桐山、レジスタンス辞めるってよ
粒安堂菜津
#1
◇あらすじ
A国の支配をうけるB国は、長年の抵抗の末、遂に独立をつかみ取った。それも地道なレジスタンス活動があってのことだった。舞台はB国のとある式典会場。そこでは国の英雄「神山」と、彼を称える軍人たちの姿があった。
◇登場人物
神山:B国の英雄(若者と爺さん兼役)
山田:レジスタンス
山本:レジスタンス
男1~5:B国軍人(人手が足りなければ兼役及び減員)
敵:A国兵(声のみ 兼役可)
◇「桐山、レジスタンス辞めるってよ」#1
(ME荘厳な音楽)
(MEに合わせて照明 徐々に点灯)
<軍服を着た男たちが、神山(爺)を囲んでいる>
<全員、手にはグラスを持ち、勝利の喜びに満ちている>
男1 「神山元帥、遂に、遂に我が国の独立が叶いましたな」
男2 「我ら一同、この日のために邁進してきました」
男3 「これも全て、元帥閣下のお力があってこそのものですぞ」
神山 「何を言うかね諸君。この独立は皆の尽力があってこそだ。私の方こそ礼を言わねばならん……ありがとう諸君」
男4 「おやめください閣下。そのようなことは。我らは皆、閣下だからこそ戦えたのです」
男5 「そうですぞ神山元帥。それよりも、久々にあの話をお聞かせください」
神山 「あの話か……好きだのう、ジジイの昔話なんぞ」
男1 「私も閣下から直接お聞きしたいです。ぜひ、お話ししていただけませんか」
神山 「そうか、そうか。仕方ない、しかしまだ祝杯をあげておらんぞ」
男2 「はっ、失礼いたしました。さあ、みんな独立に」
男3 「神山元帥の伝説に」
男4 「我等の勝利に」
全員 「かんぱーい」
神山 「それでは、ジジイの昔話に付き合ってもらうかのう」
(照明 徐々に暗転)
神山 「(モノローグ)あれは、まだワシがレジスタンスの一兵士だったころじゃ」
(舞台は戦場)
(銃撃や爆音、戦場のSE)
(照明 点灯)
<転がり込んで来る、若い神山と、負傷した山田>
神山 「しっかりしろ山田。傷は浅い。生きて帰るぞ」
山田 「神山、俺はもうダメだ。お前だけでも逃げろ」
神山 「馬鹿野郎、俺達は潜入任務に着いていたお前を助けに来たんだぞ。そのお前が死んでどうする。機密情報をボスに伝えるんだろ」
山田 「ああ、そうだった……神山、お前に一つ頼みがある」
神山 「なんだ、なんでも言え、なんだってしてやる」
山田 「ありがとう神山。組織の俺の部屋のベッドの下に」
神山 「ベッドの下に何だ」
山田 「……エロ本が隠してある。あれ、処分してくれないか」
神山 「正気かお前」
山田 「俺はもう死ぬ、だが、あれが見つかるのだけは何としても阻止したい。死んでも死にきれない、死んでも死にきれない」
神山 「ふざけてるのか、しかもこのご時世にエロ本って、スマホがあるだろう」
山田 「スマホじゃダメなんだ。風情がないんだ。スマホには血が通ってないんだ」
神山 「そんな事ないだろう」
山田 「そんな事あるね。エロ本には紙の匂いがある。手触りがある。スマホにはそれがない。ないんだよ」
神山 「お前の言っていることは分からんが、分かった。俺が責任持って処分する。でもな、山田、お前の目の前でだ。だから生きて帰るぞ」
山田 「神山……ありがとう。ありがとう。あとこれを知っているか」
神山 「なんだ」
山田 「桐山、レジスタンス辞めるらしいって」
神山 「桐山が、俺は聞いてないぞ。だがその話、いま必要か」
敵の声 「いたぞ、あそこだ」
神山 「ちっ」
<神山銃を撃つ、やられる敵の声>
<敵に銃を撃ちながら山本登場>
山本 「神山、山田、何をしている。もう敵の本隊が来るぞ」
神山 「山田が撃たれたんだ」
山本 「なに、見せてみろ」
神山 「軍医だった山本が見るなら安心だ、山田、少しの辛抱だ」
山田 「ああ、だがもう目が霞む。神山、あの件、頼んだぞ」
神山 「分かったから、しゃべるな。山本、頼む」
<山田の傷を見ながら話す山本>
山本 「そう言えばお前ら、桐山がレジスタンス辞めるって知ってたか」
神山 「さっき山田に聞いた。親友の俺に何の相談もないなんて……だがその話、いま必要か」
山本 「はっはっは、かすり傷だ。山田、本拠地に帰ったら処置してやる」
山田 「かすり傷……でも血がたくさん出て」
山本 「この程度、大したことはない。人間はそんなに簡単に死なない」
山田 「そうなのか、大丈夫なのか」
神山 「良かったな山田、さあ帰るぞ」
<山田、神山に対して銃を撃つ>
神山 「あぶなっ、何をする山田」
山田 「お前はっ、知ってはいけない事を知ってしまった。口封じだ、死ねー」
<何発も銃を撃つ山田、しかし手元がぶれて神山に当たらない>
神山 「貴様、いい加減にしろ、たかがエロ」
<山田、シーっのジェスチャー>
<神山、シーっのジェスチャー>
山田 「ぐふっ」
<倒れる山田>
山本 「死んだ……」
神山「なぜだ、山田ーっ、簡単に死にやがってーっ、かすり傷じゃないのか」
山本 「いや、致命傷だった、だが奴はA国の機密情報を握っていた、死ぬ前に何とか聞き出したかったのだが」
神山 「くっ、山田っ」
山本 「とりあえず、本拠地に帰るぞ」
神山 「そうだな」
<舞台から退場する神山>
<神山に向かい疑惑の目を向ける山本>
#1 (了)
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