ADHD、異世界に転移する。自己肯定感が低い俺が神スキル【神速思考】と【完全記憶】で全てを攻略!自信ゼロから成り上がるハッピーライフは誰にも止められない!最高の仲間と一緒に最強まで駆け上がれ!

☆ほしい

第1話 運命の転移と最強スキル

 俺は朝、いつもと同じように目を覚ました。


 自室の天井を見上げながら、「今日もどうせ大したことはできない」と思っていた。


 そもそも俺はADHDだと診断されてから、自分は何をやってもダメだと考えてしまっている。


 いつも片づけや時間管理がうまくできなくて、周囲からは「だらしないな」とか「集中してないな」と言われてきた。


 でも、まあ今まではなんとか生活できていたから気にしすぎることもない。

 そう自分をなぐさめてきたんだ。


 ところが、その日だけはなぜか人生が変わる出来事が起きた。


 いつも通りにベッドを出て、リビングへ向かおうとドアを開けたら、そこはもう異世界だった。


 まるでゲームに出てくるような森の中に立っていて、薄い霧のせいか視界は少し白っぽい。


 こんな現実離れした光景、普通なら驚くはずなのに、俺は妙に落ち着いていた。


「ここはどこだ?」


 俺は声に出して確認してみる。

 すると、ちょっと離れた場所から美しい女性の声が聞こえてきた。


「あなた、見かけない顔ね。どうしたの?」


 振り向くと、長い髪をゆるやかに結んだ女性が立っていた。


 白いローブを羽織っていて、手には木の杖を持っている。


 優しそうな笑顔でこちらを見つめてくる。


「わからないけど、気づいたらここに来てました」


 そう答えるしかない。


 だって、本当なんだから。


 するとその女性は驚くでもなく、「なるほどね」とうなずいて、俺の肩をそっと叩いた。


「ここはエルトリアの森。私はセレスといいます。何か困っているなら助けるわ。まずは一緒に村へ行きましょう」


 この時点では、どうしてこんなことが起きたのか、まったくわからなかった。


 でもセレスの表情がとても優しかったから、不安よりも安心感のほうが強かった。


 俺は素直に彼女についていくことにする。


 歩きながらいろいろ教えてもらった。


 この世界には魔法が存在していて、人々はそれを使いながら生活しているらしい。


 セレスも治癒魔法を扱えるらしく、遠目から見てもオーラが神秘的だ。


 俺が「俺には何もできないかも」とつぶやくと、セレスは柔らかく微笑んだ。


「本当に何もできない?」


「えーっと、自信はないですね」


「だったらこの世界で、自信がつく何かがきっとあるわ。あなたは見たところ、かなりの才能があるように思えるの」


 こんな風に言われるのは初めてだ。


 嬉しさのあまり俺は少し顔が赤くなったが、セレスは気にする様子もなく先へと進んでいく。


 ほどなくしてたどり着いた小さな村には、陽気な雰囲気が広がっていた。


 村人たちはのんびり穏やかに笑顔で過ごしていて、まるでおとぎ話の中の世界みたい。


 村には俺と同じように異世界から来た冒険者も時々いるらしく、驚かれることはなかった。


 そういった流れで、俺は村の会合所みたいな建物に通され、村長さんらしきおじいさんにあいさつをすることに。


 白いひげが立派で、いかにも温和そうな人。


 彼は俺を見て、にこにこと頷く。


「よく来たのう。ここは平和じゃよ。異世界から来た冒険者も、多くはこの村を拠点にする。もしよければ、ゆっくりしていくがよい」


 こんな温かい歓迎を受けるなんて思わなかったから、俺は少し感動していた。


 会合所に集まっていた何人かの女性たちも、好奇心いっぱいに俺を見ている。


「もしかして、異世界転移者?」


「この世界のこと、何も知らないんだよね?」


「でも転移者の方は、時々すごいスキルを持ってるって聞いたことあるよ」


 そんな言葉が飛び交う中、俺はそういえばステータスとかスキルって、どうなってるんだろうと思い始めた。


 別の世界へ来たのなら、ゲームみたいにステータス画面みたいなものがあるのかもしれない。


 そう考えたら急に試したくなったので、試しに「ステータス」と口にしてみた。


 すると目の前に、透明なスクリーンのようなものが浮かび上がった。


 そこには「シュウ」と俺の名前らしき表示があり、その下にいくつかの項目が並んでいる。


 見慣れない文字で書かれていたけど、不思議と意味は理解できた。


 そこには俺のスキルとして【神速思考】と【完全記憶】の二つが表示されていた。


 まさに何やらすごそうな響きがある。


 でも使い方がわからない。


 試しに【神速思考】に意識を向けてみると、脳内が一気にクリアになる感じがして、周囲の情報が瞬時に頭に入ってくる。


 例えば今、部屋にいる女性たちの動きや目線の先、物音の響き方、温度の微妙な変化まで一瞬で把握できる。


 しかもどう行動すれば好印象を与えられるのか、といった予測も自然に浮かんできてしまう。


 そうだ、俺はADHDでいつも情報処理がまとまらなくて困ることが多かった。


 でもこのスキルを起動した時だけは、頭の中がすっきり整理されて、いくつものことを一瞬で考えられてしまう。


「シュウさん、どうかした?」


 セレスが不思議そうに首をかしげている。


 俺は興奮したまま答えた。


「今、すごいスキルがあるってわかりました。【神速思考】っていうのと【完全記憶】があるみたいで、さっきちょっと使ってみたんですけど、めちゃくちゃ頭が冴えた感じで……」


