起き上がった魔王の腹をきらびやかな刺突が襲う。

魔王は咄嗟に『道』で防いだ。

しかし光に触れた穂先は流されず、即座に退く。

首を突く、退く、腿を突く、退く、肩を突く、退く…秒間数十回という速さで攻防するも、一度も槍は流されていない。

極めて単純な理屈である。

クヴォジの槍は無機物ほど猪突ではないのだ。

『道』に促されても一瞬で引き返している。

力技で。

ただそれだけだった。

ただそれだけで、魔王の魔技は特殊能力から半透明の盾に格落ちしていた。

「…………！」

防戦一方の魔王。

魔王より４０ｃｍは大きいクヴォジの操る長さ２ｍ超えの槍はまるで点描の壁だ。

捌けど捌けど分厚く押し返してくる。

柄を掴みにいこうものならその瞬間点が線となり指を落としにくる。

魔王はなるべく『道』に頼らず体術を使う事で活路を探すが、いかんせん接近までに突かれる回数が多すぎた。

「弱者とはご謙遜を…。

こんなに激しく突きまくられると、女なら誰でも果ててしまいますよ」

「フハハハハハッ！

買いかぶってくれるな！

あまりに求めるせいで腰は泣いているぞ！」

またしても突きで遮られ、やむなく『道』で防ぐ…ところへ同時に近い波状で義腕から飛び出た大鎌が払われた。

湾曲した鎌の刃は『道』の外から魔王の背を狙う。

「ぬおおっ！！」

夫には耳を塞いでいてもらいたい野太い悲鳴を出しつつ、辛うじて伏せで避ける。

期せずして跳躍向きの体勢になったが、槍が油断なく引き構えていたので諦め、後方へ飛んだ。

「ほいほいほいほいほいほい！」

槍の間合い外へ出た魔王は床に対し斜めに角度をつけた『道』を作り、足元の破片を機肉問わずでたらめに射出していく。

クヴォジを中心とし円形走しながら手当たり次第に。

「若さとは浅はかな愚かしさだな。

その無様を見ていればわかる」

クヴォジは畳んだ傘で雨を落とし尽くすように槍で大臣とドローンの破片を落としていく。

途中、秘書に射殺され原型丸残しの死体が足払い目的で地滑りさせられてきたのを蹴り飛ばすと、その足を降ろした踏み込みで飛んだ。

勢いに乗せて突く。

そして魔王が避けながら柄に手を伸ばしたので、反射的にそれを払いにいった。

手癖だった。

払おうと勢いづいた槍は『道』の流れに乗った。

「故郷へ帰してあげます」

柄を掴みに伸びた右手の『道』は薙ぎ払いの威力を受け流し、槍を持つクヴォジもまた魔王に接近する形で流された。

魔王の足を掴んだ時と違い、今度は離さない。

そこへ最高強度の建材で造られた床をも砕く踵が振り下ろされた。

「ぎょびゃわわわわあえあああ！！！」

下ろされ…魔王の絶叫が響き渡った。

「かっ、かか…べべぶ、あ゛げ…」

地に仰向けに落ち、意味の無い声を出す魔王。

カカベベブ揚げ、などというものは当然存在しない。

本当に意味の無い、全身の痙攣が肺と喉に出させた音だ。

魔王の肉体は感電による不随意運動中だった。

見下ろすクヴォジ。

義足の甲部分からは飛び出た杖型スタンガンがバチバチ放電している。

手癖による隙を義足の暗器でカバーしたのだ。

「ようやく話ができる状態になったか」

スタンガンを収納し、槍を下向きに構え直す。

「死ね！！」

クヴォジが対話を始めると、魔王に代わって金棒が応えた。