川崎が異界と繋がってしまったので探偵として街の平和を護ります6
@CircleKSK
第1話 東田町のとあるバーにて
川崎市川崎区。人口約23万人で政令指定都市の中心部。異界と現世が入り交じる奇妙な街。川崎という土地は常に奇妙な事件と隣り合わせである。俺はこの街で探偵業を営んでいる。事務所は川崎の仲見世通りにあるカラオケボックス「レインボーブリッジ」の裏手にある雑居ビルの二階。
今日、まとまった額の金が手に入った。一生遊べるほどじゃないが、しばらくは安泰と胸を張れる程度には。
となれば、どうするか?答えは一つしかない。
「いいじゃない、たまにはパーッとやるのもさ」
目の前で酒を傾けるレイが、妖艶な笑みを浮かべる。彼女は異界の住人、普通の人間には到底近づけない領域の女だ。普段は川崎のフルーチェ川崎校で働いているが、今日は俺の貸切だ。金があるときくらい、贅沢をしても罰は当たらない。
「まぁな。たまには派手に使わねぇと、金も腐っちまう」
ここは東田町のカラオケバー。紫煙が立ち込める店内には、曲者揃いの客がたむろしている。だが、今夜はそんな連中のことなど気にしていられない。なにせ、久々に金を手に入れたのだ。
「ところで、佐藤さん」
声をかけてきたのは、レイの顔見知りらしい客引きの男だった。背が低く、痩せぎすで、爬虫類のような目をしている。まるで周囲の闇に溶け込むような気配を漂わせていた。
「ここじゃできない、大人の遊びがあるんだけど……どう?」
「大人の遊び?」
その言葉に、俺は思わずレイと顔を見合わせる。レイは興味深げに微笑み、俺の方を見て「行く?」と小首を傾げた。
酒の勢いもある。どうせ今夜は、金を惜しむ気はなかった。
「乗った」
そう答えた瞬間、男の笑みがさらに歪んだ。そして俺たちは、川崎の裏路地へと導かれることとなった。
細い路地を抜けた先に、雑居ビルの地下へと続く階段があった。鉄の扉の前で、客引きの男が「合言葉」を呟く。すると、扉が音もなく開いた。
その先には——まるで異界そのものが広がっていた。
煌びやかに飾られたカジノフロア。しかし、そこにいるのは人間ではない。人間ではありえないほど長い指を持つディーラー、炎を灯したまま酒を飲む悪魔のような男、壁に溶け込む影のような者たち——異界の住人たちが集う秘密の賭場だった。
俺は圧倒されながらも、息を吐く。
「所詮、ギャンブルだろ。」
そう自分に言い聞かせ、席に着いた。
最初はルーレットやカードゲームで遊ぶ。勝ったり負けたりしながら、酒と興奮に酔っていく。
だが、そこへ奴が現れた。
「お前、面白いな」
低く響く声。振り向くと、カジノのオーナーらしき男が立っていた。異様な存在感を放ち、鋭い目つきで俺を値踏みする。
「普通の人間ならここに入るだけで気を失うのに、随分と余裕じゃねぇか」
「酒が入ってるからな」
俺が肩をすくめると、男はニヤリと笑った。
「ディアボロスだ。このカジノのオーナーってことになってる」
「……ってことになってる?」
「まあ、そんな細かいことはいいだろう。それより、お前——本当の勝負をしないか?」
本当の勝負?
ディアボロスはテーブルを指で叩きながら言った。
「大金が手に入る。もちろんギャンブルだから代償は大きい。ハイリスクハイリターンってやつだ」
レイの眉間にシワが寄る。
「佐藤、やめときなよ。絶対に危ないって」
だが、酒と興奮が、俺の理性を鈍らせていた。
「やってやろうじゃねぇか」
ディアボロスは嬉しそうに微笑み、手を叩く。
「いい度胸だ。じゃあ、始めようか——魂のギャンブルを」
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