君との「交換日記」

住田沙夜

第1話ー絆ー

ピピピピピ⋯

部屋に鳴り響くのはスマホのアラーム。そして、ベッドに潜っているのはオレンジ色のショート髪「悠」。スマホから鳴るアラームを目を閉じたまま器用に止めた。

「まだでしょ…」

そう言いながら、また夢の中へ…と思っていた。今度は電話が鳴った。一度全身をバタバタさせ、身体を起こす。スマホの画面を覗いた。着信先は親友の「叶」だった。

「そういえば、今何時…!!」

ふと時計を見ると、時刻は午前十時を表していた。冷や汗が出る。

「やばいやばい…」

悠は急いで支度をした。台所の机にはお母さんからの置き手紙があった。

“悠へ・母さんは今日出張だからね。お弁当置いときます。遅刻しないでね”

「はあー?そんなの昨日の夜言ってよ」

ブツブツと文句を言いながら家の鍵を手にしてドアを開けた。


遅刻は確定、悠の足はゆっくりと歩いていた。

学校のチャイムが聞こえてくる。行くのも、もう面倒くさい。いっその事、休んでしまおうか。なんて思っていた。学校の校門を過ぎてから、校舎の方から聞き覚えのある声がする。叶が窓から手を振っていた。

「悠ー、また遅刻?早く来てよー」

「はいはい、今行くよ」

ここは夜桜高校。悠と叶は高校三年生だ。

悠が校内に入る時、叶の「待ってー」という声にまた窓の方を見た。

「ちゃんと持ってきたー?」

悠は左手に持つ交換日記を、叶に見せる。

「持ってきたよー」

「えらいやん!」

叶はにーっと笑顔を見せた。これは悠と叶の絆を結ぶものだ。これがないと、一日が始まらない。そのくらい大事なものだ。悠と叶の友情も信頼もすべてがこのノート一枚ずつに表している、特別なもの。それが、交換日記なのだ。悠と叶は幼稚園からの幼馴染で、幼稚園の頃から交換日記のような物で2人で回しあって思ったことを書く、という事をしていた。


階段を上がり、3Aクラスへ向かった。廊下で叶が待っていた。

叶はピンク色のボブヘアー、そして桜のヘアピンを幼い頃から毎日の様につけている。

「もう遅い!ずっと待っていたんだよ?もしかして…また寝坊?」

叶の言葉にグサッと心に刺さる。叶は悠の事に関しては鋭いし、嘘はつけない。

「そ、そうだよ、朝に弱いの知ってるでしょ」

「そこ、ドヤれないと思うよー」

いつものように席につきながら、話して交換日記を叶に渡す。

「ありっとさん!なんて書いたのかなー」

叶は早速、チラチラと交換日記を開く。

「家で見るって約束じゃなかったの?」

「ああ、そうだった」

叶が交換日記を閉じたのと同時にチャイムが鳴った。またいつも通りの学校生活が始まる。とはいえど、高三の悠と叶は進学を希望だったため受験勉強に取り組んでいた。書き込みきった参考書とノートを広げ、流れるようにペンを動かしていく。そして、いつの間にか下校時間になっていた。

「おー、悠は真面目だね」

通学バックを持った叶は悠の机の前にいた。他のクラスメイトは皆、校舎を出ていた。叶は持っていたバックを床に置き、ちょこんと待っていた。

「これが終わったら、帰るよ。ごめん、待たせて…」

下校時刻のチャイムが鳴った。校内にいる見回りの先生が動き出す合図だ。

「よし!できた、さあ帰ろう」

悠は全ての物をリュックに詰めて、椅子をしまう。

「叶?」

悠は返事をしない叶に違和感を抱えていた。ゆっくりと叶に近づく。叶は目を閉じたまま眠っていた。

「叶はいいなあ、肌も髪も綺麗で。」

そういえば、叶をまじまじと見る機会がなかった。

「てか、立ちながら寝てるし…」

悠は叶の頭をツンと触った。

「…ん、わっ!?」

叶は驚いて後ろの壁にもたれる。悠は「ははっ」と笑っていた。

「ほら、行こう…?」

悠は驚いた。教室は夕焼け色になりつつある、この空間で初めて心が揺れた。

叶の顔は真っ赤に染まっていた。

「叶、どうしたの!?」

悠は叶の頬に手をやる、しかし悪化する一方。

「悠、まだ気づかないな…私さ、悠との関係をさ、変えたくて」

「え、私との?」

悠はしゅんと頭を下げたが、叶は焦り出す。

「違う、そういうことじゃなくて…なんというか、ほら私、悠がいないと生きていけない…というか」

叶は手をぐっと握って話す。いつもと違う叶だ。

「すき。」

そう言葉を放った叶は、悠の目を見つめる。

「あのさ、この交換日記、卒業したらもう止めるね。」

悠はなにも言えなかった。視界に写っていたのは、さっきまでモジモジしていた叶ではなく、堂々とかっこよくみえる叶の姿だった。

「もしさ、私のために生きてくれるなら、愛人として付き合ってほしいんだ。」

教室の窓から差し込んでくる西日が悠と、叶を照らす。まるで映画を見ているかのよう。

「卒業前の下校時までに考えていてほしい。わがままばかりでごめん。」

「…うん、分かったよ」

悠の言葉に安心したのか、叶は交換日記を片手にしバックを持った。

(これがあの告白と言うのか…、でも、女同士だよね…。)

悠は心に霧がかかったかのように、上手く表せなかった。

「さあ行こう、先生来ちゃうよ」

「ああ、そうだった。急ごう」

悠と、叶はなんだかんだで校門から出ることに成功した。

玄関が施錠されていて、担任に注意されたのは悠と叶の秘密になった。


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