美少女戦士やってたら異世界に飛ばされて、悪の魔王に洗脳、支配、再教育されてすっかり悪の手先になりました。──そして愛し合ったふたりは融合して、心、身体は一心同体、ひとつの完全体となる

シンエイ

1章

第1話 美少女戦士、異世界へ

学校のチャイムが鳴り響き、生徒たちが帰り支度を始める中、一人の少女が窓際に座ったまま微笑んでいた。


「アリサ、また部活の手伝いサボる気?」

親友のユカが、机を片付けながら声をかけてくる。


「ううん、今日はちょっと忙しいんだよね。……悪いけど先に帰ってて」


アリサの表情には何か言い訳めいたものがあったが、ユカは特に気にする様子もなく笑った。


「また秘密の用事? 本当、何やってるのか気になるなぁ」


「秘密ってわけじゃないけどね。……それじゃ、また明日!」


彼女の声は明るかったが、その瞳にはどこか使命感のようなものが宿っていた。


アリサは学校を出ると、自宅に直行した。机の引き出しを開け、中から取り出したのは、煌びやかな装飾が施されたペンダント。


「さぁ、今日も頑張るぞ! ──変身!」


彼女がペンダントを握り締めると、体が光に包まれる。制服は輝くかわいいピンクの衣装へと変わった。フリルのミニスカートに、髪も長いポニーテールへと変化、リボンのカチューシャを付けて、──これが美少女戦士「キュンキュアスター」としての姿だ。


「よし、今日も悪を浄化するぞ!」


自分に言い聞かせるように小さく呟きながら、アリサは夜の街へと駆け出した。


その夜、人気のない倉庫街に、不気味な声が響いていた。


「こいつを売りさばけば、俺たちの懐はホカホカだなぁ」

「へへっ、この薬、試しにちょっと使ってみるか?」


闇取引の現場。いかにも怪しげな男たちが集まるその場に、突然声が響く。


「やめなさい!」


暗闇の中から現れたのは、キラキラと輝く美少女。男たちは一瞬驚き、そして嘲笑を漏らした。


「なんだお前、コスプレか?」

「子供がこんなところで何してやがる!」


アリサは胸を張り、凛々しく言い放つ。


「私は美少女戦士キュンキュアスター!この世の悪を浄化する者よ!」


男たちはその言葉に再び笑い出したが、アリサはすでに戦闘態勢を取っていた。


「必殺技、キュンキュアスターバースト!」


眩い光が男たちを包み込む。声を上げて倒れ込む彼らを見下ろしながら、アリサは呟いた。


「ふぅ……悪い人たちにはお仕置きだね」


彼女の顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。だが、その時――空に異変が起こった。


突如、空が赤黒く染まり、風が強く吹き荒れる。


「な、何これ……?」


アリサが戸惑う中、空中に渦巻く光が現れる。それは彼女を目がけて急速に迫ってきた。


「うわっ、ちょっと待って、何なのこれ!?やだ、吸い込まれる……!」


抗おうとするものの、渦は容赦なくアリサを飲み込む。


「きゃあああああ!」


気がつくと、アリサは見知らぬ荒野に立っていた。黒い砂地と薄暗い空。周囲には何一つとして見覚えのあるものがない。


「ここ……どこ?」


呆然と立ち尽くしていると、遠くから足音が聞こえた。アリサがそちらに視線を向けると、黒いローブを纏った女性が立っていた。


「ほう、小娘が迷い込んできたか」


冷たい声に、アリサは全身を震わせた。その存在感だけで、尋常ではない力を感じ取る。


「あなた、誰……?」


「私の名はエイゼル。この地を支配する大魔王だ」


「大魔王……?」


その響きだけで、アリサは全身がこわばるのを感じた。


「お前の力、少し興味がある。だが――私の敵となるなら容赦はせん」


「ちょ、ちょっと待ってよ!私はただ、帰りたいだけで……!」


エイゼルは冷笑を浮かべた。


「ならば、力を示せ。お前が何者なのか確かめさせてもらおう」


アリサは震える体を押さえ、必死に構えを取った。


「……わかったわよ!あんたがどんな大魔王か知らないけど、私は負けない!」


「ふん、愚かだな。小娘が」


アリサは叫ぶ。


「必殺技、キュンキュアスターバースト!」


眩い光がエイゼルに向かって放たれる。しかし――。


「その程度か」


エイゼルが手を軽く振ると、アリサの攻撃はあっさりと霧散した。


「嘘……そんな……」


アリサが愕然としている隙に、エイゼルが手を掲げる。次の瞬間、黒い雷がアリサを襲った。


「ぐっ……!」


倒れ込むアリサ。全身が痛みで動かない。


「貴様に正義を語る資格などない。哀れだな」


エイゼルがアリサに近づき、覗き込む。その瞳には興味深げな光が宿っていた。


「だが、その力……使い方次第では面白くなるかもしれんな」


アリサは必死に声を絞り出す。


「……まだ……負けない……」


エイゼルは冷たく笑い、呪文を唱え始めた。アリサの体が黒い光に包まれ、意識が遠のいていく――。


「エイゼル様……?」


最後に自分の口から漏れたその言葉に、自分自身が最も驚きながら、アリサは深い闇の中へと落ちていった。

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