春の緊張と、夏の勇気

卯月まるめろ

第1話 突然の誘い

春菜はるな、忙しかったら全然いいんだけど……今度の土曜、ショッピングモール行かない? プリクラとりたいんだ、その……返事待ってる』



『元』親友からそうメールが来た時、私は口から心臓が飛び出そうになった。


 メールの主、夏葉なつはと左上に書かれたトーク画面には、絵文字やスタンプも何もなく、彼女も緊張しているのが容易に伺える。


「うわあ……どうしよう」


 私は自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。


 なぜ遊びの誘いを受け絶望しているのかって?


 それは私たちの過去に確執があるから。



              ◇◇◇◇◇



「夏葉ちゃんから誘われた? 行けばいいじゃん」


 父親に話しても、返ってくるのは案の定の答え。のらりくらりしないで欲しいと思う。



「あんたも受験勉強に入ったら遊べないよ? 今のうちに遊んどいたら?」


 母親にはそう諭された。正論過ぎてぐうの音も出ない。




(うわあ……どうしよう。夏葉、急にどうした? それに今年受験生だった……)


 私は自分の部屋に戻って再度ベッドに倒れ込む。私も夏葉も共に高校三年。来年には大学生になるか就職するか、はたまた……。


 私は夢も何も考えずに、三年を消費してしまった。


「既読ついちゃったから、早く返信しないと……」


 私はスマホを握りしめる。別の高校に通う夏葉からのお誘いだ。今断れば次は誘ってもらえないかもしれない。


 今は関わりがないとはいえ……完全に縁が切れてしまうのは、少し、寂しい。



『おっけー。待ち合わせ時間、いつにする?』


 できるだけ平静を装って返信した。



 時間や場所の、数件のやりとりのあと、私は夏葉と出かけることになった。

 

 数件交わしたメッセージも、やはり文字のみの味気ないものだった。


 

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