第5話 きっと君のせいだ

朝起きた時変な頭痛がした。昨日の事は夢かもしれない。いいや、馬鹿な事を言うのは辞めようあれは現実であり、俺は坪内と昼ごはんを食べた。その事実は変わりない。


朝登校後俺はいつも通り西田に絡まれていた。


「あれ?なんか今日はいつもよりニコニコしてるな〜!」


クソ、こいつは瞳の奥で俺の心情を読み取ってくるから表情を変えても意味が無いんだった。


「俺はいつも通りだが?また瞳の奥で分かったって言うのか?」


俺はどうせ昨日と同じ返答をされると思っていた。だが西田はキョトンとした顔で


「いや?なんかいつもより表情が柔らかいって言うか、薄ら笑ってる?」


「え、、?」


俺は思わず固まる。俺が笑っている?そんな馬鹿な、俺は無表情を貫き通してる男、そんな事は決してない!


「馬鹿な事を言うのは辞めろ。俺の表情が柔らかいなんて言う嘘はやめろ」


「いやいや!本当だって!少し笑顔なんだよ!」


こいつは本当に何を言って居るんだ。頭がおかしい。


「おーい、山本〜!」


「どうした?」


そう言って近づい出来たのは山本俊、ぽっちゃりで体が大きくカ〇ゴン見たいなやつだ。


「なんか神崎いつもより表情柔らかくねぇか?」


「あ〜、確かに。こんな表情俺は初めて見たかもしれない」


おいおい、山本までも何を言っているのか俺が笑顔になる理由なんて…


「また今度お弁当食べようね」


なぜか坪内の声が頭で再生された。いやいや、たかがまた昼ごはんを誘われただけで俺は表情が明るくなったのか?


俺はなんて単純な男なんだと思ってしまった。そもそもまた今度とはいつなのか、そう言う謳い文句で別れただけかもしれない。なんとも言えない気持ちと昨日の嬉しさが入り乱れながら午前中を過した。


そして昼休み、俺は図書室で委員会活動を遵守していた。今日はとても暇だ。返す予定のリストが0人だから今日はずっと寝てられる。


椅子に腰を掛けて脱力感に身を任せて夢の中に落ちて行くだけだ。だが俺の安眠を妨害する者が現れる。


「神崎くんここに居たんだ!」


昨日死ぬほど聞いた声が聞こえた。坪内だ、普段なら睡眠を邪魔されたら苛立ちを覚えるがなぜか今日は嬉しさと言うか、安心感があった。


「なんだよ、わざわざ来たのか?」


「そうそう〜!暇だからさ!」


いやいや、なんで俺なんだよ。いつもの取り巻きはどこ行ったんだよ。そう思ってしまった。だが本当に来てくれたという嬉しさが溢れ出てくる。


「なんでそんなにニコニコしてるの?」


「え?そんな顔してた?ごめん」


「なんで謝るの!人はニコニコしてる方がいいんだよ」


そんな事を言ってくれる人なんて初めてだ。俺の笑顔はかなり変だ。不細工な笑顔と言うか、気味の悪い笑顔だ。


「俺の笑顔は不細工だからさ」


少し笑いながらそう言った。そうしたら彼女は俺の顔をまじまじと見て


「私は好きだな」


俺は思わず恥じらいながら顔をすぐ背けてしまった。今俺の顔は確実に赤い、この顔を見られる訳にはいかない。


「そ、それはありがとう、、」


そっぽ向きながら一応お礼は言った。この人はなぜ恥じらいも無くこんな事を言えるのだろうか、本当に勘弁して欲しい。


「で、何の用でここに来たの」


「特に用は無いけど、なんとなく来ただけ的な?」


こいつは本当に何を言っているのか理解出来ない。俺に話しかけて良いことは無いだろ、周りの女子と話した方がよっぽど楽しいだろう。


「普段周りにいる友達はどうしたんだよ?3人くらい居ただろ」


ここでは友達の事を詳しく言わない方がいい。理由は簡単だ、俺が詳しく知っていると知られると普通にキモイからだ!


「あ〜葵ちゃん達の事?今日は別かな〜」


「そうなのか?いつも仲良さそうに話してるじゃないか、俺よりそっちの方が楽しいだろ」


「う〜ん、それはどうだろう」


坪内はそう言って眉をひそめた。


「確かに楽しいよ、でもね…静かな時間も欲しいんだ」


「坪内さんって意外とそういう所あるよね。ボッチ要素っていうか」


思わず言ってしまった。


「確かにそうかもね。私はたまたま周りの人恵まれてるだけで根は暗いのかも」


そうだ、この人はどこか僕に似ているんだ。周りの目を気にしていて本当の自分を隠してしまう。この前図書室に来た時もそうだ、3人が見てる間はなるべく笑顔でいる様にしていた。ただずっとは無理だから誰も見てない隙に少し表情を崩して本当の顔を表に出していた。


「根は暗いかもしれないですけど、そんな所も含めて周りの人は坪内さんの事を好きなんですよ。少なくとも僕はそうです」


あ、思わず言ってしまった。そう思った瞬間また俺は顔を背けてしまった。


「なんかそういう事を直接伝えられると照れるね」


そう言った彼女の顔を見ると少し赤く染まっていた。本当に申し訳ない事を言った、これではただ気まずくなるだけだ。


何か話さないとこの気まずい空気は消えない!そう思い必死に話題を振り続けた。彼女はその話題全てに答えてくれてとても楽しい時間が過ぎた。楽しい時間はすぐ過ぎるものだ、昼休みがもう終わる。ふと思った


(次はいつ話せるのだろう)


そう思った時彼女に聞こうとしたが僕は聞かなかった。いや、聞けなかった。きっと彼女は気まぐれで僕と話したい訳で予定を付けて話すような間柄では無いと思った。


そうして別れの挨拶をし教室へ帰った。次はいつ話せるのだろう、そう思いながら午後の授業もこなして下校の時間。しばらくテスト週間で部活は無いので基本的にはここでみんな帰宅だ。俺も、もちろん帰ってゲームをしたいので帰宅、の予定だった


「神崎く〜ん!」


遠くから俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。いや、そんなまさかな。今は帰宅途中、まして坪内なんて居る訳が無い。そう思い後ろを振り返る。だがそこに居たのは坪内


「神崎くん家こっち方面なの?私もこっちでさ!なんか見た事ある後ろ姿だな〜って思ったら神崎くんで!」


「まぁ、俺の家はこっち方面だけど」


「やっぱりそうなんだ!じゃあ一緒に帰ろう!」


マジかよ、帰る方向同じなのか、流石にもう来ないと油断してた。


「ま、まぁ帰るくらいなら良いよ」


少したどたどしい喋り方になってしまった。だが彼女は気にする様子もなく


「やった!」


そう無邪気に笑って見せた。それを見て俺も思わず笑ってしまう。


「あ!そんなに笑ってるところ初めて見た!」


そんな事言われたら何故か照れてしまう。でも思う事がある、こんなに俺が笑うようになってしまったのは きっと君のせいだ。

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