「それはすごいわ。もし本当に使いこなせたら、きっとあらゆる場面で活躍できると思う」


 セレスの言葉に、村長さんも穏やかな笑みを深める。


 どうやらこの世界では、転移者が珍しい力を持っていることが多く、それを使って冒険者になる人が多いらしい。


 村の近くには魔物が出る場所もあるが、冒険者がうまく対処してくれているから村は平和が保たれているのだとか。


 俺はふと、「よかったら俺も冒険者としてこの村を拠点にしてみようかな」と思う。


 何しろ、この世界でならADHDの俺でも役に立てそうな気がするのだ。


 村長さんは笑顔でうなずいてくれた。


「もちろん歓迎じゃよ。しばらく村で過ごすなら、空き家もいくつかある。好きに使ってくれて構わん」


「いいんですか? ありがとうございます」


「もちろんじゃ。わしらはいつも助けてもらっている立場じゃからのう」


 こうして俺はあっさりと、この世界で暮らす場所を確保できてしまった。


 さらにセレスが「私もあなたに興味あるわ。一緒にいろいろ試してみたい」と言ってくれるからありがたいことこの上ない。


 まさか、こんなにスムーズに物事が進むなんて。


 その日のうちに村の女性たちが協力して、家の掃除や生活用品の準備まで手伝ってくれた。


 みんな俺に愛想よく接してくれるから、俺は緊張するどころか心地よい充実感を味わっていた。


「シュウさん、ここに座っててください。すぐにお茶をいれてきますから」


「え、そんな悪いですよ。俺も手伝います」


「大丈夫。シュウさんはゆっくりしてて。お客さまなんだから」


 こんな風に言われたのは人生で初めてだ。


 俺は思わず笑顔で、「ありがとう」と返事する。


 周りからは「かわいい」なんて言葉まで聞こえた。


 嬉しい反面、ちょっと照れくさいけれど、それよりも「俺ってすごい歓迎されてる?」と実感して心が温かくなった。


 自分に自信が持てなくても、この世界の人たちは俺を否定しない。


 むしろ評価してくれている。


 こんなにも優しい人ばかりの世界なら、きっと俺も自信をつけられると思った。


 思い返せば、ADHDだとわかったときから、ずっと周囲とは違う感覚を持っている気がしていた。


 でもここではその特性すら武器になりそうだ。


「じゃあ、明日は一緒にこのあたりを案内するわ。魔物もいるけど、きっとシュウなら余裕よ」


 セレスの頼もしげな言葉に、俺は素直に「はい」と答える。


 ワクワクが止まらない。


 ようやく自分が活躍できる世界に来たんだと、心から感じられた。


 夜になり、俺は村人たちと夕食を囲んだ。


 焚き火を囲みながら談笑するうちに、普段なら疲れやすいはずの俺も元気いっぱいだ。


 さらにステータス画面を何度か開いてみて、【神速思考】を試してみたら、どう行動すれば好印象かとか、どう話せばみんなが笑顔になってくれるかが即座にわかる。


 おかげでコミュニケーションもうまく進み、いつの間にか村の人気者のようになっていた。


 そしてその夜は、俺専用に用意してもらった家でぐっすりと眠る。


 ふかふかのベッドがありがたい。


 次の日、起きるとセレスが「おはよう」と声をかけに来てくれた。


 今日は村の外へちょっと出かける予定らしい。


「森の少し奥に泉があるから、一緒に行ってみない? きれいなところだし、魔物が出てもあなたのスキルなら対処できると思うわ」


「もちろん行きます。楽しみですね」


 こんなふうに、自信たっぷりに答えられる自分が嬉しい。


 俺は戸締まりをしてセレスとともに村を出る。


 ADHDの特性で、いつもなら何かと落ち着かないのに、この世界ではあまり気にせず過ごせている。


 むしろ【神速思考】を使えば、周りの状況を素早く把握できて便利だと思ってきた。


 セレスは歩きながら、俺の顔を見て笑う。


「あなた、ここに来たばかりなのにもう慣れた様子ね。素晴らしいわ」


「自分でも驚いてるんです。こんなに楽しいなんて思わなかった」


「きっとあなたに合う世界なのね。これからも、いろいろ教えあいましょう」


 何から何まで順調で、俺は嬉しい気分が抑えきれない。


 自分を否定する声なんてひとつも聞こえてこない。


 こうして俺は、新たな世界で最高のスタートダッシュを切ることになった。

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