第4話
「うっほすっげーーーーっ!!」
2週間後、魔王一行は公用車の中にあった。
「うほっ床フッカフカ椅子バインバイン!!
はーなにこれ金持ちってこんなの乗ってんのかー」
「…おい、なんだこのわんぱく小僧は」
「あ、ああ、我の補佐だ…すまない。
クガ!少し静かに!」
「ウーッス」
イヴァナカカは配下を1名連れてきていた。
補佐とは言ったが何か仕事を与えたわけではない。
ただの道連れである。
とにかく自分と同じ危険と恐怖を共有する誰かが欲しかっただけだ。
そんな理由と若さと顔で抜擢されたとも知らず、配下…クガは上機嫌だった。
「まあまあ、楽しんで行きましょう。
魔王領から出るまででも3時間半かかりますから。
賑やかすくらいのほうが有り難いですよ」
魔王領は権力を制限するため最小サイズに設定されている。
その中心からクヴォジ領まで3時間半。
城までは20時間以上かかるだろう。
タイパを気にする自分が欲しい年頃のイヴァナカカはおずおずと尋ねた。
「あの…それなんだが…なぜ車移動なのだ?
公用の飛行機くらいあるだろうに…」
「計算したら片道の燃料費だけで75万かかる事がわかりましたので。
2、3ヶ月暮らせる額ですよ?
公費の節約です」
「うははっ!!
さすが元専業主婦!!」
魔王の倹約家ぶりにジォガヘュは和らいだ。
安く済むなら遅くとも構わない…つまりそれは、即断即決を求めてはいない事の現れだからだ。
「さて、とりあえず映画でも見ましょうか」
「スッゲーーーッ!!
テレビ出てきた!!」
魔王の操作でモニターに光が灯る。
その映画の冒頭。
夜景の空撮をバックに
『監督・脚本…サンシン』の文字が現れた。
「なんだ、あやつの映画か?」
「ファンでして」
サンシンの映画は魔界の子なら誰もが通る定番だ。
全作品に共通するテーマは愛、友情、そして努力である。
そのため何度も通った中高年以上の世代や前衛こそ才能と気取る評論家たちには
『マンネリ』『子供だまし』などと酷評されるのもまた定番となっている。
ファンとして悪評も耳に入れているギヘカロバは気遣った。
「替えましょうか?」
「いや、たまにはいい。
次あやつと呑む時の肴にしてやろう」
こうして映画鑑賞が始まった。
イヴァナカカもクガも各自が各自の端末で動画サイト見たほうが絶対いいのに…と思っていたが、それを言い出せるほどには幼くなかった。
「海でけー。
あ、あの船なんか釣ってる」
映画が終わった時、車は海上の橋を渡っていた。
まだ領土の境にも達していない。
「ギヘカロバ」
ジォガヘュが呼ぶ。
「ギーちゃんとかギー助でかまいませんよ」
「いつの話をしとるんだ…今はそういう訳にもいくまい」
「遠慮なさらず。
抵抗できない私のオマ◯◯やお尻の穴まで見たお方が何を今更」
「おいっ…いくらなんでも世相を無視し過ぎだぞ!
ちゃんと公に使える言葉を選べ!
……見ろ!若者たちが引いとる!
ああ違うんだ君たち、わしはこいつのオムツを替えた事があるだけで、それも縁起物だからとこいつの親父に頼まれただけで、わしは、わしは…!」
あたふたする老魔侯を毒婦の笑みで眺める魔王。
彼女はへへ、へへ…と追従笑いする若者たち(56と40)が生むぎこちない空気さえも愉しんでいる。
それを恨めしく思いながらも、ひとしきりあたふたし終えたところで老魔侯は改まって問うた。
「魔王ギヘカロバよ」
「はい」
「クヴォジやズヨカオを説き伏せたとして、或いは処刑したとして…ぬしは魔界が良くなると思うか?
映画の世界のように…」
「魔界の停滞は所詮デーモンエラー(注∶地球におけるヒューマンエラー)。
異常部分を代謝していけば改善は可能でしょう。
電灯を点けるように暗から明へ、とはいかないと断言できますが、病床から離れるように取り戻していく事はできるはずです」
「そうか…」
ジォガヘュはそれ以上深追いしなかった。
バタバタバタバタ…
その時ヘリのローター音が遠くから聞こえてきた。
別段珍しくもない音なので、ギヘカロバは特に気にせず次の映画のセッティングを始めた。
バタバタバタバタバタバタ…!!
だが音源が異様に近づいてきたので外を窺うと、ミサイルを発射してくる戦闘ヘリが見えた。
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