劣等感と殻

私、ずっと昔から兄を

「ちょっと羨ましい」 

なんて思ってた。


 下の兄は

「周りを惹き付ける力」に長けてた。

 愛嬌があって、声も元気。ちゃんと挨拶もできた。ほら、ご近所受けはとても善い。(でもとてつもなく早口)

 上の兄は

「自分を良く見せる力」がある。

 意外と、好きな相手には積極的。グイグイ行く。

まあ、悪い面もいっぱい親戚とかにも見せていたけど。(ガラス割ったり)

 私は

「空気になる力」に長けてた。

 つまるところ、大人しいとか喋らないとか。だから親戚には名前で呼ばれた記憶があまりない。

 ほんとにこどもの時より、小、中学とかになる頃くらいで、もう興味は示されなくなった。

 元々、社交的なほうでもないから、当たり前だったのだろうか。でも、なんだか寂しい。


「ひとりでそんな遠くまで行けるなんて、すごいね!」

「あのね! ――」

「へぇー! そんな言葉よく知ってるね!」

 アクティブな上の兄。愛嬌たっぷりの下の兄。大人しくあまり笑わないし喋らない妹。

 まあそりゃ、相手になんてされないよね。

 でもね。好きで喋らないとか、笑いたくないなんてわけじゃないの。あんまり自力では、笑えなかったの。


 色んなことから、自分のことを護るために、きっと殻をつくってたんだろうな。

 変だよね。傷つかないためにつくる殻のせいで、もっと傷ついてるなんて。


 あ、今はちょっとずつ変わったの。

 自分の「言葉」を、素敵、綺麗と、褒めてくれるひとが、言葉が響いたって言ってくれるひとが、少なからずいてくれる。

 だからもう、私は言葉を紡ぐことで、自分でつくった殻を、自分の意思で破り、手当てして、歩きたい。落ち込むことも、きっとまだまだあるけど。

 それしかないから。……ううん、違うな。

 それが、あるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る