いくら俺に構ってほしいからって、全校生徒を魔王召喚の生贄にして消したくらいでお前のことを好きになると思うなよ
黒衛
第0話 終わりの日
高校二年の一学期終業式。
同級生の古村さんが全校生徒を生贄に『破滅の魔王』を召喚した。
「やった! やったよ望月君! うまくできた!」
「え? え?」
俺は体育館の入口で呆然と立ち尽くしていた。
体育館の中は一切の人の気配が消え、不気味なまでの静寂に支配されている。
今は一学期を締めくくる終業式が行われる最中であり、そこに参列する六百人以上もの生徒がいたはずだった。しかし古村さんが体育館に向けて謎の儀式めいた行動を起こすと、中にいた全ての生徒が一瞬にして消失したのだ。校長を始めとした数十人の先生達も一緒に。
「ど、どうして」
渇いた喉から言葉が漏れる。
「どうして、こんなことを」
「どうしてって」
古村さんが俺を不思議そうに見上げる。
「言ったのは望月君だよ?」
「え……」
「『破滅の魔王』を呼び出すところ、見せてくれって」
その言葉に背筋が凍りそうになる。
しかし俺を見る古村さんは妙に楽しげで、控えめな笑みすら湛えている。つまり恐ろしいまでにいつも通りの古村さんだった。
「いや、それは……まさか本当にできるとは、思わなかったから……」
「私もできるかは半々だったよ? でも、思い切ってやってみたらできちゃった。それよりほら、あそこに小さい女の子が横たわってる。あれが『破滅の魔王』かな?」
古村さんの興味はもう、消えた人間達には一切向いていなかった。全校生徒の存在と引き換えに現れた小さい女の子の元へ向かおうとする。
俺はそんな古村さんの手首を咄嗟に掴んだ。
まだ日常に縋り付こうとするかのように。
「ど、どうして! いくらなんでもやりすぎだ! 『破滅の魔王』を召喚するために……よりにもよってみんなを生贄にしてしまうなんて! いなくなってしまったみんなは、もう……」
しかし俺はその先を口にすることはできなかった。
古村さんを掴む手が震える。消えた生徒たちの末路。想像することを脳が拒絶しているのだ。
俺の反応を前 に古村さんは「そ、それは……」と初めて視線をさ迷わせる。
「望月君が他の子とばっかり話して……私のこと、全然見てくれないから……」
「え……? なんだって?」
しかしその声はあまりに小さく、俺には聞き取ることができなかった。
「で、でも! これでまた二人になれた……あの時みたいに」
古村さんががばっと顔をあげる。
子どもみたいに瞳を輝かせて、楽しそうに笑っていた。
一日の授業を終えて一緒に帰っていた頃となんら変わらない笑顔だった。
「確かにみんな消えちゃったけど、ちょうど明日から夏休みだったし! 魔王様にお願いして、これから二人で一緒に人類を滅ぼそう! た、楽しみだね……!」
「ああ……ああああ……」
どうしてこんなことになった。
古村さんは何故こんなことをした。
俺は――どこで何を間違えた?
「……望月君?」
「あああ……わあああああああああああ!」
いつしか俺は体育館を背に走り出していた。
叫ぶ声が自分のものだと遅れて気付く。
人は極限状態に陥ると叫んでしまうらしい。
「望月君っ! 望月君っ! 待って!」
誰かが誰かの名前を呼んでいる。
しかし俺はあらゆる現実を拒絶するかのように。
「わああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ただ必死にその場から逃げた。
高校二年の一学期終業式。
それが俺の高校生活、最後の一日だった。
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