず開ける。それを教えてくれるための試練だったのね。」
こうしてリゼは、失敗と向き合う強さと、霧の中でも進み続ける勇気を胸に、新たな冒険へと歩みを進めた――。
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